14 / 97
アフターストーリー【不定期更新】
風邪のひきはじめに
しおりを挟む
喉が痛い。うがいをすれば落ち着くかと思ったけれども、痛みは残っている。
「どうかしたのかい?」
彼、こと神様さんが夕食を終えた私に尋ねてきた。食事が進まなかったことで、体調不良を見抜かれている気がする。私は正直に白状することにした。
「職場で風邪をもらってきてしまったみたいで」
私自身はマスクはしっかりしていたし手洗いうがいも忘れてはいなかったのだけど、新年最初の職場に集まった面々は年末年始に寝込んでしまって何もできなかったと訴える者ばかりで、全員が全員健康であるとは言えないありさまだったのだ。
「悪い予感は的中してしまったってわけだねえ」
神様さんは食器の片付けの手を止めて、私の額に手を当てた。さっきまで水を触っていたからだろう、手がひんやりとして心地がいい。
「熱はなさそうだけど、ちゃんと測って記録をつけておこうか。片付けは僕に任せて、弓弦ちゃんは入浴をして先に休んで」
「お言葉に甘えてそうします……」
体温計を棚から引っ張り出して熱を測る。小さな電子音。体温は平熱だった。
スマホに体温をメモしながら、彼の様子を見る。すっかりこの家の住人である。動きに無駄がなく、皿の片付けはすぐに終わった。
「……手慣れてますね」
「一年近くしていたら誰だって慣れるさ」
エプロンを外して片付けをする。そんな仕草がとても自然に見えた。違和感がない。見た目はイケメンだし、こういうことは敬遠していそうな感じなんだけど。
「私は慣れませんでしたよ。この部屋の惨状、覚えていませんか?」
「それは弓弦ちゃんが過労だったからだと思うよ。疲れていては何もできないよ」
「でも、私の仕事が落ち着いていたとしても、この状態は維持できていないと思いますが」
現状の部屋は片付いている。生活感はそれなりにあるのだけど、散らかっていると言われるほどではないはずだ。少なくとも、物を探すときに困るような部屋ではなくなっていた。
私が返せば、彼は不思議そうな顔をする。
「別に僕はこの家の家政婦ではないからね、君がいない間に片付けをしたり掃除をしたりはしていないよ」
「そうなんですか?」
となると、週末に掃除をしているだけなのにこの部屋は維持されているということになる。私が首を傾げると、神様さんはおかしそうに笑った。
「使ったあとに使ったものを元あった場所に片付けているだけなんだよ。放置していないだけ。この家は物が多いからね、物の場所を決めたら特に理由がない限り動かさないようにしてる」
「へえ……」
「弓弦ちゃんは面倒くさがりだから、君ができそうにない時は僕が手を貸してはいるけどね」
「そういうちょっとしたひと手間みたいなのが苦手なんですよ……」
ヘトヘトだと気が回らないし、あとでやろうと放置しているうちに溜まりすぎて何もできなくなってしまう。デスマーチの後なんかは特にヤバかった。
「となると、やっぱり神様さんのおかげじゃないんですかね」
「そうだと嬉しいけど、僕は特別なことはしていないと思うよ」
「神様さん自身がそうお考えだとしても、私は感謝します」
体温計を片付けて、着替えを出しに行く。
私が一人で住んでいたときは体温計はテーブルに出しっぱなしでお風呂場に直行していたことだろう。彼の目があることで、その面倒臭さよりも行動することを選ぶようになった。たぶん、体温計を出しっぱなしにしていたら神様さんは片付けてくれると思うが、そこまで甘えないのが私である。
「お風呂、ゆっくりしてきていいからね」
「はぁい」
誰かといる生活に憧れていたのかもしれない。一緒にいても苦痛にならない相手との共同生活は自分には必要なことだったのだろう。
まあ、苦痛にならない相手なんて滅多に出会えたもんじゃないけど。
手をひらひらと振って見送ってくれる神様さんを見ながら、自分は恵まれているんだろうなとふと思うのだった。
《終わり》
「どうかしたのかい?」
彼、こと神様さんが夕食を終えた私に尋ねてきた。食事が進まなかったことで、体調不良を見抜かれている気がする。私は正直に白状することにした。
「職場で風邪をもらってきてしまったみたいで」
私自身はマスクはしっかりしていたし手洗いうがいも忘れてはいなかったのだけど、新年最初の職場に集まった面々は年末年始に寝込んでしまって何もできなかったと訴える者ばかりで、全員が全員健康であるとは言えないありさまだったのだ。
「悪い予感は的中してしまったってわけだねえ」
神様さんは食器の片付けの手を止めて、私の額に手を当てた。さっきまで水を触っていたからだろう、手がひんやりとして心地がいい。
「熱はなさそうだけど、ちゃんと測って記録をつけておこうか。片付けは僕に任せて、弓弦ちゃんは入浴をして先に休んで」
「お言葉に甘えてそうします……」
体温計を棚から引っ張り出して熱を測る。小さな電子音。体温は平熱だった。
スマホに体温をメモしながら、彼の様子を見る。すっかりこの家の住人である。動きに無駄がなく、皿の片付けはすぐに終わった。
「……手慣れてますね」
「一年近くしていたら誰だって慣れるさ」
エプロンを外して片付けをする。そんな仕草がとても自然に見えた。違和感がない。見た目はイケメンだし、こういうことは敬遠していそうな感じなんだけど。
「私は慣れませんでしたよ。この部屋の惨状、覚えていませんか?」
「それは弓弦ちゃんが過労だったからだと思うよ。疲れていては何もできないよ」
「でも、私の仕事が落ち着いていたとしても、この状態は維持できていないと思いますが」
現状の部屋は片付いている。生活感はそれなりにあるのだけど、散らかっていると言われるほどではないはずだ。少なくとも、物を探すときに困るような部屋ではなくなっていた。
私が返せば、彼は不思議そうな顔をする。
「別に僕はこの家の家政婦ではないからね、君がいない間に片付けをしたり掃除をしたりはしていないよ」
「そうなんですか?」
となると、週末に掃除をしているだけなのにこの部屋は維持されているということになる。私が首を傾げると、神様さんはおかしそうに笑った。
「使ったあとに使ったものを元あった場所に片付けているだけなんだよ。放置していないだけ。この家は物が多いからね、物の場所を決めたら特に理由がない限り動かさないようにしてる」
「へえ……」
「弓弦ちゃんは面倒くさがりだから、君ができそうにない時は僕が手を貸してはいるけどね」
「そういうちょっとしたひと手間みたいなのが苦手なんですよ……」
ヘトヘトだと気が回らないし、あとでやろうと放置しているうちに溜まりすぎて何もできなくなってしまう。デスマーチの後なんかは特にヤバかった。
「となると、やっぱり神様さんのおかげじゃないんですかね」
「そうだと嬉しいけど、僕は特別なことはしていないと思うよ」
「神様さん自身がそうお考えだとしても、私は感謝します」
体温計を片付けて、着替えを出しに行く。
私が一人で住んでいたときは体温計はテーブルに出しっぱなしでお風呂場に直行していたことだろう。彼の目があることで、その面倒臭さよりも行動することを選ぶようになった。たぶん、体温計を出しっぱなしにしていたら神様さんは片付けてくれると思うが、そこまで甘えないのが私である。
「お風呂、ゆっくりしてきていいからね」
「はぁい」
誰かといる生活に憧れていたのかもしれない。一緒にいても苦痛にならない相手との共同生活は自分には必要なことだったのだろう。
まあ、苦痛にならない相手なんて滅多に出会えたもんじゃないけど。
手をひらひらと振って見送ってくれる神様さんを見ながら、自分は恵まれているんだろうなとふと思うのだった。
《終わり》
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる