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神さま(?)拾いました【本編完結】
31.スマホの電源はいれておけ
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「ところで、そのニュースは通知で入るようなものなの?」
上着を羽織って帰る支度をしている兄に尋ねる。ニュースアプリか何かの機能で特定の地域が含まれる記事はポップアップできるようにでもしているのだろうか。ついプログラマ思考で聞いてみれば、兄は不思議そうな視線を私に向けた。
「これはこの地域の防災アプリの通知から飛んだ記事だ。緊急性の高い災害とか事件事故とか、すぐに知りたいだろ。仕事中はテレビもラジオもつけてないし」
「……ああ、そんなのあったわ」
説明されて、私は手をポンと合わせた。特に設定していなくても地震速報は届くからあまり気にしたことがなかった。
「弓弦……スマホに入れてないのか?」
「いや、だって、あまりこの家にいないし」
「そんなだから近所の凶悪事件もスルーしちまうんだよ」
大きなため息をつかれてしまった。
別に知らなくても今まで問題なかったし。
「アプリ入れとけとまでは強制しないが、スマホの電源は入れろ、今すぐ」
「ええ……いやなんだけど」
「嫌とか言ってる場合か。泊まり込むぞ」
兄が家に居座ること自体は精神的にはなんの問題もないのだが、一人暮らしの部屋に男女三人は狭い。兄は大柄な男性であるからなおさら。
「へいへい、わかりましたよぉ……ケイスケから連絡が来たら出てよ?」
私は逡巡して、渋々寝室までスマホを取りに行く。ちゃんと充電器に刺さっているあたり、神様さんがやってくれているのだろうか。
「はい。電源入れますよー」
スマホを掴んで兄の元に戻り、電源を入れる。ちゃんと起動した。
「通知はなさそうだな」
「そうね」
特に見られても困らないので、兄と一緒に画面を見る。通知は全くなかったわけではなく、ゲーム関連のメッセージが幾つか表示されただけで、仕事関連のメッセージもないらしかった。
「留守電の機能も使っておけよ」
「本体のはオンにしてるよ。電源切ってると使えないだけで」
「……なら、いいか。とにかく、電源は切らないこと、充電も切らせないこと。わかったな?」
「切れたらアニキが飛んでくるってことは学びました」
「よろしい」
これでも反省しているのである。アニキを駆けつけさせるのは気が引ける。
兄は満足げに頷いた。
「そっちは」
神様さんを見つめて、兄は真面目な顔をする。
「弓弦の負担になるようなことはしないでほしい。弓弦の願いであっても、だ」
「うんうん。大丈夫だって。任せておいてよ」
「信用ならんが……信じるしかないんだよな……」
「梓くんも気をつけてね。ここに通っているのは僕としては悪いことじゃないんだけど、よく思わないモノもいるだろうから」
含みのある言葉だ。兄は怪訝そうに顔をしかめた。
「よくわからんが、わかった。御守りは持ち歩いているから、問題ない」
「そう。確かに御守りは大事だ」
玄関で靴を履く。お別れの時間だ。
「じゃあ、おやすみ、弓弦」
「アニキもおやすみ。風邪には気をつけてね」
「んじゃ」
片手を上げて、兄は玄関を開ける。外の様子を充分に確認して静かにドアを閉めていく。私はすぐに家の鍵をかけた。
「……アニキにも何かあるんですか、神様さん?」
神様さんがアニキにかけた言葉が引っかかる。尋ねれば、神様さんはにこやかな顔で首を横に倒した。
「梓くんは僕みたいなものに好かれる体質ではないけど、怖いものは怪異の類だけじゃないからね。人間の恨みは厄介だよ」
「それは私がらみなんですか?」
「そうだと応えたら、弓弦ちゃんは梓くんのために僕の力を使うのかい?」
口元だけが愉快げに笑っている。
これは、誘惑。
「使いませんよ」
「大事なお兄さんなんでしょ?」
「それは認めますけど、私がそうしても、アニキは喜ばないから」
はっきりと返せば、神様さんは残念そうに笑った。
「そっかあ」
「惜しかったですね」
「うん?」
「アニキがああいう性格じゃなければ、私はあなたの誘いに乗ったかもしれない」
私は笑う。神様さんはきょとんとした。
「なあんて、ね。私は自分を犠牲にしてまで誰かを助けたいなんて思えない人間ですよ。とっても利己的な人間です。神様さんの力でなんとかできるとしても、それは全て自分のために使いますよ。誰かを助けたことで自分を満たそうだなんて考えない、自分の善性の証明のために神様さんを利用しない」
「それで、犯人探しに消極的だったのかい?」
「そうですね。知った情報を提供することはやぶさかではないですが、積極的に探しに行こうとは思えません。聖人ではないので」
「聖人じゃない、ね」
ふぅと神様さんが小さく息を吐き出したところで、私のお腹がぐぅと鳴った。
「あはは。ご飯にしようか。温めるだけなら僕に任せてよ」
「じゃあ、お願いできます?」
「そうそう、梓くんからのお届け物もあるよ」
作業に動き出した神様さんの言葉で、テーブルの下にそこそこ大きめの紙袋が置かれていることに気がついた。プロジェクターである。
――ってか、メインはそっちじゃないの?
プロジェクターを貸してもらう約束をしていたから兄は来たはずなのに、貸し借りは家を訪ねるための口実だったということか。私は小さく笑う。
「今夜は寝られそうにないので、なにか動画でも観ましょうか?」
「えー、イチャイチャするんじゃなかったのかい?」
「それは気が向いたら、で」
「おお、拒絶されなくて嬉しいなあ。その気になってもらえるように頑張るよ」
「頑張るところはそこじゃないですよ……」
しょうもないやり取りをして笑い合う。今は、この時間が楽しく思えた。
上着を羽織って帰る支度をしている兄に尋ねる。ニュースアプリか何かの機能で特定の地域が含まれる記事はポップアップできるようにでもしているのだろうか。ついプログラマ思考で聞いてみれば、兄は不思議そうな視線を私に向けた。
「これはこの地域の防災アプリの通知から飛んだ記事だ。緊急性の高い災害とか事件事故とか、すぐに知りたいだろ。仕事中はテレビもラジオもつけてないし」
「……ああ、そんなのあったわ」
説明されて、私は手をポンと合わせた。特に設定していなくても地震速報は届くからあまり気にしたことがなかった。
「弓弦……スマホに入れてないのか?」
「いや、だって、あまりこの家にいないし」
「そんなだから近所の凶悪事件もスルーしちまうんだよ」
大きなため息をつかれてしまった。
別に知らなくても今まで問題なかったし。
「アプリ入れとけとまでは強制しないが、スマホの電源は入れろ、今すぐ」
「ええ……いやなんだけど」
「嫌とか言ってる場合か。泊まり込むぞ」
兄が家に居座ること自体は精神的にはなんの問題もないのだが、一人暮らしの部屋に男女三人は狭い。兄は大柄な男性であるからなおさら。
「へいへい、わかりましたよぉ……ケイスケから連絡が来たら出てよ?」
私は逡巡して、渋々寝室までスマホを取りに行く。ちゃんと充電器に刺さっているあたり、神様さんがやってくれているのだろうか。
「はい。電源入れますよー」
スマホを掴んで兄の元に戻り、電源を入れる。ちゃんと起動した。
「通知はなさそうだな」
「そうね」
特に見られても困らないので、兄と一緒に画面を見る。通知は全くなかったわけではなく、ゲーム関連のメッセージが幾つか表示されただけで、仕事関連のメッセージもないらしかった。
「留守電の機能も使っておけよ」
「本体のはオンにしてるよ。電源切ってると使えないだけで」
「……なら、いいか。とにかく、電源は切らないこと、充電も切らせないこと。わかったな?」
「切れたらアニキが飛んでくるってことは学びました」
「よろしい」
これでも反省しているのである。アニキを駆けつけさせるのは気が引ける。
兄は満足げに頷いた。
「そっちは」
神様さんを見つめて、兄は真面目な顔をする。
「弓弦の負担になるようなことはしないでほしい。弓弦の願いであっても、だ」
「うんうん。大丈夫だって。任せておいてよ」
「信用ならんが……信じるしかないんだよな……」
「梓くんも気をつけてね。ここに通っているのは僕としては悪いことじゃないんだけど、よく思わないモノもいるだろうから」
含みのある言葉だ。兄は怪訝そうに顔をしかめた。
「よくわからんが、わかった。御守りは持ち歩いているから、問題ない」
「そう。確かに御守りは大事だ」
玄関で靴を履く。お別れの時間だ。
「じゃあ、おやすみ、弓弦」
「アニキもおやすみ。風邪には気をつけてね」
「んじゃ」
片手を上げて、兄は玄関を開ける。外の様子を充分に確認して静かにドアを閉めていく。私はすぐに家の鍵をかけた。
「……アニキにも何かあるんですか、神様さん?」
神様さんがアニキにかけた言葉が引っかかる。尋ねれば、神様さんはにこやかな顔で首を横に倒した。
「梓くんは僕みたいなものに好かれる体質ではないけど、怖いものは怪異の類だけじゃないからね。人間の恨みは厄介だよ」
「それは私がらみなんですか?」
「そうだと応えたら、弓弦ちゃんは梓くんのために僕の力を使うのかい?」
口元だけが愉快げに笑っている。
これは、誘惑。
「使いませんよ」
「大事なお兄さんなんでしょ?」
「それは認めますけど、私がそうしても、アニキは喜ばないから」
はっきりと返せば、神様さんは残念そうに笑った。
「そっかあ」
「惜しかったですね」
「うん?」
「アニキがああいう性格じゃなければ、私はあなたの誘いに乗ったかもしれない」
私は笑う。神様さんはきょとんとした。
「なあんて、ね。私は自分を犠牲にしてまで誰かを助けたいなんて思えない人間ですよ。とっても利己的な人間です。神様さんの力でなんとかできるとしても、それは全て自分のために使いますよ。誰かを助けたことで自分を満たそうだなんて考えない、自分の善性の証明のために神様さんを利用しない」
「それで、犯人探しに消極的だったのかい?」
「そうですね。知った情報を提供することはやぶさかではないですが、積極的に探しに行こうとは思えません。聖人ではないので」
「聖人じゃない、ね」
ふぅと神様さんが小さく息を吐き出したところで、私のお腹がぐぅと鳴った。
「あはは。ご飯にしようか。温めるだけなら僕に任せてよ」
「じゃあ、お願いできます?」
「そうそう、梓くんからのお届け物もあるよ」
作業に動き出した神様さんの言葉で、テーブルの下にそこそこ大きめの紙袋が置かれていることに気がついた。プロジェクターである。
――ってか、メインはそっちじゃないの?
プロジェクターを貸してもらう約束をしていたから兄は来たはずなのに、貸し借りは家を訪ねるための口実だったということか。私は小さく笑う。
「今夜は寝られそうにないので、なにか動画でも観ましょうか?」
「えー、イチャイチャするんじゃなかったのかい?」
「それは気が向いたら、で」
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