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アフターストーリー【不定期更新】
期間限定スイーツを。
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アニキのお店はバレンタインに合わせたチョコレートのメニューが出る。期間限定。毎年その話題を聞かされていたものの、仕事が忙しくて帰宅もままならず、たまの休日は寝て過ごしてきた私には縁のないものだと思っていた。
「――で?」
情報処理が追いつかない。目の前にあるチョコレートがかかったソフトクリームが載るこの飲み物らしきスイーツはなんだろう。
珍しく定時で帰宅した私に、神様さんは謎のスイーツを差し出してきたのだった。
「ほら、ばれんたいんっていうの? ちょこれえと味の物をこの時季は用意するものなんだって梓くんが教えてくれたんだよ」
神様さんはにこにこ顔で説明してくれた。
なるほど、アニキが神様さんをバイトに使っているときに教えたということか。
よくよく思い出せば、二月の期間限定メニューはバレンタインに合わせてチョコレート味の商品を用意している。つまりこれはお店で出している期間限定商品ということだろう。
「それを私に?」
「疲れているときには甘いものがいいと思うんだよねえ。梓くんが作ったものを真似てみたんだ。どうかい?」
「美味しそうです」
「それは良かった。まあまあ、そこに座ってよ。僕が食べさせてあげるから」
座らないという選択肢もあったが、とにかくお腹がへっている。ここは甘えておこうと思い、素直に椅子に腰を下ろした。
「ふふ。素直だね」
「余計な体力を使うのも、時間が経って溶けてしまうのも勿体無いでしょう?」
さあよこせとばかりに口を開けると、神様さんは柄の長いスプーンで一口すくって口の中に突っ込んでくれた。ひんやりとした後に、想像したよりもビターなチョコの味が広がる。
「あんまり甘くないんですね」
「君はこういう味の方が好みでしょ?」
「それは……そうですけど」
甘味は好きではあるけれど、とても好きというわけでもない。ほどよい苦味があったほうがより好きであると自覚している。
「ふふ。すいーととびたーの二種類があってね、僕は君にはびたーがいいって思ったんだ」
「ちなみに、どっちが人気なんですか?」
「どっちも同じくらい人気があるかな。客層が違うんだよね。あと、今年の二月は暑いから、こういう冷たい商品が思ったより売れてる」
「雪が降ったり上着が不要だったり、忙しい気候ですけどね……」
「雪のときは、この商品は失敗だったかなって思ったらしいんだけどね、なんとも言えないよねえ」
神様さんはそう応えて楽しげに笑う。アニキの店でバイトをするようになって、仕事の考え方を学んできているらしかった。
アニキは神様さんをどうしようって思っているんだか。
手懐ける方向で声を掛けたはずだろうに、思惑からずれているような気がする。まあ、神様さんはちゃんと仕事はできているようなので、面白がっているのかもしれない。
「ソフトクリームの下はフラッペですか?」
「うん。珈琲味で、ちょっと甘味が足してある。氷に砂糖を入れておいたほうが柔らかい氷になるから、だったかな」
「へえ」
カップをくれと手を出して催促すると、神様さんはスプーンも添えて私に差し出した。
「僕にもあーんってしておくれよ」
「いいですよ」
私は躊躇せずにチョコがかかったソフトクリームをスプーンですくって食べさせる。今は互いに健康だし、同じ食器を使っても問題ないだろう。
間接キス。
「……ふふ、美味しい」
嬉しそうに微笑んで、神様さんは満足げに立ち上がる。
「それを食べながら待ってて。夕食の準備しちゃうから」
「私もやりますよ」
「いいんだよ、甘えてくれて。しばらく遅かったから、ゆっくりしておいてよ」
「……じゃあ、お願いします」
私が告げれば、彼はエプロンをつけて手慣れた様子で夕食の準備を始める。
最近は包丁を使って調理をすることが増えていた。私よりもずっと料理ができるようになっている。バイトで慣れたということもあるらしい。
一応、神様のはずなんだけどな……
こうして背中を見ていると、同じ歳くらいの青年である。私好みの顔と体型を持ったイケメンでもあるが、外見や言動が自然に馴染んできていて怪異であることを忘れそうになる。
私は気を許しすぎただろうか。
「弓弦ちゃん?」
「はい?」
急に名前を呼ばれるとびっくりする。神様さんは私の思考を読もうと思えば読めることを失念していた。
彼は手を止めて私を見た。
「今は僕の好きなようにさせておくれよ。甘えてくれていいんだよ?」
「今日は私なりにめっちゃ甘えていますけど」
「うん、ちょっと驚いちゃうくらい、今日の君は素直で可愛いよ」
「じゃあ、それでいいじゃないですか」
「あんまり可愛いと、君を食べてしまいたくなるよ」
「それ、警戒したほうがいいってことですか?」
「ふふ。君がその気ならって思っただけさ」
そう応えて、神様さんは調理に戻る。
怪異に真意なんてないんだろうな……
何を考えているのかわからないのは、彼が人間じゃないせいだ。そう思い込むことにして、私はスイーツを口に運ぶのだった。
《終わり》
「――で?」
情報処理が追いつかない。目の前にあるチョコレートがかかったソフトクリームが載るこの飲み物らしきスイーツはなんだろう。
珍しく定時で帰宅した私に、神様さんは謎のスイーツを差し出してきたのだった。
「ほら、ばれんたいんっていうの? ちょこれえと味の物をこの時季は用意するものなんだって梓くんが教えてくれたんだよ」
神様さんはにこにこ顔で説明してくれた。
なるほど、アニキが神様さんをバイトに使っているときに教えたということか。
よくよく思い出せば、二月の期間限定メニューはバレンタインに合わせてチョコレート味の商品を用意している。つまりこれはお店で出している期間限定商品ということだろう。
「それを私に?」
「疲れているときには甘いものがいいと思うんだよねえ。梓くんが作ったものを真似てみたんだ。どうかい?」
「美味しそうです」
「それは良かった。まあまあ、そこに座ってよ。僕が食べさせてあげるから」
座らないという選択肢もあったが、とにかくお腹がへっている。ここは甘えておこうと思い、素直に椅子に腰を下ろした。
「ふふ。素直だね」
「余計な体力を使うのも、時間が経って溶けてしまうのも勿体無いでしょう?」
さあよこせとばかりに口を開けると、神様さんは柄の長いスプーンで一口すくって口の中に突っ込んでくれた。ひんやりとした後に、想像したよりもビターなチョコの味が広がる。
「あんまり甘くないんですね」
「君はこういう味の方が好みでしょ?」
「それは……そうですけど」
甘味は好きではあるけれど、とても好きというわけでもない。ほどよい苦味があったほうがより好きであると自覚している。
「ふふ。すいーととびたーの二種類があってね、僕は君にはびたーがいいって思ったんだ」
「ちなみに、どっちが人気なんですか?」
「どっちも同じくらい人気があるかな。客層が違うんだよね。あと、今年の二月は暑いから、こういう冷たい商品が思ったより売れてる」
「雪が降ったり上着が不要だったり、忙しい気候ですけどね……」
「雪のときは、この商品は失敗だったかなって思ったらしいんだけどね、なんとも言えないよねえ」
神様さんはそう応えて楽しげに笑う。アニキの店でバイトをするようになって、仕事の考え方を学んできているらしかった。
アニキは神様さんをどうしようって思っているんだか。
手懐ける方向で声を掛けたはずだろうに、思惑からずれているような気がする。まあ、神様さんはちゃんと仕事はできているようなので、面白がっているのかもしれない。
「ソフトクリームの下はフラッペですか?」
「うん。珈琲味で、ちょっと甘味が足してある。氷に砂糖を入れておいたほうが柔らかい氷になるから、だったかな」
「へえ」
カップをくれと手を出して催促すると、神様さんはスプーンも添えて私に差し出した。
「僕にもあーんってしておくれよ」
「いいですよ」
私は躊躇せずにチョコがかかったソフトクリームをスプーンですくって食べさせる。今は互いに健康だし、同じ食器を使っても問題ないだろう。
間接キス。
「……ふふ、美味しい」
嬉しそうに微笑んで、神様さんは満足げに立ち上がる。
「それを食べながら待ってて。夕食の準備しちゃうから」
「私もやりますよ」
「いいんだよ、甘えてくれて。しばらく遅かったから、ゆっくりしておいてよ」
「……じゃあ、お願いします」
私が告げれば、彼はエプロンをつけて手慣れた様子で夕食の準備を始める。
最近は包丁を使って調理をすることが増えていた。私よりもずっと料理ができるようになっている。バイトで慣れたということもあるらしい。
一応、神様のはずなんだけどな……
こうして背中を見ていると、同じ歳くらいの青年である。私好みの顔と体型を持ったイケメンでもあるが、外見や言動が自然に馴染んできていて怪異であることを忘れそうになる。
私は気を許しすぎただろうか。
「弓弦ちゃん?」
「はい?」
急に名前を呼ばれるとびっくりする。神様さんは私の思考を読もうと思えば読めることを失念していた。
彼は手を止めて私を見た。
「今は僕の好きなようにさせておくれよ。甘えてくれていいんだよ?」
「今日は私なりにめっちゃ甘えていますけど」
「うん、ちょっと驚いちゃうくらい、今日の君は素直で可愛いよ」
「じゃあ、それでいいじゃないですか」
「あんまり可愛いと、君を食べてしまいたくなるよ」
「それ、警戒したほうがいいってことですか?」
「ふふ。君がその気ならって思っただけさ」
そう応えて、神様さんは調理に戻る。
怪異に真意なんてないんだろうな……
何を考えているのかわからないのは、彼が人間じゃないせいだ。そう思い込むことにして、私はスイーツを口に運ぶのだった。
《終わり》
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