不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】

ハグの日に

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 店長は俺がいることで浮かれがちなのかもしれない。昨日は国際猫の日ということで俺を可愛がったのだが、今日もどことなくそわそわとしている。

「――別に、何かの繋がりを意識して仕掛ける必要はないと思うんだが」

 昼休み、誰もいなくなった店内で、俺は店長に声をかける。
 店長はグラスを拭いていた手を止めた。

「君は無防備だから、何か仕掛けようと思えばいつでもなんでもできる」
「別に無防備じゃねえし。店長が格上すぎるから、隙をつかれやすいだけだってぇの」

 仕事中に気を抜くわけがない。この喫茶店は人間以外もやってくる。多くは雑談や情報収集を兼ねて立ち寄るわけだが、なかには危害を加えるつもりでやってくる者もいる。油断は禁物だ。

「そうなのかい?」
「心外だな」

 心配されるのはやぶさかではないのだが、仔猫を扱うようなつもりで対応されるのは気に食わない。

「こうして二人きりのときは気が緩んでいるように感じられたのだが、違うのかな」
「休憩時間くらいは気が緩むだろ。いつまでも緊張状態でいられるかよ」
「なるほどなるほど。信用されてはいた、ということだね」
「んだよ、信用しているって話はしてるだろ」

 なにか不審がられるようなことをしただろうか。俺は疑問に思う。

「それならよいのだが」

 店長の様子が引っかかるが、食事を取らねばならない。俺はくるりと向きを変えて片手を上げる。

「んじゃ、俺は飯食いに下がるぜ」
「獅子野くん」

 声をかけられて、振り向こうとしたときには店長に抱きすくめられていた。

「ん、な、なんだ?」

 転びそうになったわけでもないのに背後から抱きしめられてしまい、俺は戸惑う。不用意に暴れると物を落としたり壊したりしそうで、ひとまずおとなしくやり過ごすことにする。

「――すまないね。少しだけ、君に触れたいんだ」
「ハグの日だからじゃなくて?」

 昨日の様子から少し妙ではあった。
 百目鬼店長の纏う気配が不安定なのだ。

「ハグの日にかこつけて迫ってもよかったのだが……余裕がない」
「ん。今夜は泊まりでもいい。どこかで花火は上がるだろ、土曜日だし」
「ああ、それはいい」

 店長は俺の首元を吸って、ようやく離れた。
 俺は改めて店長の顔を見る。

「青い顔してんじゃねえか。気づかなくて悪かった」
「気づいていたから煽ってきたのかと思ったのだが」
「煽ってねえし」

 噛みつくように返すと、店長は小さく噴き出してから笑った。

「君は本当に無防備だ。僕のそばにいても変異しないのは僕にとって有り難いことではあるのだが、それに乗じて僕自身が変わってしまいそうだ」
「ん……? それが悪いことなら、俺はしばらく休んでもいいんだが」

 充分すぎる給料のおかげで、二、三週間休むことになっても全く構わない。節制すれば一年くらいは余裕で過ごせる。
 俺が提案すると、店長は困ったような顔をした。

「君に会えないのは寂しい」
「……そうかよ」
「それこそ僕が変わってしまいそうだ」
「休まねえから口説くのはやめてくれ」
「おや、可愛がりが足りないのかと思ったのだが」
「そこは要らねえよ……」

 大きなため息をつくと、盛大なお腹の音が店内に響き渡った。

「引きとめて悪かったね。昼食を食べるといい。今日も君の好物を用意したよ」
「了解。――とにかく、俺の今夜の予定は空いているから、気兼ねなく誘ってくれ」
「そうだね。調べておくよ」

 そう返すのを聞いて、俺はスタッフルームに向かうのだった。


《終わり》
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