不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌【短編集】

名づけは慎重に

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 昼食に訪れた客がすべて出て行く十四時過ぎは、おやつを求めてやってくる客が入ってくるまで店内は静かである。昼食の時間帯で満席になった時点でオーダーストップにして、外看板をクローズに切り替えるからだ。そうしておかないと俺たちの休憩時間を確保できない。
 今日は昼食のピークが早かったお陰で俺は充分な休憩を取れた。落ち着いた気持ちで勤務の後半も過ごせそうだ。
 ドアに掛けてある看板をオープンに切り替えて俺がホールに戻ると、丸い眼鏡をかけた長身の男性がスタッフルームから出てきた。彼が店長だ。名を百目鬼(どうめき)という。

「なあ店長。この店、百鬼夜行っていうのにどうして夜は店を閉めるんだ?」

 モーニングをやりたいという店長の無茶振りで朝は七時から開店しており、それゆえに閉店は冬は十七時、夏でも十八時である。
 スタッフが少ないってのはまあわかるんだが。俺たち以外のもう一人は余程のことがなけりゃ出勤しねえし。
 俺と店長ともう一人の三名で、カウンター席が三つ、四人掛けのテーブル席が二つの喫茶店をまわしている。朝も昼も席が埋まるので忙しいのは間違いない。
 俺の問いに、店長はうーんと小さく唸った。

「強いて言うならば、ホンモノの百鬼夜行になってしまったら困るから、かな」
「…………」

 その返事に、俺は納得してしまった。朝はモーニング目当てに列ができることもあるくらいなのだ。夜に行列ができたら、百鬼夜行と間違われてしまうかもしれない。
 このカフェに通う者たちは人間とは限らないのだ。

「ふふっ、そこまで繁盛することはないから心配は要らないよ」

 俺が黙ってしまったのを不安がっていると店長は解釈したらしかった。安心させるように微笑んでくる――いや、これは俺をからかっているやつか?

「ちげえよ」
「だが」
「なんだ?」

 不穏な気配がする。俺は耳を澄ます。
 店長の眼鏡が光った。

「僕が夜に店を開かない理由は他にもあってね」
「ん?」
「喫茶百物語にするか店名を悩んでいた時期があって――」
「何か召喚するつもりだったのかよ……」

 何やらすごい能力を持っている店長が百物語を実行したら、何が起こるかわかったものではない。言霊というものがあるわけで、店の名付けは慎重になるべきだろう。現実になったら面倒だ。
 まあ、悪しきものが出てきても一瞬でぶった斬るなんて、店長にとっちゃ造作ねえことだろうが。
 店長は笑って言葉を続ける。

「客から相談話を聞くつもりなら、百物語だなんて名前は厄介だから辞めておいたんだ」
「それは賢明な判断だ」

 俺が安堵していると、店長の眼差しが急に優しくなった。

「なんだよ」
「この店でちょうど百の物語を集めたところで君が転がり込んできたからね。これは奇妙な縁だなあと思って雇うことにしたんだ」
「は?」

 どんな顔をしたのかわからないが、店長が愉快そうに腹を抱えて笑いを堪えている。

「おい、冗談だよな」

 俺の知る限りではこの店は数年前からここにある。百の物語が集まるまでにそんなに時間がかかるとは思えない。俺がこの店で仕事をするようになってからは、奇妙な事件や噂話に事欠かないからだ。
 俺が少し震えながら尋ねると、店長はニコニコした。

「さて、どうだったかな。君といると退屈しなくていいねえ」

 そこで客が入ってきた。休憩時間は終了だ。

「……いらっしゃいませ」

 俺は渋々仕事に戻る。
 結局、以降もこの話は有耶無耶のままだ。

《終わり》
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