41 / 58
不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】
スイカの日
しおりを挟む
七月二十七日はスイカの日だそうだ。
「――西瓜の日だからだと思うが、ずいぶんとデカいのを注文したんだな……」
朝の仕入れで到着した箱には、立派な西瓜が入っていた。
そもそも、どうやって切り分けるんだ? すいかわりでも楽しむつもりなのか? にしてもデカいが。
業務用冷蔵庫に入るスペースは残っていただろうかと思って尋ねると、店長が覗き込んでふむと唸った。
「おや。僕はここに頼んだつもりはなかったのだが」
「ん? じゃあ、贈答用とか? 開けない方がよかったやつか」
宛先をよく確認しないで開けてしまったのはよろしくなかったのだろうか。俺は見上げて店長の顔色を確認する。
店長は涼しげな顔をしていた。
「いや、開けて問題ないよ。君と僕とで食べようと思って購入したものだからね」
「待て。一回で食べる量じゃねえだろ、これ」
サッカーボールよりはずっと大きい。全体的に黒っぽくて縦縞模様がよくわからないような品種だ。
「獅子野くんはいつもたくさん食べてくれるからと思ったのだが」
「さすがにこんなには食べねえよ」
「残してしまったときは何か別のものにするから問題ないよ」
確かに店長なら切って食べる以外のレシピも頭に入っているのだろう。
それならいいかと納得しかけて、もう一度箱に入ったままの西瓜を見る。
「……本当に店では出さねえのか?」
「この店で出すには少々値が張るものだから、出すにも出せないかな」
「マジか……」
食べ切れないなら採算度外視で提供するのもアリではないかと考えたが、自分のためにと値が張るものを取り寄せたらしいことを知ると押し切れない。
俺は渋々箱に蓋をする。
「なら、どこかにしまっておかねえとな。涼しい場所に置きたいが、どこがいい?」
「ならば、僕が片付けておこう」
ひょいっと西瓜の入った箱を持ち上げる。大きな西瓜が入っているとは思わせない軽い動きだ。
「お、おう」
そういえば、この人も怪異だったな。
あまり大きな荷物を持っている姿を見かけないので自分より非力であるイメージがあったが、ちっともそんなことはないらしい。
俺がなりゆきを見守っているのに気がついたのか、まるい眼鏡の奥の目と俺の目が合う。
「おや、僕だってこのくらいのことはできるよ。君を運ぶのも容易いのだからね」
「……そっちは任せる」
いろいろ思い出すことがあって、俺は朝の業務に戻るのだった。
《7月27日 終わり》
「――西瓜の日だからだと思うが、ずいぶんとデカいのを注文したんだな……」
朝の仕入れで到着した箱には、立派な西瓜が入っていた。
そもそも、どうやって切り分けるんだ? すいかわりでも楽しむつもりなのか? にしてもデカいが。
業務用冷蔵庫に入るスペースは残っていただろうかと思って尋ねると、店長が覗き込んでふむと唸った。
「おや。僕はここに頼んだつもりはなかったのだが」
「ん? じゃあ、贈答用とか? 開けない方がよかったやつか」
宛先をよく確認しないで開けてしまったのはよろしくなかったのだろうか。俺は見上げて店長の顔色を確認する。
店長は涼しげな顔をしていた。
「いや、開けて問題ないよ。君と僕とで食べようと思って購入したものだからね」
「待て。一回で食べる量じゃねえだろ、これ」
サッカーボールよりはずっと大きい。全体的に黒っぽくて縦縞模様がよくわからないような品種だ。
「獅子野くんはいつもたくさん食べてくれるからと思ったのだが」
「さすがにこんなには食べねえよ」
「残してしまったときは何か別のものにするから問題ないよ」
確かに店長なら切って食べる以外のレシピも頭に入っているのだろう。
それならいいかと納得しかけて、もう一度箱に入ったままの西瓜を見る。
「……本当に店では出さねえのか?」
「この店で出すには少々値が張るものだから、出すにも出せないかな」
「マジか……」
食べ切れないなら採算度外視で提供するのもアリではないかと考えたが、自分のためにと値が張るものを取り寄せたらしいことを知ると押し切れない。
俺は渋々箱に蓋をする。
「なら、どこかにしまっておかねえとな。涼しい場所に置きたいが、どこがいい?」
「ならば、僕が片付けておこう」
ひょいっと西瓜の入った箱を持ち上げる。大きな西瓜が入っているとは思わせない軽い動きだ。
「お、おう」
そういえば、この人も怪異だったな。
あまり大きな荷物を持っている姿を見かけないので自分より非力であるイメージがあったが、ちっともそんなことはないらしい。
俺がなりゆきを見守っているのに気がついたのか、まるい眼鏡の奥の目と俺の目が合う。
「おや、僕だってこのくらいのことはできるよ。君を運ぶのも容易いのだからね」
「……そっちは任せる」
いろいろ思い出すことがあって、俺は朝の業務に戻るのだった。
《7月27日 終わり》
10
あなたにおすすめの小説
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる