ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい

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第235話 食い違い?

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 ダミアンの拍手だけが鳴り響く中、隣に目を向ければ、クマサンとミコトさんは意外そうな顔をして見つめ合っていた。
 キャサリンの歌も、メイの演奏も、文句のつけようがないほど完璧だった。だが――問題はそれが本当に『名もなき小夜曲』なのかという点だ。難癖をつけようと思えば、いくらでもできるはずだ。ましてや、彼の本当の狙いがキャサリンを自分の妻――いや妾にすることなら、認めるはずがない。
 それだけに、彼女達にはダミアンの反応が予想外だったのだろう。

「――念のため、今の曲が『名もなき小夜曲』だとする理由を、聞かせてもらおうか」

 ダミアンの声は、疑いを突きつけるものではなく、確認のための問いに聞こえた。
 視線を向けられたキャサリンは、俺を見やった。
 彼女にもここまでの経緯は、改めて詳しく説明しているが、ここで語るべきは自分でなく俺が相応しい――彼女の瞳はそう訴えているように見えた。
 俺は小さくうなずき、皆を代表して口を開く。

「キャサリンは――ダミアン、あんたの祖父ローランが『名もなき小夜曲』を贈ったセーラの孫だ。彼女は子供の頃からセーラ――本名セラフィーナさんからこの歌を聴かされ、ずっと覚えてきた。そして、その旋律は、ローランの残した『名もなき小夜曲』の未完成の下書きと、記されていないサビを除けば一致している。これだけの状況証拠があれば――この曲こそ本物の『名もなき小夜曲』だと断じるには十分だ」

 俺がそう言い切ると、ダミアンは静かに立ち上がり、こちらを振り返った。
 目が合う。俺は思わず息を呑む。
 断じるには十分だ――と言いはしたものの、彼には「幻の楽譜」の原本を見るまでは証明ができないと突っぱねるなら、俺達は一からまた『幻の楽譜』探しを始める必要が出てくる。依頼の主導権は、あくまで彼の側にあるのだから。
 だが、ダミアンはゆっくりとうなずいた。

「……なるほど、ちゃんと『名もなき小夜曲』にたどり着いたようだな」
「じゃあ……」
「ああ、お前達は見事に俺の課題をクリアした。キャサリンを王都に連れていくという話は――なかったことにしよう」

 ――よっしゃあ!
 手を下げたまま、手首から先だけで小さくガッツポーズを作る。
 視線をキャサリンに送れば、彼女は潤んだ瞳でこちらを見つめていた。

「キャサリン! 本当に……よかったな」
「はい……ショウ、あなたのおかげです」

 彼女の目に確かに光るものを見た。
 気丈に振る舞ってはいたが、一番心をすり減らしてきたのは間違いなく彼女だ。NPCとはいえ、この世界の人々はそれぞれAIによって自律的に動いている。そこに人間の感情と同じものが宿っていたとしても不思議ではない――と俺は思う。

 ……とはいえ。
 キャサリンの家がこれまでダミアンの家から多額の借金をしてきたという事実は消えない。今回の件が片付いたとしても、今後またダミアンが第二、第三の難題を突きつけて彼女を手に入れようとする可能性は残っている。そう思うと、なんだか気が重い。

「ダミアンのところから借りているお金は……少しずつ返していこう。俺も協力するからさ」

 メイに借金のある俺としては、決してお金に余裕があるわけではないが――ここまで関わった以上、「あとは知らない」なんて無責任なことはできなかった。
 だが、そんな俺の言葉を、ダミアンが強い口調で遮る。

「待て! 俺が彼女に金を貸している……だと? 一体どういう意味だ!」
「……え? いや、キャサリンの家はあんたのところから代々金を借りてきたんだろ? 今回の件だって、これまで貸してきた金を盾に第七夫人になれと迫っていたんじゃ――」
「はあぁ!? お前は私を何だと思っているんだ!」

 ダミアンが初めて声を荒げた。俺達が「好色貴族」と言っているところを聞かれたときも涼しい顔をしていただけに、この反応には戸惑ってしまう。

「私は金を理由にキャサリンに迫ったことなど一度もない! 我が家はブリジット家に資金援助をしているが、それは彼女達の才能を伸ばすことが民の、ひいては国のためになると信じてのこと。見返りを求めての施しではない。そもそも、金も貸しているわけではなく、返済不要の援助だ。私を金に卑しい貴族と同列にするのはやめてもらおうか!」
「す、すみません……」

 思いもよらない剣幕に、反射的に頭を下げて謝ってしまった。
 ……でも、このクエストって、最初からそういう話じゃなかったっけ?
 俺は思い返してみる――

 ……あ。
 そういえば、金うんぬんの話って、エルシー達から聞いただけだった。キャサリンから直接聞いたわけじゃない。
 言われてみれば、屋敷でダミアンに『金の問題なら、俺が返す』と言ったとき、彼は「何を言っているんだ、こいつは?」みたいな怪訝な顔をしていたような気もする……。

 ――とはいえ。
 借金の件が誤解だったとしても、キャサリンを「第七夫人」という名の妾にしようとしていたのは事実。その一点だけでも、同じ男として俺は許せない。

「……貸した金を盾にキャサリンに迫ったという言葉は撤回する。だけど、正妻がいる身で、彼女を妾にしようとしていたのは、人の上に立つ身である貴族としては、どうかと思うぜ」

 言ってやった。
 ダミアンの出した条件をクリアして、今回の勝負に勝ったのは俺達だ。今ならこれくらいは言ってもバチは当たるまい。
 しかし、返ってきたのは意外な反応だった。
 ダミアンは怒るでもなく、悔しそうに顔を歪めるでもなく、不思議そうに首をかしげたのだ。

「妾……だと?」

 おいおい。ここにきてとぼける気かよ! なんて潔くないやつだ。

「自分でキャサリンを第七夫人にすると言ってただろうが!」
「ああ、確かに言った。第七夫人という肩書で彼女を王都に呼び、そこで彼女の歌や演奏を披露してもらおうと思っていた」

 …………

「……え?」

 間抜けな声を出す俺。
 ……なんだか、聞いていた話とちょっと違わなくない?
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