ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい

文字の大きさ
253 / 277

第253話 追跡

しおりを挟む
 俺はすぐにパーティチャットで仲間達に伝える。

「みんな、片翼の天使の連中がいる。三パーティ分。しかも、ただならぬ様子だ」
『片翼の天使だって!?』
『こんなところに?』
『ギルドで狩りでしょうか?』

 声だけでも三人の戸惑いが伝わってくる。
 「釣りに集中しろ」というお叱りの声は、誰からも上がってこなかった。
 片翼の天使とは、直接の交流はない。だけど、キングダモクレスの取り合いに、チャリオット戦と、少なからずの関わりがある。それに、俺達にとっては知ったことではないのだが、奴が狙っていた「1stドラゴンスレイヤー」の称号を俺達が得たことで、ギルマスのルシフェルからは一方的な恨みを買っているらしい。
 そんなこともあって、俺だけでなく、みんなにとっても、「片翼の天使」は気になる存在だった。

「レベル上げって雰囲気じゃない。なんていうか……空気が違う」
『違うって、どういう?』
「そうだな……強いて言えば――俺達が初めてインフェルノに挑もうとしたときの、あの空気に近い」
『それってまさか――』
「ああ。もしかしたら、あいつら……真インフェルノと本気でやる気かもしれない」
『…………』

 チャットの向こうで、三人が息を呑むのが聞こえた気がした。
 ねーさん達でさえ、戦うとしても、相手の強さを探るためのものだと言っていた。ネットにも攻略情報が上がっていない今のこの状況でガチバトルなんて、正気の沙汰じゃない。
 それでも、ルシフェルならやりかねない――そう思う自分がいた。

「なぁ、みんな……このまま片翼の天使の後を追うってのは、ダメかな?」

 自分でも何を言ってるんだと思う。
 拠点を見つけてライバルもない中で狩りができているのに、それを捨てて彼らを追いかけたところで、得るものなんて何もない。
 だけど、損得じゃない。今ここでただ彼らを見送ると、ずっと心に引っかかるものを残す――そんな気がした。
 とはいえ、仲間を巻き込むのは違うかもしれない……。そう思いかけた矢先――

『もし本当に真インフェルノと戦う気なら、無視はできないな』
『レベル上げも素材集めも、いつでもできますしね』
『おもしろそうなものが見られるのなら、見逃す手はないね』

 そうだ。俺の仲間は、こんな状況で呑気に狩りを続けて満足できる連中じゃない。

「そうこなくっちゃな」

 思わず笑みがこぼれる。

「俺はこのまま後を追う。みんなはマップで俺を追跡してきてくれ」

 パーティメンバーの位置は、マップ上で確認できる。みんなが俺と合流するのは容易だ。あとは、俺が片翼の天使を見失いさえしなければいい。

『わかった』
『ショウさん、今は一人なんですから無理しないでくださいね』
『私達が追いつくまで、敵に絡まれるなよ』

 実際、俺が敵に見つかることこそ一番のリスクだった。

「わかってるよ」

 苦笑いしつつ答える。
 ここで敵に絡まれたら、ただの間抜けだ。パーティを組んでいても、一人離れた状態では仲間の援護は受けられない。実質ソロなら、新エリアの敵相手に勝ち目はない。
 こっちが戦闘状態に入らなければ、敵の横取りは可能なので、最悪「片翼の天使」の連中のところに助けを求めにいけば、代わりに戦ってくれるかもしれないが――それはあまりにも情けない。
 仲間と合流するまで、意地でも敵に絡まれるわけにはいかなかった。

 俺は警戒心をさらに強めた。
 幸い、前方の避けにくい敵は「片翼の天使」が片付けてくれる。俺は横から移動してくる敵と、彼らの通過後にタイミング悪くポップする敵にだけ注意すればいい。
 もともとソロプレイ中心だった俺は、こういう隠れて進むのには慣れている。自信を持ちつつも油断はせず、息を潜めて彼らの後を慎重に追った。

 しばらく尾行を続けていると、ふいに胸の奥で違和感が走る。

「そういえばこっちの方向って……」

 どこか見たことのある景色だ、と感じた瞬間、背後で物音がした。

 ――しまった!

 横や新規ポップには気を配っていたが、後ろへの警戒が甘かった。
 自分のペースで移動していれば、背後から敵が迫ることなど滅多にない。だが今は「片翼の天使」の進行速度に合わせている。彼らに近づきすぎないように立ち止まったとき、背後への注意を怠ってしまっていたのだ。

 ――まだ逃げられるか!? それとも、一か八かやるしかないか!?

 包丁を抜き、反射的に振り返る。

「どうしたんだ、ショウ? そんな必死な顔して?」

 そこには首をかしげるクマサンが立っていた。その後ろには、ミコトさんとメイの姿もある。

「なんだよ、私たちを敵だとでも思ったのか?」
「ショウさんはそんなお間抜けさんじゃないですよ~」

 ……ごめんよ、ミコトさん。俺、間抜け野郎だったらしい。
 マップを見れば三人がどこまで近づいているかすぐわかったのに、俺は「片翼の天使」と敵にばかり気を取られ、確認を怠っていた。

「みんな、早かったな……」
「ショウが寂しがってると思ってな」

 正直、ホッとしている。これで、万が一敵に引っかかっても何とかなる。

「……確かに、『片翼の天使』の連中だね」
「ユニオンを組んでますね。これは本当にレベル上げじゃなさそうですね」

 みんなも前方の集団を見て、何かを感じ取ったようだ。
 俺の言葉だけでは半信半疑だったかもしれないが、実際に自分の目で見れば俺の言いたかったこともわかるだろう。

「ショウ、もしかして彼らが向かっているのって――」

 クマサンの声がわずかに低くなる。気づいたらしい。

「ああ。――たぶん、あの泉だ」

 胸の奥に引っかかっていた既視感の正体がはっきりする。
 新エリア解放初日に俺達が拠点にし、そして真インフェルノと遭遇した、あの泉の近くだった。
 やがて「片翼の天使」は予想通り泉のほとりに到着する。
 真インフェルノに襲われるリスクの高い場所として有名になって以来、ここを拠点にするパーティなどいない。近づこうとする者さえ滅多にいない。――もちろん、そんなことは「片翼の天使」が知らないはずがない。

「……本気で真インフェルノと戦う気なんだな」

 クマサンの言葉に、俺は静かにうなずく。
 彼らは泉のほとりで、前衛と後衛に分かれてポジションについている。誰一人敵を釣りに行く者はいない。
 ――待っているのだ。真インフェルノが現れる、その瞬間を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい
ファンタジー
 かつて「緑の公国」で英雄と称された若き魔導士キッド。しかし、権謀術数渦巻く宮廷の陰謀により、彼はすべてを奪われ、国を追放されることとなる。それから二年――彼は山奥に身を潜め、己の才を封じて静かに生きていた。  だが、その平穏は、一人の少女の訪れによって破られる。 「キッド様、どうかそのお力で我が国を救ってください!」  現れたのは、「紺の王国」の若き王女ルルー。迫りくる滅亡の危機に抗うため、彼女は最後の希望としてキッドを頼り、軍師としての助力を求めてきたのだった。  かつて忠誠を誓った国に裏切られ、すべてを失ったキッドは、王族や貴族の争いに関わることを拒む。しかし、何度断られても諦めず、必死に懇願するルルーの純粋な信念と覚悟が、彼の凍りついた時間を再び動かしていく。  ――俺にはまだ、戦う理由があるのかもしれない。  やがてキッドは決意する。軍師として戦場に舞い戻り、知略と魔法を尽くして、この小さな王女を救うことを。  だが、「紺の王国」は周囲を強大な国家に囲まれた小国。隣国「紫の王国」は侵略の機をうかがい、かつてキッドを追放した「緑の公国」は彼を取り戻そうと画策する。そして、最大の脅威は、圧倒的な軍事力を誇る「黒の帝国」。その影はすでに、紺の王国の目前に迫っていた。  絶望的な状況の中、キッドはかつて敵として刃を交えた伝説の女暗殺者、共に戦った誇り高き女騎士、そして王女ルルーの力を借りて、立ち向かう。  兵力差は歴然、それでも彼は諦めない。知力と魔法を武器に、わずかな希望を手繰り寄せていく。  これは、戦場を駆ける軍師と、彼を支える三人の女性たちが織りなす壮絶な戦記。  覇権を争う群雄割拠の世界で、仲間と共に生き抜く物語。  命を賭けた戦いの果てに、キッドが選ぶ未来とは――?

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

処理中です...