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第253話 追跡
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俺はすぐにパーティチャットで仲間達に伝える。
「みんな、片翼の天使の連中がいる。三パーティ分。しかも、ただならぬ様子だ」
『片翼の天使だって!?』
『こんなところに?』
『ギルドで狩りでしょうか?』
声だけでも三人の戸惑いが伝わってくる。
「釣りに集中しろ」というお叱りの声は、誰からも上がってこなかった。
片翼の天使とは、直接の交流はない。だけど、キングダモクレスの取り合いに、チャリオット戦と、少なからずの関わりがある。それに、俺達にとっては知ったことではないのだが、奴が狙っていた「1stドラゴンスレイヤー」の称号を俺達が得たことで、ギルマスのルシフェルからは一方的な恨みを買っているらしい。
そんなこともあって、俺だけでなく、みんなにとっても、「片翼の天使」は気になる存在だった。
「レベル上げって雰囲気じゃない。なんていうか……空気が違う」
『違うって、どういう?』
「そうだな……強いて言えば――俺達が初めてインフェルノに挑もうとしたときの、あの空気に近い」
『それってまさか――』
「ああ。もしかしたら、あいつら……真インフェルノと本気でやる気かもしれない」
『…………』
チャットの向こうで、三人が息を呑むのが聞こえた気がした。
ねーさん達でさえ、戦うとしても、相手の強さを探るためのものだと言っていた。ネットにも攻略情報が上がっていない今のこの状況でガチバトルなんて、正気の沙汰じゃない。
それでも、ルシフェルならやりかねない――そう思う自分がいた。
「なぁ、みんな……このまま片翼の天使の後を追うってのは、ダメかな?」
自分でも何を言ってるんだと思う。
拠点を見つけてライバルもない中で狩りができているのに、それを捨てて彼らを追いかけたところで、得るものなんて何もない。
だけど、損得じゃない。今ここでただ彼らを見送ると、ずっと心に引っかかるものを残す――そんな気がした。
とはいえ、仲間を巻き込むのは違うかもしれない……。そう思いかけた矢先――
『もし本当に真インフェルノと戦う気なら、無視はできないな』
『レベル上げも素材集めも、いつでもできますしね』
『おもしろそうなものが見られるのなら、見逃す手はないね』
そうだ。俺の仲間は、こんな状況で呑気に狩りを続けて満足できる連中じゃない。
「そうこなくっちゃな」
思わず笑みがこぼれる。
「俺はこのまま後を追う。みんなはマップで俺を追跡してきてくれ」
パーティメンバーの位置は、マップ上で確認できる。みんなが俺と合流するのは容易だ。あとは、俺が片翼の天使を見失いさえしなければいい。
『わかった』
『ショウさん、今は一人なんですから無理しないでくださいね』
『私達が追いつくまで、敵に絡まれるなよ』
実際、俺が敵に見つかることこそ一番のリスクだった。
「わかってるよ」
苦笑いしつつ答える。
ここで敵に絡まれたら、ただの間抜けだ。パーティを組んでいても、一人離れた状態では仲間の援護は受けられない。実質ソロなら、新エリアの敵相手に勝ち目はない。
こっちが戦闘状態に入らなければ、敵の横取りは可能なので、最悪「片翼の天使」の連中のところに助けを求めにいけば、代わりに戦ってくれるかもしれないが――それはあまりにも情けない。
仲間と合流するまで、意地でも敵に絡まれるわけにはいかなかった。
俺は警戒心をさらに強めた。
幸い、前方の避けにくい敵は「片翼の天使」が片付けてくれる。俺は横から移動してくる敵と、彼らの通過後にタイミング悪くポップする敵にだけ注意すればいい。
もともとソロプレイ中心だった俺は、こういう隠れて進むのには慣れている。自信を持ちつつも油断はせず、息を潜めて彼らの後を慎重に追った。
しばらく尾行を続けていると、ふいに胸の奥で違和感が走る。
「そういえばこっちの方向って……」
どこか見たことのある景色だ、と感じた瞬間、背後で物音がした。
――しまった!
横や新規ポップには気を配っていたが、後ろへの警戒が甘かった。
自分のペースで移動していれば、背後から敵が迫ることなど滅多にない。だが今は「片翼の天使」の進行速度に合わせている。彼らに近づきすぎないように立ち止まったとき、背後への注意を怠ってしまっていたのだ。
――まだ逃げられるか!? それとも、一か八かやるしかないか!?
包丁を抜き、反射的に振り返る。
「どうしたんだ、ショウ? そんな必死な顔して?」
そこには首をかしげるクマサンが立っていた。その後ろには、ミコトさんとメイの姿もある。
「なんだよ、私たちを敵だとでも思ったのか?」
「ショウさんはそんなお間抜けさんじゃないですよ~」
……ごめんよ、ミコトさん。俺、間抜け野郎だったらしい。
マップを見れば三人がどこまで近づいているかすぐわかったのに、俺は「片翼の天使」と敵にばかり気を取られ、確認を怠っていた。
「みんな、早かったな……」
「ショウが寂しがってると思ってな」
正直、ホッとしている。これで、万が一敵に引っかかっても何とかなる。
「……確かに、『片翼の天使』の連中だね」
「ユニオンを組んでますね。これは本当にレベル上げじゃなさそうですね」
みんなも前方の集団を見て、何かを感じ取ったようだ。
俺の言葉だけでは半信半疑だったかもしれないが、実際に自分の目で見れば俺の言いたかったこともわかるだろう。
「ショウ、もしかして彼らが向かっているのって――」
クマサンの声がわずかに低くなる。気づいたらしい。
「ああ。――たぶん、あの泉だ」
胸の奥に引っかかっていた既視感の正体がはっきりする。
新エリア解放初日に俺達が拠点にし、そして真インフェルノと遭遇した、あの泉の近くだった。
やがて「片翼の天使」は予想通り泉のほとりに到着する。
真インフェルノに襲われるリスクの高い場所として有名になって以来、ここを拠点にするパーティなどいない。近づこうとする者さえ滅多にいない。――もちろん、そんなことは「片翼の天使」が知らないはずがない。
「……本気で真インフェルノと戦う気なんだな」
クマサンの言葉に、俺は静かにうなずく。
彼らは泉のほとりで、前衛と後衛に分かれてポジションについている。誰一人敵を釣りに行く者はいない。
――待っているのだ。真インフェルノが現れる、その瞬間を。
「みんな、片翼の天使の連中がいる。三パーティ分。しかも、ただならぬ様子だ」
『片翼の天使だって!?』
『こんなところに?』
『ギルドで狩りでしょうか?』
声だけでも三人の戸惑いが伝わってくる。
「釣りに集中しろ」というお叱りの声は、誰からも上がってこなかった。
片翼の天使とは、直接の交流はない。だけど、キングダモクレスの取り合いに、チャリオット戦と、少なからずの関わりがある。それに、俺達にとっては知ったことではないのだが、奴が狙っていた「1stドラゴンスレイヤー」の称号を俺達が得たことで、ギルマスのルシフェルからは一方的な恨みを買っているらしい。
そんなこともあって、俺だけでなく、みんなにとっても、「片翼の天使」は気になる存在だった。
「レベル上げって雰囲気じゃない。なんていうか……空気が違う」
『違うって、どういう?』
「そうだな……強いて言えば――俺達が初めてインフェルノに挑もうとしたときの、あの空気に近い」
『それってまさか――』
「ああ。もしかしたら、あいつら……真インフェルノと本気でやる気かもしれない」
『…………』
チャットの向こうで、三人が息を呑むのが聞こえた気がした。
ねーさん達でさえ、戦うとしても、相手の強さを探るためのものだと言っていた。ネットにも攻略情報が上がっていない今のこの状況でガチバトルなんて、正気の沙汰じゃない。
それでも、ルシフェルならやりかねない――そう思う自分がいた。
「なぁ、みんな……このまま片翼の天使の後を追うってのは、ダメかな?」
自分でも何を言ってるんだと思う。
拠点を見つけてライバルもない中で狩りができているのに、それを捨てて彼らを追いかけたところで、得るものなんて何もない。
だけど、損得じゃない。今ここでただ彼らを見送ると、ずっと心に引っかかるものを残す――そんな気がした。
とはいえ、仲間を巻き込むのは違うかもしれない……。そう思いかけた矢先――
『もし本当に真インフェルノと戦う気なら、無視はできないな』
『レベル上げも素材集めも、いつでもできますしね』
『おもしろそうなものが見られるのなら、見逃す手はないね』
そうだ。俺の仲間は、こんな状況で呑気に狩りを続けて満足できる連中じゃない。
「そうこなくっちゃな」
思わず笑みがこぼれる。
「俺はこのまま後を追う。みんなはマップで俺を追跡してきてくれ」
パーティメンバーの位置は、マップ上で確認できる。みんなが俺と合流するのは容易だ。あとは、俺が片翼の天使を見失いさえしなければいい。
『わかった』
『ショウさん、今は一人なんですから無理しないでくださいね』
『私達が追いつくまで、敵に絡まれるなよ』
実際、俺が敵に見つかることこそ一番のリスクだった。
「わかってるよ」
苦笑いしつつ答える。
ここで敵に絡まれたら、ただの間抜けだ。パーティを組んでいても、一人離れた状態では仲間の援護は受けられない。実質ソロなら、新エリアの敵相手に勝ち目はない。
こっちが戦闘状態に入らなければ、敵の横取りは可能なので、最悪「片翼の天使」の連中のところに助けを求めにいけば、代わりに戦ってくれるかもしれないが――それはあまりにも情けない。
仲間と合流するまで、意地でも敵に絡まれるわけにはいかなかった。
俺は警戒心をさらに強めた。
幸い、前方の避けにくい敵は「片翼の天使」が片付けてくれる。俺は横から移動してくる敵と、彼らの通過後にタイミング悪くポップする敵にだけ注意すればいい。
もともとソロプレイ中心だった俺は、こういう隠れて進むのには慣れている。自信を持ちつつも油断はせず、息を潜めて彼らの後を慎重に追った。
しばらく尾行を続けていると、ふいに胸の奥で違和感が走る。
「そういえばこっちの方向って……」
どこか見たことのある景色だ、と感じた瞬間、背後で物音がした。
――しまった!
横や新規ポップには気を配っていたが、後ろへの警戒が甘かった。
自分のペースで移動していれば、背後から敵が迫ることなど滅多にない。だが今は「片翼の天使」の進行速度に合わせている。彼らに近づきすぎないように立ち止まったとき、背後への注意を怠ってしまっていたのだ。
――まだ逃げられるか!? それとも、一か八かやるしかないか!?
包丁を抜き、反射的に振り返る。
「どうしたんだ、ショウ? そんな必死な顔して?」
そこには首をかしげるクマサンが立っていた。その後ろには、ミコトさんとメイの姿もある。
「なんだよ、私たちを敵だとでも思ったのか?」
「ショウさんはそんなお間抜けさんじゃないですよ~」
……ごめんよ、ミコトさん。俺、間抜け野郎だったらしい。
マップを見れば三人がどこまで近づいているかすぐわかったのに、俺は「片翼の天使」と敵にばかり気を取られ、確認を怠っていた。
「みんな、早かったな……」
「ショウが寂しがってると思ってな」
正直、ホッとしている。これで、万が一敵に引っかかっても何とかなる。
「……確かに、『片翼の天使』の連中だね」
「ユニオンを組んでますね。これは本当にレベル上げじゃなさそうですね」
みんなも前方の集団を見て、何かを感じ取ったようだ。
俺の言葉だけでは半信半疑だったかもしれないが、実際に自分の目で見れば俺の言いたかったこともわかるだろう。
「ショウ、もしかして彼らが向かっているのって――」
クマサンの声がわずかに低くなる。気づいたらしい。
「ああ。――たぶん、あの泉だ」
胸の奥に引っかかっていた既視感の正体がはっきりする。
新エリア解放初日に俺達が拠点にし、そして真インフェルノと遭遇した、あの泉の近くだった。
やがて「片翼の天使」は予想通り泉のほとりに到着する。
真インフェルノに襲われるリスクの高い場所として有名になって以来、ここを拠点にするパーティなどいない。近づこうとする者さえ滅多にいない。――もちろん、そんなことは「片翼の天使」が知らないはずがない。
「……本気で真インフェルノと戦う気なんだな」
クマサンの言葉に、俺は静かにうなずく。
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――待っているのだ。真インフェルノが現れる、その瞬間を。
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