ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい

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第26話 鍛冶師の役目

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 俺はパーティチャットでみんなを呼び集め、長老から得た情報を共有した。クエスト攻略のためには、パーティ全員がこの情報を直接長老から聞いておく必要があるかもしれない。だから、今はほかの3人は長老のところに話を聞きに行っており、俺は村の宿屋でその帰りを待っていた。

 ベッドに腰かけ、改め考えてみる。ヌシの毛針攻撃は、異様なまでの広範囲を射程にした全体攻撃だった。食らったときは理不尽な攻撃だと感じたが、もしこれが全員にヌシの毛を付着させるための攻略フラグだったとしたら、そのおかしな性能も理解できる。

 そうこうしているうちに、3人が宿屋へと戻ってきた。

「ショウの言う通りだったよ」

 メイが3人を代表するように言い、皆が俺の前に座る。

「それじゃあ、全員揃ったところで、これまでの情報を整理しようか」

 俺の言葉に皆がうなずいた。
 俺がこのパーティのリーダーというわけではないが、長老の件を最初に見つけたのが俺だったので、自然と俺が主導権を握る形になっていた。

「もともとヌシはこの村の守護者としてあの山の洞穴に棲み、村人はヌシを模した記念碑を洞穴の前に建てて、代々敬意を示してきた。しかし、いつの間にかその伝承は途絶え、記念碑も風化によって壊れ、今では見る影もなくなっている」

 俺の説明を頷きながら聞いていたクマサンが、話を引き継ぐように口を開く。

「俺は山を再調査してきたんだが、確かにショウの言うように、洞穴の前には砕けた石の塊があった。言われてみれば、石像の跡に見えなくもなかった」

 その補足に、俺は胸中で最初に洞穴に行ったときのことを思い返す。
 俺はあの時に砕けた石に気づいていた。あの時、もっと石を詳しく調べ、ヌシと村との関係を探っていれば、ヌシとの戦闘なしにこの事実を知るルートがあったかもしれない。
 このゲームでは、複数の解決策が用意されていることはよくある。もし、別ルートがあるのだとすれば、力技による解決策を選ぶことになってしまったことがちょっと悔しい。
 そんな悔恨を胸の奥にしまい、俺は話を続ける。

「最近になってヌシが村の近くに現れ、『ヒ ヲ ササゲヨ』と告げたのは、村を守り続けたことへの感謝を忘れ、記念碑が壊れたことにさえ気づかない村人への警告だったんだ。つまり、ヌシの言う『ヒ』とは、『火』ではなく『碑』だった。それを村人達が理解し、新たに記念碑を立てていれば良かったんだろうけど、伝承は途絶え、ヌシのことを詳しく知る者もいなくなった。唯一知っている長老も、記憶もボケてしまっていて、その真実が伝えられることはなかった。そして、警告を無視されたヌシは業を煮やし、家畜を襲って再度警告を発したんだ。村人を直接襲わなかったのは、ヌシがまだ守護者だからだろう。このまま村人がなにもしなくても、ヌシが村人を襲うようなことはないだろうけど、その代わりに、ヌシはこの村を見捨て、山から去るんじゃないかと俺は思う」

 ミコトさんが真剣な言葉で頷き、言葉を継ぐ。

「そうですね。私もショウさんの言う通りだと思います。あのヌシなら、きっと何も言わずに去っていくでしょう。戦闘をした時も、追いかければ私達を倒せるのに、簡単に逃がしてくれてましたし」
「だとしたら、私達がすべきことは、村人にヌシがこの村の守護者であることを伝え、再び記念碑を建てさせることか」

 メイの言うことは理にかなっている。
 普通のクエストなら、それで十分だろう。
 だけど、俺の胸には引っかかるものがあった。これはメイの鍛冶師専用クエストだ。きっと鍛冶師としてのメイが、キーとなる場面があるに違いない。そして、それこそが今だと思う。

「メイ、その記念碑を作るのは君じゃないといけないんじゃないかな? これは鍛冶師専用クエストなんだよ?」

 俺の言葉に、クマサンとミコトさんがハッとした顔を浮かべた。

「なるほど」
「確かに、そうですよね」

 しかし、肝心のメイはどこか浮かない顔をしていた。

「……確かに記念碑は鍛冶師が作れるものの一つだが、作れるのは国王の記念碑や伝説の騎士オーディンの像といったもので、何でも自由に作れるわけじゃない」
「…………」

 ……あれ?
 格好よくメイに言ってみせたのに、俺、間違ってた?
 言われてみれば、俺の料理だってなんでも自由に作れるわけじゃない。スキルレベルが上がれば作れる料理も増えるが、それはゲーム的に決められたものが増えるだけで、自分で好きに作れるわけじゃない。それを考えれば、鍛冶師だって同じこと……。

「スキルレベルが上がった時以外にも、鍛冶製作100個達成、モンスター100体討伐、そうやって何かを達成すれば、マイルームに飾れる趣味的記念碑を新たに作れるようになるが、それにしたって、デザインは決められていて、好きに作れるわけじゃないし……」
「ちょっと待ってくれ。それって何か条件を満たせば、新しい記念碑が作れるようになるってことか?」
「ん? ああ、そうだが?」

 メイの言葉で、俺は一つの可能性に思い至る。
 ヌシの毛針攻撃を受けたことで長老の反応が変わったように、イベントの進行に応じて鍛冶師の製作メニューに変化があってもおかしくない。

「だったら、このイベントをここまで進めたのなら、ヌシの記念碑が作れるようになっているんじゃないのか?」
「なるほど!」

 メイの顔がパッと明るくなった。
 レベル上昇以外にイベントで作れるものが増える、それは料理人の俺は何度か経験してきたことだ。同じ職人であるメイも、そういった経験を思い出したのかもしれない。

「じゃあ、早速作れるかどうか試してみてくれ! あっ、もしかしてメイの店まで戻らないといけないか?」
「いや、それは大丈夫かもしれない」
「どういうことだ?」
「この村の外れに、使われなくなった鍛冶場があるんだ。このクエストが終わるまでは鍛冶をするつもりがなかったから気にしてなかったが、あそこが使えるかもしれない。……いや、きっと使えるはずだ。こんな村に鍛冶場があるのも、きっと『ヒ』が『碑』であるヒントだったんだ。……鍛冶師としてそれに気づけなかったとは、私もまだまだだな未熟だな」

 サーバーで一番と評される鍛冶師が、謙虚に反省の言葉を口にした。
 頂点に立つ者がしばしば傲慢になる中で、彼女は違った。メイはきっと常にさらなる高みを目指している。だからこそ、そんな言葉が自然に出てくるんだと思う。

「そうだな。俺達職人にはきっと到達点はない。いつまでも挑戦者なんだよ。でも、だからこそやりがいがあるんだよな?」
「ああ、そうだな!」

 メイの顔はいつになく輝いて見えた。そこには何か吹っ切れたような清々しささえ感じられた。
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