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第124話 再戦へ
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突然現れたキング・ダモクレスとの再戦の機会。当然リベンジの思いが激しく湧き上がる。しかし、今回はフェンリルの時とは違う。俺ひとりの意思で決めていいことじゃない。
「……ねーさん、ちょっと待ってて。みんなに聞いてみる」
『わかった。このままだと「片翼の天使」に先を越される。いい返事を期待してるよ』
ねーさんとのチャットを終え、休息のためしゃがんだままの格好で、みんなの方を向く。
俺の様子から何かを感じたのか、みんなの表情はさっきまでの穏やかなものから、どこか張り詰めたものへと変わっていた。
「ねーさん――いや、『ヘルアンドヘブン』のギルマス、フィジェットからの連絡だった。またキング・ダモクレスが現れたって」
「――――!?」
三人が息を呑む気配が伝わってくる。キング・ダモクレスと因縁があるのは俺だけじゃなく、彼女達も同じだ。それぞれ色々と思うところがあるのは当然のことだろう。
「どうやらこのままだと『片翼の天使』が先にメンバーを揃えそうな状況らしい。それで、『ヘルアンドヘブン』から俺達のギルドに、今度は自分達と組まないかという誘いを受けた。俺としては、もう一度キング・ダモクレスと戦えるこの機会を逃したくない。……でも、みんなの意見を無視してまで強行するつもりはない。だから、みんなの意見を聞かせてほしい」
俺は状況を説明し、三人の顔を順番に見回した。
「私も戦いたいです! 今度は誰も死なせません!」
一番に声を上げたのはミコトさんだった。以前、マテンローのギルドとの同盟話の際に、一番反対していた彼女が、こんなにも真っ先に賛成してくれるとは予想外だった。だけど、考えてみれば、キング・ダモクレスには、ミコトさん自身も倒され、俺も含めて仲間も多く殺された。その悔しさは、彼女の気持ちを変えるには十分だろう。
「ショウ、私もヘルアンドヘブンと組んでキング・ダモクレスと戦うこと自体に異論はない。けど、前回と違って、今回は魔法スクロールをたいして持ってきていないぞ。今の私にできるのはサブヒーラーくらいだ。一度街まで戻ったほうがいいか?」
次に口を開いたのはメイだった。彼女の指摘はもっともだ。前回の戦いでは、キング・ダモクレス出現の情報を王都で聞いたため、十分な準備を整えることができた。しかし、今回は狩場から直接向かうことになる。この場所から一番近い街は王都だが、キング・ダモクレスがポップしたのは、この狩場と王都の中間地点だ。ねーさんが「ちょうどいい」と言っていたのは、俺達の現在地が運よくキング・ダモクレスの近くだったからだろう。だが、ねーさんの口ぶりから察するに、他のギルドの集結状況はかなり早いはず。
「いや、街まで戻ってる時間はない。幸い、メイのサブ職業は白魔導士だ。サブヒーラーならこなせる。ダメージに関してはメイの分も俺が稼ぐから、そのままでいいよ」
メイにそう言い切ると、彼女は少し驚いた表情を見せたものの、すぐに小さく頷いた。
金に糸目をつけず魔法スクロール連発という無茶な攻撃ができるプレイヤーは、そうそういるものではない。冷静に考えれば、あんなプレイを求める方がおかしいのだ。
それに、この前のフェンリル戦では、裁縫師のミストがサブヒーラーを務めていた。ヒーラー不足はどこのギルドも同じで、非戦闘職がサブヒーラーを担うのは、決して珍しいことではない。メイがサブヒーラーしかできなくても、誰にも文句は言わせない。
「……ショウは頼もしくなったな」
気づけば、なぜか優しい目でメイが俺を見ていた。よくわからないが、納得してくれたことはわかる。
あとは、クマサンだ。
前回のキング・ダモクレス戦で、恐らく一番不本意な戦いを強いられたのは、クマサンだろう。本来なら最前線で仲間を守る盾役であるのに、あの時はアタッカーの真似事をさせられたのだから。今回もまた、同じような役割を押しつけられるかもしれない。それだけに、クマサンが再戦を拒む可能性はあるし、そうなっても責められないと思っている。
だけど、俺は知っている。クマサンが負けたまま黙っていられる人じゃないことを。なかなか表には出さないが、透明な炎のように、静かに熱く燃える――それがクマサンという人だ。
俺はクマサンへと視線を向けた。
「ショウ、俺も行くぞ」
思った通りだった。落ち着いた口調だが、クマサンの言葉の中に秘められた熱を感じる。
「フィジェットに、ミネコ、あの二人には一度会っておかねばと思っていた」
……ん?
二人の名前を口にした時、やけに力がこもっているように聞こえたのは気のせいだろうか?
いや、むしろ執念すら感じられるように聞こえた。
それこそ、キング・ダモクレスではなく、フィジェットやミネコさんこそが真の敵であるような、そんな物言いに、俺には感じられた。
「……えーと、クマサン、何と戦いに行くのかわかってるよね?」
「当たり前だ」
うん、そうだよね。わかってるよね。
何だか俺、変なこと聞いちゃったよね。
……頭ではそう思うのに、心はなぜか焦りのようなものを感じてしまう俺だった。
…………
「それじゃあ、みんな、キング・ダモクレスのリベンジに向かうとするか」
全員のSPが回復したのを確認し、俺は立ち上がる。
「いよいよですね」
「こんなことならもっとアイテム持ってくればよかったなぁ」
「……負けはしない」
続いて三人も立ち上がった。表情に少しの緊張と高揚感を浮かべながら。
想いに少々差はあるようだが、今度こそキング・ダモクレスを倒すという一点に関しては間違いなくみんな一致しているはずだ。
「行くぞ」
俺達は狩場と王都を繋ぐ山間の道――キング・ダモクレスの居場所に向けて走り出した。
「……ねーさん、ちょっと待ってて。みんなに聞いてみる」
『わかった。このままだと「片翼の天使」に先を越される。いい返事を期待してるよ』
ねーさんとのチャットを終え、休息のためしゃがんだままの格好で、みんなの方を向く。
俺の様子から何かを感じたのか、みんなの表情はさっきまでの穏やかなものから、どこか張り詰めたものへと変わっていた。
「ねーさん――いや、『ヘルアンドヘブン』のギルマス、フィジェットからの連絡だった。またキング・ダモクレスが現れたって」
「――――!?」
三人が息を呑む気配が伝わってくる。キング・ダモクレスと因縁があるのは俺だけじゃなく、彼女達も同じだ。それぞれ色々と思うところがあるのは当然のことだろう。
「どうやらこのままだと『片翼の天使』が先にメンバーを揃えそうな状況らしい。それで、『ヘルアンドヘブン』から俺達のギルドに、今度は自分達と組まないかという誘いを受けた。俺としては、もう一度キング・ダモクレスと戦えるこの機会を逃したくない。……でも、みんなの意見を無視してまで強行するつもりはない。だから、みんなの意見を聞かせてほしい」
俺は状況を説明し、三人の顔を順番に見回した。
「私も戦いたいです! 今度は誰も死なせません!」
一番に声を上げたのはミコトさんだった。以前、マテンローのギルドとの同盟話の際に、一番反対していた彼女が、こんなにも真っ先に賛成してくれるとは予想外だった。だけど、考えてみれば、キング・ダモクレスには、ミコトさん自身も倒され、俺も含めて仲間も多く殺された。その悔しさは、彼女の気持ちを変えるには十分だろう。
「ショウ、私もヘルアンドヘブンと組んでキング・ダモクレスと戦うこと自体に異論はない。けど、前回と違って、今回は魔法スクロールをたいして持ってきていないぞ。今の私にできるのはサブヒーラーくらいだ。一度街まで戻ったほうがいいか?」
次に口を開いたのはメイだった。彼女の指摘はもっともだ。前回の戦いでは、キング・ダモクレス出現の情報を王都で聞いたため、十分な準備を整えることができた。しかし、今回は狩場から直接向かうことになる。この場所から一番近い街は王都だが、キング・ダモクレスがポップしたのは、この狩場と王都の中間地点だ。ねーさんが「ちょうどいい」と言っていたのは、俺達の現在地が運よくキング・ダモクレスの近くだったからだろう。だが、ねーさんの口ぶりから察するに、他のギルドの集結状況はかなり早いはず。
「いや、街まで戻ってる時間はない。幸い、メイのサブ職業は白魔導士だ。サブヒーラーならこなせる。ダメージに関してはメイの分も俺が稼ぐから、そのままでいいよ」
メイにそう言い切ると、彼女は少し驚いた表情を見せたものの、すぐに小さく頷いた。
金に糸目をつけず魔法スクロール連発という無茶な攻撃ができるプレイヤーは、そうそういるものではない。冷静に考えれば、あんなプレイを求める方がおかしいのだ。
それに、この前のフェンリル戦では、裁縫師のミストがサブヒーラーを務めていた。ヒーラー不足はどこのギルドも同じで、非戦闘職がサブヒーラーを担うのは、決して珍しいことではない。メイがサブヒーラーしかできなくても、誰にも文句は言わせない。
「……ショウは頼もしくなったな」
気づけば、なぜか優しい目でメイが俺を見ていた。よくわからないが、納得してくれたことはわかる。
あとは、クマサンだ。
前回のキング・ダモクレス戦で、恐らく一番不本意な戦いを強いられたのは、クマサンだろう。本来なら最前線で仲間を守る盾役であるのに、あの時はアタッカーの真似事をさせられたのだから。今回もまた、同じような役割を押しつけられるかもしれない。それだけに、クマサンが再戦を拒む可能性はあるし、そうなっても責められないと思っている。
だけど、俺は知っている。クマサンが負けたまま黙っていられる人じゃないことを。なかなか表には出さないが、透明な炎のように、静かに熱く燃える――それがクマサンという人だ。
俺はクマサンへと視線を向けた。
「ショウ、俺も行くぞ」
思った通りだった。落ち着いた口調だが、クマサンの言葉の中に秘められた熱を感じる。
「フィジェットに、ミネコ、あの二人には一度会っておかねばと思っていた」
……ん?
二人の名前を口にした時、やけに力がこもっているように聞こえたのは気のせいだろうか?
いや、むしろ執念すら感じられるように聞こえた。
それこそ、キング・ダモクレスではなく、フィジェットやミネコさんこそが真の敵であるような、そんな物言いに、俺には感じられた。
「……えーと、クマサン、何と戦いに行くのかわかってるよね?」
「当たり前だ」
うん、そうだよね。わかってるよね。
何だか俺、変なこと聞いちゃったよね。
……頭ではそう思うのに、心はなぜか焦りのようなものを感じてしまう俺だった。
…………
「それじゃあ、みんな、キング・ダモクレスのリベンジに向かうとするか」
全員のSPが回復したのを確認し、俺は立ち上がる。
「いよいよですね」
「こんなことならもっとアイテム持ってくればよかったなぁ」
「……負けはしない」
続いて三人も立ち上がった。表情に少しの緊張と高揚感を浮かべながら。
想いに少々差はあるようだが、今度こそキング・ダモクレスを倒すという一点に関しては間違いなくみんな一致しているはずだ。
「行くぞ」
俺達は狩場と王都を繋ぐ山間の道――キング・ダモクレスの居場所に向けて走り出した。
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