ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい

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第187話 デートのお誘い?

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 知らない人からのギルド加入を断り続けたこともあり、ようやく申請の嵐も落ち着いてきた。
 運営イベントでの俺達の激闘の動画も、クマーヤの実況付きでアップし、かなりの再生数を稼いでいる。
 ミコトさんの両親への説明という懸念事項も、先日無事に終えた。正直、無職の俺の話なんて簡単には信じてもらえないだろうと、活動記録や入金履歴なんかを資料として持参して臨んだのだが――拍子抜けするほどあっさりと受け入れてもらえた。
 むしろ「最近、娘がすごく明るくなった」と感謝されてしまったくらいだ。俺は今の明るいミコトさんしか知らないから、それはきっと、俺の力によるものではなく、ミコトさん自身によるものか、あるいは『アナザーワールド・オンライン』の力によるものなんだろうけど。

 ――そんなわけで、最近の俺はやけに調子がいい。

 運営イベント優勝、そして「撃墜王」の称号獲得。おかげでサーバー内でも名前が知られるようになり、街を歩くだけでほかのプレイヤーの視線を感じるようにもなった。
 注目されるのは悪くないが、気楽に街を歩けないのも困りものだ。
 だから、今日の俺は、注目を避けるように、人が少ないマイナースポットで一人、料理の素材を集めるための狩りをしていた。

 そう、有名人になってしまうと、こうやって自ら作らないと、一人でゲームを楽しむ時間ってやつも作れないのだ。
 だけど、今の俺はもう「一人で静かにプレイできる存在」ではなくなっているようで――通知音とともに、音声チャットの申請が届いた。

「――ミコトさんか」

 ソロで静かに遊ぶのもいいが、こうして仲間から連絡が来るのはやはり嬉しい。現金なものだと我ながら思う。
 ちょうど近くに獲物もいなくなったので、チャットを許可する。

「やぁ、ミコトさん。この前はお疲れ様」
『……いえ、こちらこそ、ありがとうございました。……えっと、チャット大丈夫でした? フィールドに出ているみたいですけど?』

 フレンドリストを見れば、相手がオンかオフかだけでなく、現在地のフィールド名も確認できる。この場所にいるのが向こうに知られているのは、当然のことだった。

「ソロで素材狩りしてただけだから、全然大丈夫だよ。ちょうどひと段落したところだし」
『そうなんですね。……あの、実はショウさんにお願いがあって……』

 普段は明るく快活なミコトさんの声に、少しだけ緊張が混じっているように感じた。……まぁ、人に頼みごとをするときなんて、たいていそういうものだ。
 俺だって、自分のために誰かの時間や労力を使わせるのは申し訳なく感じる。だから、その気持ちはよくわかる。
 でも、俺はミコトさんのためなら何でもするつもりだ。正確には、「ミコトさんのため」ではなく、俺がそうしたいからするだけなので、彼女には余計な気遣いはしてほしくないとも思う。

「時間だけはたっぷりあるから、何でも言ってよ」
『……えっと、ですね。……私と、デートしてもらえませんか?』

 サーバーでも人気者のミコトさんから「デートのお誘い」だ。男冥利に尽きるってやつだ。
 とはいえ、ここで本当にデートのお誘いを受けたと浮かれるほど俺も単純ではない。
 この世界――『アナザーワールド・オンライン』における「デート」という言葉には、ちょっとした意味の幅がある。現実世界と同様に、男女が一緒に楽しい場所を巡り楽しい時を過ごすという意味で使われることもあるが、実際には、単に二人で素材集めやクエスト攻略をすることも「デート」と呼ばれる。特に男女ペアの場合は、その言葉が使われやすい。なにしろ、毎日こうやってVRゲームをやっているような連中だ。リアルの世界でできないことを、この世界でデートと称して自分も経験した気になりたいと考えるも当然のことだと言える。

「オッケー。ちょうど一人には飽きてたし、むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」

 実のところ、単純なレベル上げや素材狩りなら、ギルドメンバーでやったほうが圧倒的に効率がいい。特にタンクであるクマサンがいるといないとでは雲泥の差がある。
 俺とミコトさんは、装備の関係で非常に打たれ弱い。一撃で倒せるような雑魚モンスターなら問題ないが、相手が強くなれば被ダメージが増えて効率が落ちるし、事故のリスクも跳ね上がる。
 そういったことを考えると、二人用のクエストへのお誘いと考えるのが妥当だろう。おそらく、巫女専用クエストで、攻略には二人必要といったところか。火力不足の巫女なら、もう一人の要員にアタッカーを求めるのは、最善の選択だろう。
 とりあえず、一旦街に戻って、サブ職業や道具を揃えたほうがいいな……なんて考えていると――

『ありがとうございます。……えっと、今度の日曜日なんですけど、大丈夫ですか? できれば朝の十時くらいからで』

 ……ん?
 今すぐじゃない?
 予想外の言葉に、すぐに返答ができなかった。
 てっきり今から行くものだと思っていたけど、ミコトさんはそのつもりではなかったようだ。
 もしかしたら、かなり時間のかかるクエストなのかもしれない。
 なるほど、だったら声をかけて来た時のミコトさんの緊張もうなずける。知り合いとは言え、長時間拘束必須のクエストへの同行を頼むのは、なかなか気が引けるものだ。なかにはそういうことをまったく気にせずに、人にものを頼むようなプレイヤーもいるけど、ミコトさんはそういうタイプじゃない。
 でも、むしろ俺は、そういうクエストへ同行する相手として、ミコトさんに選んでもらえたことが誇らしいし、嬉しくもある。
 幸い、今度の日曜はクマサンの都合が悪く、生配信の予定もない。夜までだって付き合うことが可能だった。

「日曜だね。その日は配信予定もないから全然大丈夫だよ。待ち合わせはどこにする?」
『ありがとうございます! では○○駅集合でお願いします!』

 ……はて、聞き覚えのある駅名だったが、そもそもこのアナザーワールドに駅なんてあったっけ?
 乗合馬車の停留所や、飛空艇の発着場ならあるが、魔導列車が実装されたなんて話は聞いたことがないぞ?

『えっと、南出口で待ち合わせでお願いしますね。念のため、ショウさんの最寄り駅からの乗り換えルート、送っておきましょうか?』

 そこで俺はようやく思い出す。
 その駅名――確かに聞き覚えがある。現実世界にある有名テーマパークの最寄り駅だ。大学時代、高校の友達と遊びに行った記憶がある。
 ……ん? ……ちょっと待て。
 これって、まさか――アナザーワールドの「デート」じゃなく、リアルの「デート」の話だったのか!?

『もしもーし、ショウさん、聞こえてますか?』

 やばい。フリーズしていた。

「……あ、うん、大丈夫。その駅なら前に一度行ったことがある」
『それじゃあ、当日、よろしくお願いしますね。えっと、今日は予定があって、これで落ちますけど、ショウさんと無事に約束ができてよかったです。それでは、また』

 ミコトさんはそう言って音声チャットを終了した。
 ……ぽつんと残された俺の耳に、静寂だけが降りてくる。
 えっと。
 俺、今、人生で初めて、女の子から、リアルなデートに誘われた……んだよな?
 しかも、女子高生から……。

 ……明日あたり、俺、死ぬんじゃないか?
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