ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい

文字の大きさ
213 / 277

第213話 進展

しおりを挟む
 最後の一冊を本棚に戻して、俺はポツリとつぶやく。

「……ないな」

 四人がかりで音楽関連の書架をすべて調べたが、「幻の楽譜」に関するものは一つとして見つからなかった。

「念のため、ほかのジャンルの本も調べてみるか?」

 隣のクマサンが疲れた声で尋ねてきたが、俺は首を横に振った。
 昔のアドベンチャーゲームじゃあるまいし、ノーヒントで図書館じゅうの本を手当たり次第に調べるようなクエストなんて、今どきあり得ない。特にこの『アナザーワールド・オンライン』は、理不尽な作業を強いる設計とは縁遠い。あくまで楽しむためのゲームだ。複数ある解決策の一つとしてなら用意されているかもしれないが、それしか手段がないなんてことはないはずだ。

「やめておこう。これはおそらく、正解ルートじゃない。それか、何かがまた足りていないのか……」

 そう答えはするが、じゃあ何が正解なのか、あるいは何が足りないのかは何もわかっていない。

「それでは、これからどうしますか?」

 本棚の向こう側からミコトさんがメイと一緒に戻ってくる。二人とも、手がかりが得られなかったことに落胆している様子はないが、やはり疲れの色は隠せない。

「一度、キャサリンのところに戻ろう。彼女が何か情報を得ているかもしれない」
「……そうですね」

 プレイヤーが一度離れて別の行動をとることで、元の場所のイベントが進行するなんてことは、ゲームではよくあることだ。今のところ、「幻の楽譜」に関係がありそうな場所は、キャサリンの屋敷、六姉妹の家、そしてこの図書館の三か所。その三点も巡回することで、何かしらのフラグが立つかもしれない。
 そう考えて、俺達は再びキャサリンの屋敷へと足を向けた。



 しかし――

「……何人かに聞いてみたんだけど、『幻の楽譜』のことを知ってる人は、結局見つからなかったわ」

 キャサリンは申し訳なさそうに目を伏せた。
 彼女の屋敷に戻ってすぐ、彼女に確認を取ったものの、残念ながら状況は変わらず。
 彼女が仲間に聞いて回ったという進展はあったが、収穫はゼロ。結局、また一つ可能性が潰えたという結果だけが残った。

「このクエスト、情報が少なすぎるぞ……。図書館でも『幻の楽譜』に関する資料は何もなかったし……」
「……そうでしょうね。この街の図書館に記録があれば、きっと誰かは知っていたでしょうから」

 キャサリンの言葉はもっともだが、まるで「図書館での調査が無駄なのは最初からわかっていた」と言われたようで、ほんの少し胸がチクリと痛んだ。

「わかっているのは、『名もなき小夜曲』という曲名と、それが王都の吟遊詩人の女性に贈られたということだけ……。この情報だけで見つけてみせろだなんて、ダミアン様は、最初から私達に勝たせるつもりなんてなかったのかもしれないわ……」

 そう言って、キャサリンは寂しげにうつむいた。
 ――確かに、その可能性は否定できない。
 だが、少なくとも俺の目には、ダミアンの態度は、無駄に足掻く俺達をあざ笑おうとするものではなかった。あのときの彼の眼差しには、どこか切実な想い――それこそ、願いにも似た感情がにじんでいた気がする。
 とはいえ、彼が何を考えていようと、今の俺達は完全に行き詰まっている。
 せめて作曲家の名前か、贈られた吟遊詩人の名前でもわかれば糸口になるのだが、ダミアンはそれすら明かさなかった。彼自身も知らないのか、それとも意図的に伏せているのか――
 どちらにせよ、今さら彼に問いただすわけにもいかない。
 なにせ彼は、こう言ったのだ。「次に会うのは、曲を聴かせてもらうときだ」と。
 それはつまり、「これ以上の情報は、こちらからは出さない」という、明確な意思表示でもあった。

「王都の吟遊詩人、か……。でも、王都にはこの街以上にたくさんいるだろうし……」

 そうつぶやいたとき、頭の奥で何かが繋がった。

「王都……そうだ、これは王都での話じゃないか! メロディアで情報収集をしても、見つかるはずがない!」
「……あっ」

 クマサン達も自分達の失態に気づいたように顔を見合わせた。

「音楽の街メロディアってことで、ついこの街で話が進むと思っていたけど、ダミアンは最初から『王都にいた吟遊詩人の女性に贈った』と言っていた。俺達が探すべきなのは、最初から王都だったんだよ」
「確かに。王都での話なら、この街の吟遊詩人達が知らないのも当然かもしれないね」

 メイの言葉に俺はうなずく。
 王都の図書館なら、きっと何かの情報があるだろう。探す量はさっきよりも増えるだろうが……それは仕方ない。

「みんな、すぐに王都に向かおう」

 そう呼びかけた俺の言葉に、キャサリンがふと手を上げて制した。

「待ってください。王都へ行くのなら、紹介状を書きます。吟遊詩人ギルドに行ってみてください。もしかしたら、そこで話が聞けるかもしれません」
「……あっ。なるほど……!」

 馬鹿みたいに図書館だけを考えていたが、確かに先に行くべきは吟遊詩人ギルドだった。
 俺達プレイヤーが作っている「ギルド」とは別に、NPC達には職業組合としてのギルドが存在している。この件に関しては、最も情報が集まってそうなのは、どう考えてもそっちだ。
 それに、紹介状がなければ、門前払いされることはないとしても、素直に知っていることを話してくれるとは限らない。情報収集の難易度は格段に上がってしまうだろう。

「ありがとう、キャサリン。紹介状、頼んでもいいか?」
「もちろん。すぐに用意するわ」

 彼女はそう言い残し、屋敷の奥へと消えていった。

「よし、みんな。紹介状を受け取ったら、すぐに出発だ」

 俺の言葉に、クマサンもミコトさんもメイも、力強くうなずいた。
 少しずつだが、霧の中に差し込む光の筋が見えてきた。
 ようやく、次に進む道が拓けた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい
ファンタジー
 かつて「緑の公国」で英雄と称された若き魔導士キッド。しかし、権謀術数渦巻く宮廷の陰謀により、彼はすべてを奪われ、国を追放されることとなる。それから二年――彼は山奥に身を潜め、己の才を封じて静かに生きていた。  だが、その平穏は、一人の少女の訪れによって破られる。 「キッド様、どうかそのお力で我が国を救ってください!」  現れたのは、「紺の王国」の若き王女ルルー。迫りくる滅亡の危機に抗うため、彼女は最後の希望としてキッドを頼り、軍師としての助力を求めてきたのだった。  かつて忠誠を誓った国に裏切られ、すべてを失ったキッドは、王族や貴族の争いに関わることを拒む。しかし、何度断られても諦めず、必死に懇願するルルーの純粋な信念と覚悟が、彼の凍りついた時間を再び動かしていく。  ――俺にはまだ、戦う理由があるのかもしれない。  やがてキッドは決意する。軍師として戦場に舞い戻り、知略と魔法を尽くして、この小さな王女を救うことを。  だが、「紺の王国」は周囲を強大な国家に囲まれた小国。隣国「紫の王国」は侵略の機をうかがい、かつてキッドを追放した「緑の公国」は彼を取り戻そうと画策する。そして、最大の脅威は、圧倒的な軍事力を誇る「黒の帝国」。その影はすでに、紺の王国の目前に迫っていた。  絶望的な状況の中、キッドはかつて敵として刃を交えた伝説の女暗殺者、共に戦った誇り高き女騎士、そして王女ルルーの力を借りて、立ち向かう。  兵力差は歴然、それでも彼は諦めない。知力と魔法を武器に、わずかな希望を手繰り寄せていく。  これは、戦場を駆ける軍師と、彼を支える三人の女性たちが織りなす壮絶な戦記。  覇権を争う群雄割拠の世界で、仲間と共に生き抜く物語。  命を賭けた戦いの果てに、キッドが選ぶ未来とは――?

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

処理中です...