国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

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第42話 白の聖王国の三本の矢

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 海に囲まれたこの島で、大国と言えば、黒の帝国、白の聖王国、赤の王国、青の王国の4国のことを指していた。だが、紺の王国及び緑の公国は、黒の帝国を破ってその領地を得たことで、それら大国と伍する存在になっていた。
 現状、これらの国以外の小国もいくつか存在しているが、実際のところはそのほとんどがいずれかの大国に恭順を示し属国のような立場に置かれている。つまり、事実上、この島の覇権争いは、紺の王国、緑の公国、白の聖王国、赤の王国、青の王国の五カ国に絞られたといえる。

 その中で、ルルーの紺の王国が国境を接しているのは三カ国。
 帝国領を得たことで北は海に面しており、そちら側に国はない。
 西の国境に接するのが緑の公国。紺の王国と緑の公国は現在同盟関係にあり、良好な関係を築いている。
 次に、南西の国境に接するのが白の聖王国。聖王国は、勢力を拡大する黒の帝国に備えて軍備を整えているという噂だったが、黒の帝国が消えた今、どういう動きをしてくるかは不透明だった。
 そして、東の国境に接するのが赤の王国。女王が治めるこの国は、黒の帝国のように周辺国への侵攻を進めており、黒の帝国との開戦は時間の問題だと言われていた。黒の帝国が緑の公国へと侵攻を急いだのも、赤の王国との戦争が始まってから緑の公国に攻め込まれると背後を取られる形になるため、その前に背後を安定させておこうとの考えによるものだった。黒の帝国の代わりに紺の王国へ狙ってくるのか、あるいは赤の王国の南にある青の王国との戦いに進むのかは現状わからない。
 残る青の王国は、紺の王国から見れば、南東に位置する。ただし、島の中央には竜王の山脈が広がっているため、紺の王国と青の王国とが直接行き来するにはこの山脈を通る必要があり、互いに軍事行動を起こすことは事実上不可能だった。

 そんな国同士の関係の中、白の聖王国から紺の王国の王都へと入ってきた者が三人いた。
 一人は浅黒い肌で2メートル近い巨躯の男。名前をグレイといい、年齢は20代後半で、金の短髪に、野性的な顔立ちをしている。
 もう一人は、オレンジ色に近いような明るい茶色の髪を後ろで一つにまとめた女。名前をティセといい、女性にしては背が高く、体もしなやかな筋肉で包まれている。年齢は20代前半だが、顔だちは年齢よりも幼く見え、可愛さと美しさがバランスよくかみ合っていた。
 最後の一人は、ほかの二人に比べて明らかに背が低く、年も若い少女。年齢は12歳で、名前をフィーユという。長い黒髪を両サイドでそれぞれまとめて垂らしている。大きな黒い目が印象的で、見た目は愛らしい少女にしか見えない。
 三人とも、ただの旅人といった装いをしているが、その見た目通りの素性の者達ではない。三人は、「白の聖王国の三本の矢」と呼ばれる精鋭だった。彼らは新たに即位した聖王が、自由に動けない自分の代わりに、国外で動ける者として選んだ者達だ。彼らは聖王の目となり手となり足となり、聖王のために動く。
 この三人が今回受けた指示は、紺の王国と緑の公国との調査。まさか黒の帝国がその二国に負けるとは、聖王にとっても予想外の事態であった。それを成した、両国について探ることは、現状、聖王にとって最優先事項の一つだった。
 両国の強みと弱み、今後の戦略方針など知るべきことは多いが、聖王が何より重要視したのは、その国の最重要人物と目される者の確認だった。人を知れば、おのずと国も知れる。それが国の重要人物ともなればなおのこと。
 聖王は、それらをしっかり調べたうえで判断するつもりだった。相手国を、味方とすべきか、それとも敵とすべきか。

「俺が思うに、最も警戒すべきはミュウという女剣士だ。戦場で一度見たことがあるが、あの姿はまさに戦乙女。紺の王国、緑の公国、どちらにいたとしても、大きな脅威となりうる」

 すでに調査報告書で紺の王国と緑の公国の情報は得ている。三人の目的は、それを知った上で重要人物を自分達の目で確認することだった。
 その中でもグレイが目をつけていたのはミュウだ。戦場において、自ら先頭に立って戦える優秀な将の存在は大きい。グレイは自分の判断に自信を持っていた。
 だが、隣のティセは少々納得いかない顔を浮かべる。

「確かに優秀な剣士であることは認めるけど、私にはそれよりも気になる相手がいるわ。ルイセという魔法剣士よ。この女がもし私の思っている通りの人物なら、とんでもない脅威になるわ。もしかしたら、これから夜は枕を高くして寝られなくなるかも」

「それはティセが魔法戦士だから贔屓目に見てるんじゃないのか? 純粋な剣の腕なら間違いなくミュウだ。あの剣こそ脅威だ」

「グレイ、あなたこそ、魔法と剣を組み合わせた怖さを過小評価しすぎよ。まぁ、脳まで筋肉でできてるようなあなたにはわからないかもしれないけど」

「なんだと! おい、フィー、お前はどう思うんだよ!?」

 突然話を振られ、両サイドの髪を揺らしてフィーユは慌てる。ちなみに、フィーユは二人からはフィーと呼ばれていた。

(まずい……。実は報告書とかあんまり読んでなかったんだよね。今回のことも二人に任せておけばいいかと思ってたし……。でも、ここで何もわかってないのに、どっちかの肩を持つと、私が決定したみたいになっちゃうよね……。ここは二人が挙げた以外の名前を出して、二人で決めてもらわないと、あとで私のせいにされそう。でも、誰がいたっけ? パラパラって見た報告書に何か名前があったような……。そうそう、確かキッドとかいう魔導士がいたはず!)
「そうねぇ、私はキッドっていう魔導士が気になるかな~って思うかな。まぁ、ちょっと気になる程度なんだけどね~」

 フィーユは思いついた名前を口に出し、あくまで二人の間で決めてもらうよう持っていこうとした。だが、事態は彼女が想定したのとは違う方向へと向かってしまう。

「……なるほど、それぞれ目をつけた相手が違うってわけだな」

「そうみたいね。なら、ここからはそれぞれ独自に動いて、自分が目をつけた相手に接触して直接確認することにしましょうか?」

(ふえっ!? ちょっと待って!? なんでそうなるの!?)

「それはおもしろい! 何も三人揃って動く必要はないからな!」

(いやいやいや! 単独行動とかダメでしょ! 三人兄妹の設定とか、色々打ち合わせしたのを忘れたの!?)

「じゃあ、ここからは別行動ってことで! 落ち合うのは当初の想定通りの場所で」

「待って待って!」

 フィーユは慌てて声を上げるが、すでにグレイとティセは別々の方向へ歩き出し、足を止める様子もない。どちらを追いかけるべきかと首をきょろきょろしている内に二人の姿は雑踏の中に消え、フィーユは一人取り残されてしまった。

「誰かに見つかったらまずいから報告書なんて持ってきてないし……私一人でどうしよう……」

 フィーユは紺の王国の王都で一人途方に暮れるのだった。
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