国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

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第72話 白対青再び

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 己の無力感をひしと覚えつつ一番に退却をしたレリアナ。その傷心のレリアナに、全軍撤退後、さらなる悲報が伝えられた。それはロムス将軍戦死の報せだった。

「……そんな」

 撤退先の砦の一室にて、グレイ、ティセ、フィーユから報告を受け、レリアナは顔を歪めて膝から崩れ落ちる。

「将軍は最期まで勇敢でした。彼のおかげで多くの聖騎士団の者が無事に撤退することができました」

 そう話すグレイの表情にも悔しさが滲んでいる。レイナルド騎士団長救出のために動いていたグレイとフィーユは、その時ロムス将軍のそばにいることができなかった。グレイにしても、自分がついていればという後悔の念は拭えない。
 本来ならばレリアナが将として、そのあたりの気遣いをせねばならないのだろうが、今のレリアナにその余裕はない。むしろグレイ達のほうがレリアナを心配に思うほどだった。

「グレイ、フィー、二人もよくやってくれたわ。二人のおかげでレイナルド騎士団長は無事帰還できたと聞いたわよ」

 レリアナに代わり、ティセが二人をねぎらう。腕の骨折の影響でティセは戦場に出るのを控えていた。自分が出ていればという思いも彼女の中にはあったが、ティセはレリアナよりも遥かに大人だった。

「レリアナ様、敵は待ってはくれませんよ」

 ロムスに代わって彼の腹心だったライニールが軍を指揮することがすでに決まっている。だが、先代聖王と共に戦場を駆けた老将ロムスは、今の聖王国軍においてレリアナとはまた違う精神的支柱だった。彼の抜けた穴は大きく、兵達の動揺は激しい。

「今、兵達を鼓舞できるのはレリアナ様だけです。まずレリアナ様が絶対に勝てるのだという顔をしてください。そして、その姿を兵達に見せてあげてください」

「ティセ……」

 崩れ落ちたレリアナは顔を上げ、ティセ、グレイ、フィーユの顔を順に見渡す。

(……私にはまだ必要だと思ってくれる人がいる。こんなところで膝を折ってる場合じゃないんだ)

 レリアナは床を力強く踏みしめ、立ち上がった。

「ごめん、みんな。恥ずかしいところを見せて。私は聖王をやってみせます」

「それでこそレリアナ様です」

 さっきまで泣きそうだったフィーユがようやく顔を綻ばせた。
 レリアナの顔はもう聖王としての顔に戻っている。

「でも、敵のあの驚異的な範囲への攻撃魔法、あれはやっかいよね。対応策を考えないと、また同じ失敗を繰り返すことになる。……軍の方ではなにか打開策を考えているの?」

「それに関しては、俺とフィーでなんとかします」

 答えたのはグレイだった。

「要は魔法を使わせなければいいんです。あの魔導士が出てきたら、俺とフィーで止めて見せます」

「私も出られればよかったんだけど……」

 ティセが腕を抑えて悔しそうにつぶやいた。
 通常腕の骨折の完治には、数箇月は必要となる。魔法でも怪我や骨折を一瞬で直すのは不可能だ。そこは人が持つ本来の力に頼るしかない。
 ただ、魔法や霊子の扱いに長けたティセの場合、筋肉を強化したり、補助的に腕を霊子で覆ったりすることで、すでに腕を固定化する必要もなく、日常生活にも支障はない程度に腕を使うことができている。とはいえ、さすがに戦場で命をかけた戦いをするには不安が大きかった。いざというときに折れましたでは、自分だけでなく仲間に迷惑もかかる。

「ティセはレリアナ様についていて。その方が私達も思い切って戦えるし」

「わかってる。そのかわり、戦いの方は任せたからね」

「安心して。今度は私達が目にもの見せてあげるんだから!」

 こうしてレリアナ達も、次の戦いに向けて準備を整えていった。

◆ ◆ ◆ ◆

 4日後、再び両軍は戦場で相まみえた。
 聖騎士団が不退転の決意を持って進軍を開始する。
 今回は対ルブルック要員として、騎乗したグレイとフィーユもそれに同行する。
 もしルブルックが陣の奥に引いたままで出てこないようなら別の策に移るつもりでいたが、前回と同様、青の王国軍から2騎の騎馬が駆け上がっていく。
 魔法で視力を拡大させたフィーユは一早くそれを認識する。すでにルブルックの顔は先の戦いで見て覚えている。見間違うことはなかった。

「魔導士が出てきた! グレイ、行くよ!」

「おう!」

 先に海王波斬撃を撃たれては元も子もない。ルブルックの射程に聖騎士団が入る前に、フィーユ達は敵のもとにたどり着く必要があった。そのため、フィーユとグレイは、すぐに隊列を離れ、敵の方へ馬を走らせる。
 フィーユ達のその動きについては、青の王国側でも気づいている者がいた。

「ルブルック、隊列から馬が離れた。相手は二人よ」

 サーラの言葉にルブルックは素直に感心する。ルブルックの目からはまだ遠すぎてよく見えていない。

「この距離でよく見えるな。どんな奴かわかるか?」

「大男と……子供のように小柄な者かな」

「グレイとフィーユか。三人とも出てくるかと思ったが、俺も舐められたものだな」

 ルブルックはフィーユ達の動きを予想していた。むしろ、その動きをとらせるがために、こうして前回と同じような行動を敢えてとっていた。

「サーラ、予定通りここで聖王国の三本の矢を折っておくぞ」

「間違っても逆にあなたが折られたりはしないでね」

「そう思うならしっかりと守ってくれよ」

 ルブルックはフィーユ達と接敵する前に馬を止めると、大地に降り立った。
 サーラも同じように馬を止めると、颯爽と飛び降りる。

「おそらくフィーユから魔法がくる。俺のそばに寄っておけ」

 ルブルックは自分の周囲に魔法を展開した。
 サーラは指示通り、ルブルックのすぐに横に並ぶように立つ。
 フィーユ達はルブルックの動きに警戒しつつも距離を詰めていき、フィーユの魔法が届く距離まで近づいた。

「フィー、二人が固まっているぞ。魔法で一気にやれるか?」

「わかってる!」

 フィーユは馬の速度を緩めると、右手を突き出し魔力を集中する

「ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー、ファイアアロー」

 フィーユの力ある言葉による、矢継ぎ早に炎の矢が放たれた。
 前方のルブルックとサーラに向かって、連なる炎の矢が向かって行く。
 しかし、二人との距離が縮まると、炎の矢は方向をそれ、誰もいない土の大地へと無意味に降り注いでいった。

「ルブルック、これはどういうこと?」

 明らかに途中で軌道が変わる炎の矢を見て、敵に視線を向けたままサーラが隣のルブルックに尋ねる。

「あの数の魔法を逐一消滅させるのも、防御するのも効率が悪い。だが、飛んでくる魔法の方向を少し歪めるだけなら魔力もたいして使わない。俺の周囲に、魔法のベクトルを歪める領域を展開した。フィーユ相手に魔力量勝負をするほど俺は愚かではない」

 簡単なことのように言うが、向かってくる魔法に精通した知識、空間と魔力に干渉するセンスと魔力、それらを有しているからこそできることであり、ルブルックと同じことができる魔導士はそうはいない。

「よくわからないけど、魔法攻撃は気にしなくていいってことね」

「遠距離魔法ならな。さすがに近距離で撃たれては方向を変えきれない」

 その二人の会話を、馬上のフィーユは聞いていた。音の増幅魔法は常時発動させている。フィーユなら魔力切れの心配はなかった。この魔法による戦場の諜報活動はフィーユの得意技の一つだ。
 フィーユは、赤の導士ルージュを馬から落としたあの魔法が通用しなかったことに動揺したが、そのカラクリを耳にして、冷静さを取り戻す。

「グレイ、だめ。遠距離魔法は通用しないみたい」

「わかった。ならば俺が直接仕留める」

 グレイは、フィーユが魔法攻撃を仕掛ける間緩めていた手綱に再び力を入れ、ルブルック達へと馬を突進させた。
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