国を追放された魔導士の俺。他国の王女から軍師になってくれと頼まれたから、伝説級の女暗殺者と女騎士を仲間にして国を救います。

グミ食べたい

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第109話 キッド対ルージュ

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「カオス!」

 ルージュは自分でも驚くほどの声でその男の名を叫んでいた。

(そうよ! キッドのそばにいるミュウとルイセ、その二人に対抗するためにラプトと、そしてカオスを連れてきたはずだったのよ! なのに、私はカオスに右翼の指揮を任せたまま前に出てきて……。でも、カオスは来てくれた! こんな状況の私を助けるために駆け付けてくれた!)

 ルージュの胸が熱くなる。
 よく見ればカオスも紺の王国軍の軍服を身に着けていた。ルージュ達同様ここまで紺の王国軍の小隊に紛れて近づいてきたのだろう。

「でもカオス、どうして……」

「姐さんと旦那が動くのが見えたから、これは何かやらかす気だと思い、あとは副官に任せて二人を追ってきたんだが、間に合ってよかったぜ。この服は近くにいた敵兵から剥ぎ取ったんだけど、この色も俺に似合うだろ?」

 いつものからかうよなカオスの口調がなによりルージュを安心させてくれた。

「カオス……」

「てなわけで、姐さんはやらせないぜ。あんたの相手は俺だ」

 カオスは左手に新たな魔球を生み出すと、ルイセに視線を向けながらルージュを庇うような位置に移動していく。
 局所的に2対1の状況になったのを警戒してか、ルイセは下手に仕掛けず油断なく構えたままカオスの移動に合わせて体の向きを少しずつ変えていく。

「……まじかよ」

 ふいにカオスの口から驚きの声が漏れた。
 一体何事かと、ルージュはルイセへの意識を残したままカオスの様子をうかがう。

「戦場にこんなクールビューティーな美女がいるなんて! 向こうにいる金髪の元気っ娘もかなりのものだし、戦場に可愛い女の子が何人もいるってこの島は一体どうなってるんだよ……」

「…………」

 カオスは自分だけに聞こえる程度の声でつぶやいたつもりだったのだろうが、その声はしっかりルージュの耳に届いていた。

(少しでもこの男相手にトキメキかけた自分が恥ずかしいわ……)

 思った以上にがっかりしている自分に少し驚きながらも、ルージュは冷静さを取り戻す。

「……私は私の敵を倒さないとね」

 見れば、戦いを繰り広げているラプトとミュウの後ろにいたキッドが、前に出てきていた。ルイセが急襲するまではルージュを油断させるために後ろに控えていたが、カオスの登場により状況が変わったため、キッドも自らがルージュと決着をつけるために出てきたのだ。

「カオス、そっちは任せたわよ」

「わかってるぜ、姐さん」

 互いにそれぞれの敵を見ているためルージュとカオスは視線を合わさずに言葉を交わし合う。だが、その心は通じていた。カオスなら、そしてルージュなら、負けることはない、互いにそう思い、自分は目の前の相手に集中する。
 しかし、それはキッドとルイセにしても同じだった。
 ルイセはターゲットをカオスに絞り、キッドもまたラプトとカオスのことは一旦頭の隅に追いやり、ルージュにすべての意識を向ける。

「赤の導士などというたいそうな二つ名を名乗っているようだが、それも今日で終わりだ、ルージュ!」

「悪いわね。キッド、ここであなたを倒して、私が真に赤の導士と呼ばれるのにふさわしい魔導士だということを、世に証明してみせるわ!」

 ミュウとラプト、ルイセとカオス、その二組から距離を置き、二人の魔導士が睨み合う。
 ルージュは右手の二本の指を立て、魔力集中を始めるが、溜まるより先にキッドが仕掛けた。

「ダークマター!」

 キッドの声と共にキッドの手元に、空間がそこだけ切り取られたかのような漆黒の球体が出現する。

(力のある魔力の塊を制御しているの!?)

 自分の方に向かってくるダークマターを見て、すぐにルージュはその本質を見抜いた。
 並みの魔導士なら放った後の魔法を自由に操作するなど想像することさえできないだろうが、ルージュには自ら再現できないまでも、キッドの魔法を理解するだけの力はあった。その力があるからこそ、ルージュは赤の導士を名乗り、周りもその二つ名を認めるのだ。

(でも移動速度は速くない。これなら魔導士の私でもかわせる。……いえ、待って。キッドがその程度の魔法をこの状況で仕掛けてくるはずがないわ。だとしたら……)

 ダークマターはルージュには直接向かわず、その背後に回り込もうとしてくる。
 かわせる速度とはいえ、見えない背後から迫られてはさすがにやっかいだ。
 ルージュはキッドとダークマターに挟み撃ちにされないような位置へと、魔力集中を切らないまま動き続ける。とはいえ、キッドに背中を向けてダークマターだけに集中してしまうと、キッドから直接魔法攻撃を受けるだけなので、そうすることもできない。

(ルージュがこの状況で魔法攻撃を仕掛けてこない……。魔力を溜めているこということか……。さっき俺の肩を貫いたあの攻撃を狙っているのか?)

 キッドもまたルージュを警戒する。不意打ちの攻撃を受ける前、キッドはルージュとラプトの接近をダークマターを通じて見ていたものの、ルージュの動きだけに集中していたわけではない。そのため、気が付けば肩を魔法攻撃で貫かれていたという状況で、ルージュの魔貫紅弾について、はっきりと見たわけではなかった。

「炎の矢!」

 キッドは通常の魔法攻撃を仕掛ける。だが、その程度がルージュに当たるとは思っていない。あくまでそれは少しでもルージュの意識を正面に向けさせるためのものにすぎなかった。

「ダークブレット!」

 キッドの本命はこちらだった。
 炎の矢で注意を引きつつ、背後を取れずともルージュの死角に近い位置に動かしたダークマターから魔力弾を放った。
 相手がただの魔導士や、魔法の素養のない剣士が相手だったならその一撃は間違いなく相手に突き刺さっていただろう。しかし、ルージュほどの魔導士になれば、見えずとも意識さえ向けていればダークマターの中に生まれたわずかな魔力の揺らぎを敏感に感じ取る。その揺らぎは、ダークマターからダークブレットを放つ際の前兆現象のようなもの。その感じた揺らぎに合わせて身を翻したルージュは、ほぼ見えない位置からの魔法攻撃をかわしてみせた。

(思った通りね! 本命は漆黒の魔力球から放つ魔法攻撃! こんな魔力の塊を操作した上、そこから魔法を放つなんて、とんでもない魔法理論と技術ね。……でも、わかってしまえば対応できなくもない!)

 とはいえそれはルージュだからこそできることだった。ダークマターは魔導士一人分に相当する魔力の塊。たとえるならそれは魔力の湖。ダークブレットを放つ際に生じる魔力の揺らぎは、湖の中に生まれた一つの波紋のようなもの。その些細な変化に気付き感じ取れる魔導士など世に数人しかいないレベルのものだった。
 ルージュはそれまで以上にダークマターに対して自らの意識を傾ける。

(くるっ!)

 ルージュは再び瞬間的に飛び退き、ダークブレットの一撃を回避してみせた。

(1度ならず2度までも! これはまぐれじゃない! ルージュ、初見で俺のダークブレットを見抜いたのか!? ……ルージュもまた竜王の試しを突破した猛者。やはり簡単に倒せる相手ではないということか)

 キッドはルージュ相手に油断はしない。青の導士ルブルックと同等の魔導士と考えて挑んでいた。
 だからキッドはルージュの魔力の流れから意識を切らしてはいない。

(相当な魔力がルージュの立てた二本の指に向かって流れている……)

 今のルージュが蓄積している魔力、そして先に自分が受けたダメージ、それらからキッドはルージュの魔法を推察する。

(ダークマターの視界でルージュを捉えていたのに、奴の魔法はまったく見えなかった。気付いた時にはすでに肩を貫かれていた。……そこから考えると、おそらくルージュの魔法は超高速の魔力弾! それも、魔法を放つ方向を魔法の中に組み込むことをやめる代わりに、ひたすら射出速度を上げたもの! 同じことをしても、俺ではせいぜい通常の二倍程度の速度しか出せないだろう。だが、このルージュはそれ以上の魔法に仕上げていると考えるべきだ。見てからでは回避不可能な速さの魔法にまで至っている可能性すらある)

 キッドもまたルージュの魔法の本質を見抜いていた。高レベルの魔導士同士の戦いは、必ずしも魔法の打ち合いになるわけではない。互いの魔法の読み合い、探り合い、それこそが勝負をわける鍵になる。
 ルージュがキッドの作り出したダークマターに生じる揺らぎに注意を向けるよう、キッドもまたルージュの指先とそこに集まった魔力に集中した。
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