能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神

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第2章 恐怖の残渣

第34話 最恐の・・・

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 何?何?
 今の音?

 私は慌てて飛び起きると、天井を見上げた。
 と言っても、部屋の中は真っ暗。

 私は手探りで部屋の照明のスイッチを探す。
 この領主邸には優秀な魔法使いでもあった前監督官が残した魔道具があり、魔力感応型照明もそのひとつ。スイッチを入れると光の魔法を封じ込めた魔石が起動し、照明が点く仕組みだ。
 この異世界は科学が発展していない代わりに、こういった魔道具が発展している。

 それはさておき、音の正体。
 照明をつけて、改めて天井を見るけど何も変化はない。
 目に魔力を通すイメージでもう一度見る。こうすることで、常在させている魔法の状態、つまり防御結界の状態もわかるのだ。
「破られたかとも思ったけれど特に変化はないわね。大丈夫そう?」
 まずは一安心…。
 きちんとした詠唱を唱えていないとはいえ、能力値最大カンストの私の防御結界を突破できるとしたら、相当な脅威だろう。
 でも、確かに音はした。
 ということは、何者かが侵入を試みたけれど、逆に防御結界に阻まれた…そういう音だったのだろうか?
「ぅん…、ユメ…もう朝なの?」
 いけない、部屋を明るくしたので、メアリーが起きてしまった。
「ううん、まだ夜よ。ごめんね、起こしちゃって。すぐに電気を消すから。」
「電気?なぁにそれ…おやすみなさい…」
 あぁ、しまった!
 そうよ、科学が発展していないから照明のことを電気と言ってもわからないわよね。

 こんなことが夜中に起こった割には、部屋を暗くすると朝までぐっすり寝てしまった。
 うーん、こういうホラーな体験をしたときって一睡もできず…というのが定番だと思っていたけれど、私の精神ってどうなっちゃったのかしら。図太過ぎない?
 私は全能力値最大カンストだけれど、その能力値の中に、精神力も入っているとか…まさか、ね?

 身支度を整えて広間に行くと、まだ早朝だというのに人が入れ替わり出たり入ったりしていて、とても慌ただしかった。
 なんとなく聞こえてきたところによると、どうやらまた犠牲者が出た模様…。
 早朝の畑仕事を手伝う約束をしていた隣人が、いつまでたっても現れないので不安に思って尋ねてみると、ベッドに横たわったまま気力を完全に消失した状態になっていたらしい。

「被害者は2番通りに住んでいるマイクさん、24歳、農家です。」
 領主邸に勤めるお役人さんだろうか?アドルフさんとレオンさんに手短に説明している。
「アドルフさん、これまでの被害者の方の共通点はありますか?」
 顎に手をあて、考え込みながらレオンが尋ねた。
「襲われたのは皆夜のうちであること、男女問わず10から30代が多いことくらいしか。住まうところなどは特に規則性はございません。」

「あの…」
 二人の会話のタイミングを見計らって、私は声をかけた。
「ああ、ユメ様、それにメアリー様、おはようございます。よくお休みになられましたか?そうだ、すぐに朝食を…」
「おはようございます、レオンさん、アドルフさん。あの朝食前にお話いいですか?今回の事件に関係しているかも、なんですが。」

 私が夜中のことを話すと、
「どうしてすぐに連絡をしてくださらなかったのですか!ご無事だったから良かったものの…」
 とレオンさん。普段とは打って変わった強い口調で叱られてしまった。
 うぅ、確かに返す言葉がない。
「ごめんなさい」
 そう言って深々と頭を下げると、レオンもハッと我に返り
「すみません、お客様に大変失礼いたしました。」
 と頭を下げた。
「ユメ様、よろしければ寝室で調査させていただけますでしょうか?その…淑女方レディーの部屋に入るのは大変恐縮なのですが。」
 レオンさんはやっぱり紳士だなぁ。
「ふふっ。あそこは客間、もともと私たちは間借りさせていただいている身ですから、どうぞご自由に。」

 寝室に入ると、レオンさんの身体が一瞬ピクッと動いた。
「どうかしましたか?」
「いえ、素晴らしい防御結界だなぁと。今朝、張りなおされたのですか?」
「昨日の夜に魔法を使ってそのままですけれど?」
「ええっ!?それは凄い。本当に凄いです。私でも部屋のような大きな空間は一晩経てば効果が消えるのですが…」

 わー!またやっちゃった!?
 そうよ、国内で12人しか使えない魔法なのよ、もうちょっと慎重になりなさいよ、私ったら!

 それではさっそく失礼しますね、とレオンは呪文を唱え始めた。
「ん、何か天井に引っかかっていますね。これは…いや、まさかそんな…。ユメさん、防御結界を解いていただけますか?」
「は、はい。」
 言われるがまま防御結界を解くと、天井から何かが落ちてきた。
 ガラス?
 色は透明だけれど、そこに透明の何かがあると認知できるものがキラキラと光り輝きながら落下してくる。
 直径5センチくらい、長さは15センチくらいの円柱。
 質量はないのか、それとも何かの魔法なのか、ゆっくりとシャボン玉が落ちてくるように…。
 そして、床に着く前に粉々に砕けて霧散し消えた。

「え?何でしょう、これ」
 一体全体どういうことなのか、何が何なのかさっぱりわからない。
 いや、唯一分かっていることもある。
 夜中に聞こえたガラスが割れるような音は、今のガラス状の円柱が元の何かから割れて取れた時に発生した音だろう。

「そんな、やはり…。」
 レオンさんがひどく焦っている。
 そういえばさっきも何か心当たりがあるようだった。
「レオンさん、何かご存じなのですね?教えていただけませんか。」
 レオンはふぅっと一息ついて額の汗を拭った。
「私も王宮の文献で知っただけで、実物を目にするのは初めてです。ですから、絶対とは言い切れないのですが、あまりにもソレと酷似しているので。」
 何やらよからぬモノだったようで、私も思わずつばを飲み込む。
「かつて、魔族が使役し、この世の生物を多数死なせた魔界の亡霊。その名は…。」

――ファントム・デーモン

 ファントム・デーモンは魔族の血を結晶化させた核「デーモン・コア」を持ち、それに霊体をまとわせたモンスターだ。
 通常、霊体は肉体という受け皿がないと、維持することができず拡散してしまう。しかし、このモンスターはデーモン・コアが発生する魔力で霊体が拡散することを防ぎ、存在を維持させている。
 とはいえ、完ぺきに維持はできず、少しづつ霊体は散っていく。ではファントム・デーモンは放置しておくとやがて消えるのか?というとそれは否だ。
 ファントム・デーモンは生きとし生けるものの霊体を捕食することで、自らの存在を維持しているのだ。
 動物・植物問わず、どんな霊体も捕食するが、特に好物なのは、恐怖、絶望、憎しみ、悲しみ、といった負の感情を持った霊体。
 このアヴァロンは憎しみの感情を持った人たちだらけなので、ファントム・デーモンにとって好都合のなのだろう。
 一度襲われると、霊体保有量の少ない植物は枯れ果て、人間やエルフは感情、意思、思考を刈り取られた植物人間のようになるという。

 このファントム・デーモンの厄介なところは、倒しにくいところだ。
 まず、体組成のほとんどが霊体であることから、一般人には視認できない。ただし魔力を帯びた霊体なので、エルフのように基礎魔力を持った者であれば先ほどのように視認は可能だ。
 次に、霊体は通常の物理攻撃・魔法攻撃を受け付けない。
 デーモン・コアであれば辛うじて攻撃は通用するのだけれど、コアはファントム・デーモンの霊体内を自在に移動するので、「人間の心臓は左胸」といったように特定の場所を攻撃してもそこにコアがあるとは限らない。
 また、霊体のように攻撃を受け付けないとまでは言わないが、物理攻撃・魔法攻撃に対する耐性がもの凄く高い。
 かつて魔族が世界を蹂躙じゅうりんした時、その尖兵として恐れられ、7人の勇者もその討伐に苦労した最恐最悪のモンスター、それがファントム・デーモンなのだ。

 魔族の尖兵?そんな、この世界にはもう魔族はいないはず…
「あの、レオンさん、そのファントム・デーモンを使役していた魔族は…。」
「それは大丈夫でしょう。魔族は自己顕示欲が強いと聞いています。これだけ手下のファントム・デーモンが暴れて使役者の魔族が姿を見せないというのはちょっと考えられません。」
 そうなんだ、ファントム・デーモンの存在は油断はできないけれど、魔族がいないのはひと安心。
「仮説にすぎませんが、魔族を滅ぼした際に完全に破壊できなかった、あるいは封印されていたデーモン・コアが何らかの理由で再活性化したのではないかと。」
 なるほど。筋が通っている。
「それで、どうしますか?」
「そうですね、王都に救援を要請しつつ、これ以上犠牲者を出さないためにも早々に撃退を試みます。私の魔法が通用すればよいのですが…。」
「レオンさん、私もお手伝いします。」
 それはいけない、と制止しようとしたレオンさんの耳に、小声で私は打ち明けた。

――勇者の力、いりませんか?
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