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1章:踊り子 アナベル
踊り子 アナベル 17-2
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「……ここが、王都ティオール……」
「綺麗な場所よねぇ」
翌日、早朝から歩き続けようやくたどり着いた首都、ティオール。既に日が暮れかかっていた。
「アナベル、これを羽織ってくれ」
エルヴィスに呼び止められて、フード付きのマントを渡されて「え?」と首を傾げるアナベルに、エルヴィスは言葉を続けた。
「君の美しさは、周りを魅了するだろうからね」
「……それは、どうも……?」
アナベルは少し頬を赤らめて、マントに袖を通した。男性用なのかアナベルには大きかったが、アドリーヌが「そのままじゃちょっとねぇ……」といろいろ手を加えてくれた。そのおかげで大分歩きやすくなり、アナベルはフードを被ったまま歩き出す。エルヴィスとパトリック、レナルドも共にマントを羽織って歩いていた。
「……陛下が歩いていても誰も気付かないのね」
「それはこのマントに秘密がありまして。実はこのマントを羽織っていると、別人のように見える魔法が掛かっているんです」
「えっ、そんなことが可能なの?」
「もちろん、いろいろ試行錯誤したさ」
アナベルは自分が着ているマントを見て、それから周りを見てみた。アナベルたちを気にしている人たちはひとりもいない。
「……それじゃあ、ここで一旦お別れだ。……陛下、アナベルのことをお願いします」
「ああ」
「クレマン座長、お世話になりました。……また会えるよね?」
「会えるさ。いや、会えなくても、オレたちは家族なんだから、繋がっているよ。そうだろう、みんな?」
クレマンが後ろを振り返ると、旅芸人の仲間たちが大きくうなずいているのも、涙を堪えて微笑みを浮かべているのも見えた。アナベルはみんなに向かって大きく手を振り、その姿が見えなくなるまで見送った。
「……では、私たちも行こうか」
すっと手を差し出されたアナベルは、こくんとうなずいて彼の手を取った。馬車に乗り、目的地の近くまで向かう。
「王城とデュナン公爵のお屋敷は近いんですか?」
「いや、正反対のところにある。初めてティオールに来た人は、どちらが王城かわからないらしい」
くつくつと喉を鳴らして笑うエルヴィスに、アナベルは頬に人差し指を添えて首を傾げる。
「では、間違えてデュナン公爵のお屋敷に行く方も多いのでは?」
「王城に向かう人は馬車に乗れば迷わずつく。観光に来た者なら、パンフレットや住民に聞けばわかるしな……」
「……王城は平民も入れるのですか?」
「一部だけな。入れるのは入り口近くの公園だけだ」
「……公園?」
そうだ、と首を縦に振るエルヴィスに、アナベルはちらりと彼を見て不安そうに眉を下げる。
「どうした?」
「王城がかなり広いんだろうなぁと思って……。迷子になりそう」
「はは、私も幼い頃は決まったところしか行けなかった」
そんなことを笑って言うエルヴィスに、アナベルも小さく笑った。そして、目的地の近くまでつくと馬車を降り、エルヴィスに手を引かれながら歩き、大きな……とても大きな門の前に辿り着いた。ごくり、とアナベルが喉を鳴らした。エルヴィスが門番になにかを小声で話し、すぐに門が開いた。
「さぁ、行こう」
「……はい」
エルヴィスと共に、アナベルは歩き出す。これから出会う人に期待と不安を混じらせながらも、背を伸ばして前を見据え、迷いのない瞳と口角を上げて笑みを浮かべながら。
エルヴィスの手をぎゅっと握る。アナベルの手は緊張で冷たくなっていた。大丈夫だ、と言うように、エルヴィスがアナベルの手を握り返す。そのことにアナベルはホッとしたように少しだけ表情を緩ませた。
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