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3章:紹介の儀
紹介の儀 4-1
しおりを挟むアナベルはそっとエルヴィスを見上げて、楽しそうに声を弾ませた。
「舞踏会を開いてくださいませ!」
その言葉に、貴族たちは目を丸くした。アナベルが提案したことは、あまりにも意外だったからだ。
「舞踏会?」
「はい。わたくし、もっとお話ししたいと思っておりましたの。そして、エルヴィス陛下がどんな方なのか、皆様に知って欲しいの。もちろん、わたくししか知らないこともあるでしょうけれど……」
そう言って頬を赤らめて、恥じらうようにエルヴィスから視線を外す。
エルヴィスはふっと表情を緩めると、アナベルの髪を少し手に取り、ちゅっと音を立てて口付けた。
「――私はあまりダンスが得意ではないのだが……、君の望みならば」
「お優しいエルヴィス陛下、大好きですわ」
彼の口から望んでいた言葉が聞こえて、アナベルは笑みを一層深めた。
「……そういえば、アナベル、さんは踊り子でしたね。やはりダンスが得意なのですか?」
近くに居た男性がアナベルに話し掛けてきた。
アナベルは男性の方へと顔を向けると、少し困ったように眉を下げた。
「――それが、実は社交ダンスは習い始めたばかりですの」
ほんの少し悲しそうに俯く。質問をした男性は、慌てたように「そ、そうでしたか」と言葉を紡ぐ。
「その、美しい女性なので、きっと絵になるだろうと思い……」
「うふふ、ありがとうございます。舞踏会までにカルメ伯爵夫人に完璧に仕上げてもらいますわ」
カルメ伯爵夫人、と聞いて一気に騒がしかった会場が静まり返った。
「か、カルメ伯爵夫人に習っているのですか?」
恐る恐る……というように、女性が尋ねる。アナベルが小さくうなずくと、どこか同情したかのように憐れむ視線を向けられた。
(――マナーの鬼、らしいもんねぇ……)
――一ヶ月。
紹介の儀はなるべく早く、とのエルヴィスとダヴィドの要望に応えるため、カルメ伯爵夫人は宮殿に泊まり込み、徹底的にアナベルにマナーを教えた。
そして、ダヴィドがアンリオ侯爵に連絡を取り、アナベルはミシェルの家族と会うことになった。
(――ミシェルさんはお父様似だったのね)
その時のことを思い出して、小さく口角を上げる。
アナベルはカクテルをもう一口飲んで、ゆっくりと息を吐いた。
「皆様、カルメ伯爵夫人をご存知なのですね?」
「……彼女くらい、マナーをしっかりと守っている女性も珍しいくらいだからね」
どうやら苦手意識があるようだ。
確かに厳しかったが、イレインへの復讐に燃えているアナベルにとっては、丁度良いものだった。
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