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3章:紹介の儀
紹介の儀 その後 1-1
しおりを挟むそこからは沈黙が続いた。
アナベルも、エルヴィスも何も話さない。
ただ、紹介の儀をやり終えたことの安堵感のほうが勝っていた。
宮殿まで送られ、御者が馬車の扉を開く。
アナベルが降りようとする前に、エルヴィスが降りて彼女に手を差し伸べた。
アナベルは自分の手を彼に重ね、ゆっくりと馬車を降りる。
「ご苦労だった」
御者の手に小袋を渡すと、彼は驚いたように目を丸くしてエルヴィスを見た。
「確か、君のところには病に伏せている母君が居ただろう。それで薬を買いなさい」
「……! ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……!」
御者は何度も頭を下げた。
その光景を見たアナベルは「ふぅん」と呟く。
元々ここに居た人を御者にするのではなく、外注したのはなぜなのかと考えていたからだ。
そして、その理由を知ってニッと口角を上げる。
(――よく知っているのね、民のことを)
御者は大切そうに小袋を抱いて、もう一度頭を下げて去っていった。
宮殿内に入ると、執事とメイドたちが出迎えた。
「お帰りなさいませ。お疲れでしょう? お風呂の準備、できておりますよ」
「本当? それは嬉しいわ……、あれ、カルメ伯爵夫人は?」
「本日はお帰りになられました。明日の午後から、また来るとのことです」
「……?」
意外そうに目を瞬かせるアナベルに、執事が微笑ましそうに目元を細めて、こっそりと教えてくれた。
「――一ヶ月もこの宮殿に泊まられていたので、旦那様が恋しくなったようですよ」
「まあ、それは……お熱いのね」
ひそひそと話すアナベルと執事を見て、首を傾げるエルヴィス。
エルヴィスも「お風呂の準備が出来ていますよ」とメイドが声を掛けた。
ふたりは別々のお風呂に入り、今日の疲れを癒す。
アナベルはメイドに、ひとつお願いをしてみた。
すると、そのお願いを聞いたメイドはぱぁっと表情を明るくして、「お任せください!」と張り切ってアナベルに笑みを見せた。
そしてアナベルは、たっぷりと時間を使ってお風呂を堪能した後に、エルヴィスの元へと向かう。
しっかりと温かな格好ではあるが、夜はやはり冷える。
エルヴィスの部屋の前で何度か深呼吸を繰り返し、いざノックをしようとした瞬間、ガチャリと扉が開いてエルヴィスが出てきた。
「――人の気配がすると思ったら、君だったのか」
それは柔らかく、甘く、囁くような声だった――……。
「えっと、その、ワインとつまみを持って来たのだけど、一緒にどうかしら?」
「――良いのか、一緒で?」
窺うようにアナベルを見るエルヴィス。こくり、とアナベルが小さくうなずくのを見て、「おいで」と部屋に招き入れた。
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