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32話
しおりを挟むわたくしは目を瞬かせて、それからすっと身体を離した。リアンがベッドから起き上がり人型になるために目を閉じて、ぱぁっと淡い光がリアンを包み込む。そして――わたくしは思わず「きゃぁぁああっ!」と叫んでしまった。
「イザベラ様!?」
「何事ですか!?」
わたくしの悲鳴を聞きつけたヒューバートとジェレミーが部屋の中に入って来た。そして、ベッドの上にいる男性を見て、剣を抜いた。そう、男性――なのだ。少年ではなく、青年の姿。
「ま、待って、リアン、リアンなのっ」
「え? アリコーン様?」
「人の姿の時はイザベラ様と同じくらいの少年だったのでは……?」
リアンはマジマジと自分の手を眺めて、それからペタペタと自分の身体を触った。そして不思議そうに首を傾げるのを見て、ヒューバートがゆっくりと息を吐いてから剣を鞘に戻し、そしてジェレミーにちらりと視線を向けると、ジェレミーがこくりとうなずく。
「イザベラ様、こちらへ」
「え? あ、はい……」
部屋の外へと誘われ、わたくしは部屋から出た。
「アリコーン様の服を用意しないといけませんね」
「そ、そうね……」
まだ胸がドキドキとしている。頬に集まる熱に、それを逃すように深呼吸を繰り返す。ヒューバートが部屋から出てきて、「少々お待ちくださいね」とわたくしに声を掛けてから走り去っていった。恐らく、服を用意してくれるのだろう。十分もしないうちに戻ってきて、ヒューバートが中へ入りリアンと何かを話しているようだった。
「イザベラ様、どうぞ」
そう声を掛けられて、わたくしは部屋の中に入った。おずおずと視線をリアンに向けると、リアンは白いローブのようなものを着ていた。真っ白なその服は、一体どこから持って来たのだろうかと思ったけれど、翼も出ているしリアン用のものを用意されていたんだろうか……?
「おいで、イザベラ」
すっと両腕を広げるリアンに、わたくしは戸惑った。少年の姿をしているリアンになら飛び込めたけれど、青年の姿をしているリアンに飛び込む勇気がなかった。ジェレミーとヒューバートがとん、とわたくしの背中を押す。
じれったくなったのか、リアンのほうからわたくしに近付いて来た。そして、ぎゅっと抱きしめられる。最初はドキドキと自分の鼓動がうるさかったけれど、段々とリアンの鼓動を感じて目を閉じた。――良かった、と心から思った。
「……それにしても、どうして青年の姿になったのかしら?」
「うーん、どうしてだろう? でも、この姿ならイザベラの隣に立っていても違和感ないよね!」
……少年の姿のリアンでも違和感を感じたことはないのだけれど……。リアンは嬉しそうに声を弾ませていたので、わたくしは何も言わなかった。……もしかしたら、この姿はリアンの理想の姿だったのかもしれない。
「……リアンが目覚めたことを知らせないと!」
嬉しさのあまりそのことを忘れていた。わたくしが顔を上げると、リアンと目が合った。リアンが首を傾げる。こほん、とヒューバートとジェレミーが咳払いをしたのを聞いて、わたくしははっとして彼らに視線を向けた。ヒューバートが眉を下げて、
「本日はこのまま、お二人で話して下さい。積もる話もあるでしょう?」
とにこやかに言ってくれた。それに同意するようにジェレミーも首を縦に動かす。
「アリコーン様が目覚めたことは、こちらから伝えておきますね」
ジェレミーもそう言って微笑む。彼らは一礼してから部屋から出ていく。部屋に残されたのはわたくしとリアンだけ。……わたくしはそっと、リアンから離れようとした。
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