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男子寮のミステリー
ハロウィンの招待状/男子寮のミステリー
しおりを挟む男子寮の夜は、どこか浮き足立つような雰囲気に包まれていた。
廊下の窓には切り抜かれた紙のコウモリが揺れ、食堂の隅には寮生たちの手作りのジャック・オ・ランタンが赤く笑っている。
カーテンの隙間からは冷たい風が吹き込み、外の月光が仄白く床を照らしていた。
その静けさの中で、輪廻は自室の机を見下ろしていた。
「おかしいな……確かここに置いておいたのに、招待状がない。」
テーブルに置かれていたはずの招待状が影も形もない。
小さな紙切れ一枚であるはずなのに、それがないだけで胸の奥にざらつく不安が広がる。
「えぇ?無くしたってわけ?」
ソファに足を投げ出していた桃瀬が、半ば呆れたようにこちらを見やる。
「ほんっとドジだよね、こういうの。ボクなら絶対そんなミスしないし。」
「いや、無くしたっていうより……無くなった、って感じなんだ。」
輪廻は視線を落としたまま答える。ふと目が合うと、桃瀬の瞳は軽口の奥にどこか真剣さを宿していて、心臓が小さく跳ねた。
「ひ、ひぃ……!招待状が勝手に消えるなんて、幽霊の仕業じゃないのか……?」
緑の声が部屋の隅で震える。怯えたように輪廻の腕のそばに寄ってきて、その距離にまた別の鼓動が走った。
「幽霊なんているわけないでしょ?」
桃瀬は冷たく言い放ちながらも、すぐに身を起こして笑う。
「でもまぁ、事件だよね。パーティー行けないと困るし……ボクも付き合ってあげる。」
その軽い言葉が妙に心強く、輪廻はほっと小さく息をついた。
廊下に出ると、空気は一層冷たく、足音がやけに響いた。
窓の外から差し込む月明かりの下、床には細かな紙片が散らばっていた。
「ほら、見てよこれ。招待状の破片っぽくない?」
桃瀬がしゃがみ込み、切れ端を拾い上げる。赤と黒の文字が掠れたその紙を、彼は光に透かすように見つめ、鼻先を近づける。
「どう見ても故意に破かれてるじゃん。……なんか嫌な予感しかしないんだけど。」
「えぇぇ……なんでこんなところに……。もしかして、犯人が隠す途中で落としたとか……?」
緑はおそるおそる後ろを振り返る。その仕草に輪廻は思わず手を伸ばしかけた。
「紙切れが散らばってるなら、隠した場所は近いはずだよ。」
輪廻は冷静に声を出しながら、心の奥で小さな緊張が波打つのを感じていた。
やがて、緑が突然立ち止まる。
「あっ……黒いマントの人が……!さっき廊下を走ってたよ!すごく急いでて……絶対怪しいって!」
「黒いマントって……そんな定番すぎない?」
桃瀬は笑いながらも、どこか瞳を細める。
「でも……もし本当にそうなら、面白い展開じゃん。行ってみよっか。」
その無邪気な声音に、不思議と輪廻の胸は少しだけ高鳴った。
調査を進めるうちに、犯人は男子寮の新入りの生徒だと判明した。
寮の隅、誰もいない影の中で彼は黒いマントを抱きしめるように羽織り、怯えた瞳を伏せていた。
「どうして招待状を隠したのか、話してくれないかな?」
輪廻が静かに問いかける。
「……編入してきたばっかで、僕だけ招待状がなくて……それで、つい……」
桃瀬は真っ直ぐに彼を見つめる。ため息をつきつつも、その声音は柔らかかった。
「ふーん?招待状が欲しかったってわけかぁ。なら最初から相談すれば良かったのに。ボクたちなら手伝えたんだから。」
「そうそう!招待状なんてどうとでもなるだろ。みんなでパーティーに向かおうぜ!」
葵が豪快に笑い、新入りの肩を叩いた。
やがて招待状は無事に戻り、パーティーの夜が訪れた。
寮の食堂には仮装した寮生たちの笑い声が響き、かぼちゃの灯りが揺れる。
「これで事件解決ってわけだね。やっぱりボク、こういうの得意かも。」
桃瀬は胸を張って笑い、輪廻と視線が交わった瞬間、ふと照れくさそうに視線を逸らした。
輪廻はその仕草に小さな熱を覚え、そっと呟く。
「これが……ハロウィンの魔法、なのかもしれないね。」
星空の下、男子寮のハロウィンは、最後まで甘く不思議な余韻を残していた。
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