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男子寮のミステリー
初詣/男子寮のミステリー
しおりを挟む新しい一年を迎えた男子寮の生徒たちは、白い息を吐きながら神社へと向かっていた。
冬の朝は澄んだ冷気に包まれ、境内には参拝客のざわめきと鈴の音が響き渡っている。雪に濡れた石畳の上で、灯籠の火が暖かく揺らめいていた。
輪廻たちもそれぞれ絵馬を手にし、筆に願いを託していく。
「今年はみんなが無事に過ごせますように。」
輪廻は真剣な表情で文字を走らせ、その横顔には静かな気配が漂っていた。
「ボクはね、もっと楽しいことが起きますように、って。」
桃瀬は軽い調子で言いながらも、絵馬を掛ける瞬間に輪廻をちらりと見やる。探るような視線に、僕の胸は不意にざわめいた。
「平凡でいいから……災難が起きませんように。」
緑は小さな声で呟き、縋るように絵馬を握りしめる。手先の震えに気づいた輪廻が、さりげなく背に手を添えていた。
初春らしい清々しさが広がる境内。しかしどこか張り詰めた気配も混じっているように思えた。
しかしその後、神社を訪れた巫女が声を震わせながら告げた。
「絵馬が……いくつか、消えてしまっているんです。」
その声を聞いた参拝客がざわつき、冷たい空気が一層張り詰める。
「事件だね。」
桃瀬がニヤリと笑い、輪廻を意識するように唇を吊り上げる。
「面白いじゃん。ボクたちで解決しちゃおうか。」
「ま、まさか……幽霊の仕業とかじゃないよな?」
緑が不安げに袖を掴んだ。
「まず周辺を調べてみよう。」
輪廻が落ち着いた声で告げ、みんなは境内を歩き出した。
調査の中で、いくつかの手がかりが見つかった。
社の奥へ続く小道に落ちていた、破れた絵馬の紐。
そして緑の震える証言――「さっき、人影が社の方へ動いていた」という。
「幽霊……じゃないよな?」
緑は怯え、輪廻の袖を握る。
「いや、これは人間の仕業だって。」
桃瀬は口角を上げる。
「古い社の扉が開いてたんだ。怪しい匂いがするでしょ?」
彼の得意げな表情に、輪廻の胸は熱を帯びた。寒さではない、別の熱が頬に昇る。桃瀬の視線と白い息が絡むたび、心の奥が揺さぶられた。
やがて、絵馬を移した人物が明らかになる。
それは神社の神主だった。
「絵馬を通じた願いを神様に近づけるため、古い風習に従って社の奥へ移したのです。」
彼は静かに説明する。しかし案内も告知もなく行われたため、人々の不安を招いてしまったのだった。
だがそれだけではなかった。神主は続けて言葉を重ねる。
「近頃、形ばかりの願いが増えているんです。純粋な願いではなく、他人を揶揄するような絵馬まで……。本当に祈りたい者の願いがかき消されないように、私は……」
その言葉に、皆は黙り込んだ。失われたのはただの形式ではなく、人々の想いの形だったのだ。
「ふーん。でもさ、それならちゃんと説明すべきでしょ。」
桃瀬が肩をすくめる。けれどその声には苛立ちよりも、納得の色が混じっていた。
「まぁ、いろいろあるよな……。」
葵が腕を組み、真剣に呟く。
「誤解が解けたなら、それでいいんじゃないかな。」
輪廻は境内に掛けられた絵馬を見上げ、吐く息を白く溶かした。
穏やかな空気が戻った境内で、桃瀬が輪廻の耳元に近づく。
「ねぇ、そういえばどんなお願い事をしたの?」
吐息が頬を掠め、胸の鼓動が跳ね上がる。
境内の鈴の音が遠くで鳴り、新しい一年の始まりを告げていた。
彼らはそれぞれの願いを胸に刻みながら、まだ知らない一年の物語を歩き出していく。
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