23 / 51
男子寮のミステリー
幻のワイン/男子寮のミステリー
しおりを挟む夜の繁華街から少し外れた路地に、その店はひっそりと佇んでいた。
磨き込まれた木の扉をくぐると、琥珀色の光が迎えてくれる。
木目の深いカウンター、柔らかに響くジャズ。
外の喧騒とは無縁の、穏やかな静寂が広がっていた。
テーブル席に並んで座るのは真黄と紫苑。
互いにグラスを手に、控えめに傾けながらゆっくりと言葉を交わす。
「お前を一度ここに連れてきたかったんだ。」
真黄が柔らかに笑みを浮かべる。その声音には、軽い誘い以上の思いが滲んでいた。
「ここのオーナーはソムリエ資格を持っていて、仕入れるワインはどれも一級品だ。あの“幻のワイン”も、ここでしか味わえないらしい。」
紫苑は淡く頷き、グラスの縁に指を滑らせながら応じた。
「幻のワイン……その響きだけで胸が高鳴るよ。飲む前から物語を感じるようだ。」
短い沈黙。
ジャズの旋律が二人の間を満たす。
紫苑の横顔を見つめる真黄の視線には、どこか親密さが宿っていた。
──だが、その静寂は唐突に破られる。
バーカウンターの奥から、慌てた様子でオーナーが駆け寄ってきたのだ。
「すみません! お出しするはずだった“幻のワイン”が……消えてしまったんです!」
紫苑と真黄の視線が交差する。
淡い笑みを消した二人は、同時にわずかに身を乗り出した。
「幻のワインが?」
真黄が低く問い返す。
オーナーの肩が震えた。
「秘蔵のヴィンテージです。常に鍵付きの棚に保管していて、鍵は私が管理していました。しかし……気づいたときにはもう、跡形もなく。」
「鍵に異常はなかったのか?」
紫苑が静かに尋ねる。
「ええ、破られた形跡はありません。」
悲痛な面持ちで頷くオーナー。
真黄は息を吐き、ゆるやかに立ち上がった。
「……興味深い状況だ。少し調べさせてもらえないか?」
紫苑も椅子を引き、真黄の隣に並ぶ。
「謎解きは得意分野でね。協力させてもらおう。」
二人が視線を交わすと、その間に言葉ではない信頼が走った。
案内されたのは、鍵付きの棚。
木の扉はきちんと閉じられており、破損の痕跡は見当たらない。
真黄は棚の蝶番を撫でながら考え込む。
「鍵が破られていないのなら、別の経路から……」
紫苑はふと立ち止まり、棚の周辺に漂う微かな匂いに眉を寄せる。
「香水の残り香がするな。……この香りは強い。偶然残るものじゃない。犯人は足跡ならぬ“香り”を残していったらしい。」
オーナーの顔に動揺が走る。
真黄はさらに資料を手に取り、店の見取り図を眺めた。
指先で線をなぞり、やがてふっと表情を変える。
「……妙だ。この図面と実際の構造が一致していない箇所がある。」
「つまり?」
紫苑の目が細められる。
「隠し通路だ。棚の裏に繋がっている可能性がある。もしそうなら、鍵を使わずにワインを持ち出せる。」
紫苑は小さく頷いた。
「なるほど。ならば、その通路を探すしかない。」
二人はバーの奥を調べ、壁の一部に不自然な隙間を見つけた。
押し開けると、そこには人ひとり通れるほどの細い通路が暗闇へと続いている。
「……やはりな。」
真黄が低く呟く。
湿った空気の中を進むと、小さな空間に木箱が置かれていた。
中には、例の幻のワイン。
その頃、紫苑は怪しい行動をとっていた従業員がいたとの話を常連客から聞き出した。
真黄は箱を抱え、静かに通路を戻る。
「犯人は香水を纏っていた人物。そして、頻繁に席を立っていた従業員──条件が一致する。」
オーナーの視線がその男へと向かう。
従業員は顔色を失い、動揺を隠せない。
「……まさか、こんな手を使っていたとは。」
オーナーの言葉に、店内の空気が張り詰めた。
事件はこうして解決した。
幻のワインは無事にオーナーの手に戻り、店に再び静けさが訪れる。
席に戻った真黄と紫苑。
ふたたびジャズが流れ、グラスが二人の間に置かれる。
「困ったときはお互い様だな。」
真黄が控えめに微笑む。
紫苑はグラスを持ち上げ、琥珀色の液体を光にかざした。
「……では、この一杯で夜を締めくくろうか。」
グラスが触れ合う小さな音が、夜のバーに溶けていく。
その一瞬、互いの指先がかすかに触れ、淡い緊張と静かなときめきが心を揺らした。
洗練された夜に訪れた小さな事件と、心に残る余韻。
二人の夜は、ワインの余香のように静かに続いていった。
15
あなたにおすすめの小説
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
紳士オークの保護的な溺愛
こむぎこ7g
BL
■ 世界と舞台の概要
ここはオークの国「トールキン」。
魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。
トールキンのオークたちは、
灰色がかった緑や青の肌
鋭く澄んだ眼差し
鍛え上げられた筋骨隆々の体躯
を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。
異世界から来る存在は非常に珍しい。
しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。
⸻
■ ガスパールというオーク
ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。
薄く灰を帯びた緑の肌、
赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。
分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、
銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。
ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、
貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。
● 彼の性格
• 極めて面倒見がよく、観察力が高い
• 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い
• 責任を引き受けることを当然のように思っている
• 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手
どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。
⸻
■ 過去と喪失 ――愛したオーク
ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。
家柄も立場も違う相手だったが、
彼はその伴侶の、
不器用な優しさ
朝食を焦がしてしまうところ
眠る前に必ず手を探してくる癖
を、何よりも大切にしていた。
しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。
現在ガスパールが暮らしているのは、
貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。
華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。
彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。
それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。
⸻
■ 現在の生活
ガスパールは現在、
街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。
多忙な職務の合間にも、
洗濯、掃除、料理
帳簿の整理
屋敷の修繕
をすべて自分でこなす。
仕事、家事、墓参り。
規則正しく、静かな日々。
――あなたが現れるまでは。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
聞いてた話と何か違う!
きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。
生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!?
聞いてた話と何か違うんですけど!
※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。
他のサイトにも投稿しています。
君が僕を好きなことを知ってる
大天使ミコエル
BL
【完結】
ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。
けど、話してみると違和感がある。
これは、嫌っているっていうより……。
どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。
ほのぼの青春BLです。
◇◇◇◇◇
全100話+あとがき
◇◇◇◇◇
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる