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男子寮のミステリー
廃校舎の少年/男子寮のミステリー
しおりを挟む真夏の夜。
男子寮の長い廊下は、熱を帯びた昼間の空気をまだ抱きながらも、静けさに支配されていた。
窓の外からは虫の声が細く聞こえ、時折、遠くで夜風がカーテンを揺らす。
その静寂を破るように、ある一室からは笑い声が漏れていた。
「さあ、ビビる準備はできてる? 今夜のためにとびっきり怖い映画を選んだんだから、覚悟してよね!」
リモコンを手にした桃瀬が、誇らしげな笑みを浮かべる。
輪廻と緑は、彼の部屋のソファに腰掛けていた。
カーテンを閉め切った室内は軽量なプロジェクターの光だけに照らされ、自然と心細さを誘う。
「でも……怖いの苦手なんだけどなぁ……」
緑はソファの隅で毛布を抱き、すでに怯えた様子を見せている。
輪廻はその横顔に目をやりながら、苦笑まじりに言った。
「ホラー映画ってね、意外と奥が深いんだよ。……怖いけど、視点を変えれば怖くなくなるかも。」
桃瀬は鼻で笑い、肩をすくめる。
「ふん、怖いくらいがちょうどいいんだって。まあ、僕が選んだんだから安心しなよ。面白いのは保証するから。」
映画が始まると、不気味な影が壁に踊った。
三人はじっと画面に見入る。
物語はまだ静かな導入部分で、廃墟の映像と薄暗い廊下が続いていた。
だが突然、フリーズしたように光が爆ぜ、壁はなにもない空間になってしまう。
「えっ、なんだよこれ?」
桃瀬が苛立ちをにじませ、リモコンを乱暴に操作する。
輪廻も眉をひそめて、配線に視線を移した。
「電源が落ちたのかな……?」
緑はソファの隅で小さく震え、すでに半分毛布に隠れている。
「のっ……呪いの動画?」
数分後、再び光を取り戻した。
だがそこに映ったのは映画ではなく、見知らぬ廊下の映像だった。
古びた床、割れた窓。
その中央に、ひとりの少年の影が立っていた。
彼は画面越しにこちらを見つめ、やがてか細い声で言葉を繰り返す。
「助けて……助けて……」
桃瀬は息を呑み、リモコンを握る手に力を込めた。
「なにこれ……? これ、映画じゃないんだけど!」
輪廻は画面を凝視し、声を震わせながら呟く。
「この廊下……どこかで見たことがある……」
緑はもう耐えきれず、毛布に頭まですっぽり隠した。
「やっぱり呪われてるって! もう電源切ろうってば!」
しかし、映像から目を逸らせなかった桃瀬はプロジェクターのケーブルを確認した。
「ほら、見て。これ……普通じゃない傷がついてる。」
輪廻もその傷跡を見つめる。
「確かに……刃物で削られたみたいだ。どうして……?」
緑が毛布の隙間から顔をのぞかせ、ためらいがちに言葉をもらした。
「あの廊下……寮の近くにある廃校舎に似てるんだ。……入学したての時、間違えて入っちゃった事があるんだけど。」
「廃校舎か……」
桃瀬の瞳が興味で輝いた。
「決まりだね。調査に行こう! こういうの放っておけないじゃん。」
「でも……あんな映像が出るなんて、普通じゃないよ。危険かもしれない。」
輪廻が消極的に言ったが、桃瀬は笑みを浮かべて振り返った。
「何言ってんのさ。みんなで行けば怖くないって。」
緑は必死に首を振る。
「怖いに決まってんじゃん……でも……ひとりにされて呪われたらもっと嫌だしなぁ。」
結局、三人は懐中電灯を手に廃校舎へ向かうことになった。
廃校舎は、月明かりに照らされて静かに佇んでいた。
割れた窓から入り込む風が、錆びた鉄の匂いを運んでくる。
「ここ……本当に画面に映ってた場所だ……」
輪廻が小声で呟く。
緑は桃瀬の腕にしがみつきながら、震える声を出した。
「うわわっ……えっ……うわぁっ……」
桃瀬はちらりと緑を見つめ、呆れたように微笑を浮かべる。
「緑ってば。何もいないとこに向かって叫んでるよ。」
暗い廊下を進むと、床に古びたノートが落ちているのが見つかった。
「これ……」
緑が拾い上げると、埃が舞った。
輪廻が手を伸ばし、ノートを受け取ってページをめくる。
そこには、乱れた文字で思いの丈が書き殴られていた。
「……廃校舎で命を落とした少年の……記録?」
輪廻の声が静寂に響く。
「存在を、知ってほしかったんだね……」
桃瀬がページに目を落とし、低く呟いた。
緑は涙を浮かべながら震える。
「怖いけど……悲しい……かな。」
ノートを手に供養を行うと、校舎の空気がわずかに変わった。
重苦しい気配がすっと薄れ、少年の姿は静かに消えていった。
同時に、寮の異常もぴたりと止んだ。
寮に戻った三人は、熱いお茶を手に一息ついた。
窓の外からはまだ夏の虫の声が続いている。
「なかなか面白かったでしょ? 次はもっと派手な謎を探しに行こうよ!」
桃瀬が無邪気に笑う。
「いや……普通の映画鑑賞会がいいな。」
輪廻は疲れをにじませつつも、安堵した表情を浮かべた。
「次はホラーじゃなくてアクションにしようぜ!」
緑はカップを抱きしめるようにしながら、必死に叫んだ。
こうして、真夏の夜に巻き起こった奇妙な事件は、ささやかな余韻を残して幕を閉じた。
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