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男子寮のミステリー
消えた古書/男子寮のミステリー
しおりを挟む学校の図書室は、夕暮れの光を受けてしんと静まり返っていた。
窓から射し込む橙色の光が古い木製の棚や机に長い影を落とす。紙とインクの匂いが混ざり、外界から切り離されたような閉ざされた気配が漂っていた。
その奥、「古書コーナー」は生徒たちから敬遠されている。革表紙の書物や記録本がひっそりと並び、時折棚の隙間から埃が舞う。
事件は、そこで起こった。
「ヤバいかも……目録に載ってる古書が一冊足りない!」
図書委員の緑が青ざめた顔で叫ぶ。震える声に応じたのは、保健医の紫苑だった。
「調べてみたが、監視カメラには何も映っていなかった。つまり……持ち出したのは内部の人間かもしれないな。」
静かな言葉の奥に、張り詰めた気配があった。
不安を抱えたまま寮へ戻った緑は、仲間に打ち明ける。輪廻、葵、桃瀬の三人が集まり、緑の小声に耳を傾けた。
「古書が消えたんだ……俺一人じゃどうにもできなくて。」
「よし、俺たちで解決しよう!」葵が拳を握り、勢いよく言う。
「ふん、面倒だけど面白そうだし、付き合うよ。」桃瀬が笑い、目を輝かせる。
輪廻は深く考え込みながらも、静かに口を開いた。
「うん。みんなで協力すれば解決できるよ。現場に戻ろう。」
その落ち着いた声に、緑はほんの少し安心した。
再び訪れた図書室は、夕刻の静謐に包まれていた。
棚の影を探る彼らの足音が床板を軋ませるたび、鼓動が速まる。
「ここ……紙切れが落ちてる。」
桃瀬が棚の下から小さな紙片を拾う。輪廻と緑が自然と肩を寄せ、覗き込んだ。
「古書から破られたページの一部かもしれない。」葵が低く呟く。
輪廻は紙片を観察し、眉をひそめた。
「埃も被ってないし……最近触れられた痕跡かもしれないね。」
横顔を見つめていた緑は、胸の鼓動が不意に跳ね上がるのを覚え、慌てて目を逸らした。
さらに緑が棚の端に破れた紙の一部を見つける。
「盗もうとした誰かが慌てて引っ掛けたのかも……」
そのとき葵が思い出したように言う。
「そういえば、地下に変な本があるって噂があったよな。そこも見てみようぜ。」
四人の間に緊張が走り、無言で頷き合う。
地下へと続く階段は薄暗く冷たい。
揺れるランプに影が伸び縮みし、緑は思わず桃瀬の袖を掴んだ。
「ちょ、ちょっと……ここモンスターとかでそうじゃね?」
「怖がりだなぁ。でも……まぁ、別にいいけど。」
地下室の空気は湿って重い。そして、机の上には、問題の古書がひっそりと置かれていた。
「これだ……!」輪廻が慎重に表紙へ手を伸ばす。冷たい革の感触が指先に伝わった。
「見て、このページ。落書き……いや、名前がある。」
桃瀬が覗き込み、声を潜める。
「ただのイタズラじゃないみたいだね。」葵が真剣に言う。
輪廻がページを読み取り、低く告げた。
「……古書に記されていたのは、ある一族の系譜だ。この名前……消えたのは偶然じゃないかも。」
緑はその横顔に見入り、胸が熱くなるのを感じた。
やがて調査の末、犯人は図書室の常連の生徒と判明した。
彼は古書に記された系譜が自分の祖先に関わると知り、調べたい一心で持ち出したのだった。
「気持ちは分かる。でも盗むのは間違ってる。」葵が真っ直ぐに告げる。
「正式に調べればいいんだよ。隠すより、そのほうがずっと楽でしょ?」桃瀬の言葉には、不思議と優しさがあった。
生徒は肩を落とし、古書を返却した。
「……はい、すいませんでした。」
その声に、誰もが黙って頷いた。
静かな図書室に戻った古書は、再び棚に収められる。
紫苑が背表紙を撫で、柔らかく微笑んだ。
「これでまた静けさが戻るな。……君たちのおかげだ。」
窓から差す夕日が棚を染める中、四人は肩を並べて立っていた。
事件は解決した。けれど、それ以上に――互いの距離がわずかに近づいたことを、緑は確かに感じていた。
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