2 / 81
いっしょう!
2
しおりを挟む
お金にならない研究ばかりしている父に代わって、アリーは領地を切り盛りしていた。とはいえグランツ公爵家の領地に比べれば、猫の額どころか雀の涙ほどの広さしかない。
10回目にして手に入れたアリー・クルネア男爵令嬢としての人生は、ある意味ではハードだ。なにしろ齢6歳から畑を耕している。
「おほほほほほほ、でもわたしにとっては超絶イージーモードーなのよ~、手にまめができようが日に焼けようが、断頭台に行かないで済むんですもの~」
すね肉のシチューを弱火にした後、アリーは鍬を握り締めて領地に繰り出した。何しろ家が狭いので、10歩歩けばもう農地だ。
男爵家の土地から得られる収入は微々たるもの、それで小作人の生活環境を向上させるのは難しい。
しかしアリーには9回の公爵令嬢人生で得た知識がある。収入の一部を投資に回し、手堅くリターンを得ていた。
小作人たちの住む家、領地内にかかる橋、小さな病院と学校も整備できたから、上々の部類だと思う。
「まあ、それですっからかんになっちゃったけど! でもでも、領地の民はいずれジャンを助けてくれるはずだもの。大事にしなくちゃね~」
病院はジャンのために必要だし、学校も以下同文。アリーは嫁に行くつもりはないから、持参金も衣装代も必要ない。
「あああ~この土の感触ときたら! 生きてるって感じがしていいわああああああ~!」
大声で叫びながらざっくざく畑を耕しているアリーを、領民はいつだって暖かい顔で見つめてくれる。
「わたしは! 一生! ここから出ない!」
クルネア男爵家から、王都ファールドンは遥か彼方。万に一つもマクシミリアンに会うことは無いし、そもそも田舎すぎて情報が入ってこないし、奴が今何をしているかなんて興味はない。
「まあ、グランツ公爵家にアリーシアなんて娘はいないってことだけは、確認したけどね!」
ツテをたどって何とか情報を仕入れた時は「よかった、殺される公爵令嬢なんていなかったんだ」とアリーは滂沱の涙を流したものだ。
それにしても1回目の人生はきっちり18歳まで生きたが、2回目からは何かが変だった。
「断頭台で死んだーって思った瞬間に、婚約する7歳に巻き戻って、次の瞬間には13歳、17歳、18歳みたいなぽぽぽぽーんって進行だったもん。そんなんで断罪を回避できるかっての!」
まあ、そのおかげで繰り返しの人生にも何とか耐えられたわけだが。
10回目の人生アリー・クルネアは、ちゃんと0歳時から成長している。記憶が戻ったのはやっぱり7歳だったけど、普通に8歳9歳と歳を重ねた。
グランツ公爵家の馬鹿どもと違い、クルネア家の家族はみんな暖か温かい。
父ヨゼフは39歳、母フロリアは35歳、弟ジャンは10歳。貧乏ながら仲のいい家族万歳だ。
「アリー、アリー、どこにいるの」
「はあいお母様、アリーはここよ~」
家から呼ばれて農地から答えられる近さ、超便利。アリーは微笑みながらぶんぶん手を振った。
「もう、アリーったら。あなたは腐っても男爵令嬢なんだから、もうちょっとおしとやかにしなさいとあれほど……」
「ごめんなさいお母様、わたし『おしとやか』の在庫は使い果たして生まれてきたの」
なんせ9回も公爵令嬢しましたから、と心の中で思いつつ、アリーは泥で汚れた顔を手で拭った。
「それでどうしたの、お母様」
「あああ、そうだった! あなたにとってもいいお話が来たの! なんとなんと、王宮の侍女として上がってほしいんですって! よかったわあああ、王宮侍女と言えば、男爵家の娘最大の名誉よおおおおお!!」
「はああああああああああああ!!!!」
領地内での「奥様とお嬢様は騒がしい」との評判もうなずけるほど、アリーとアリーの母は互いに全力で叫びまくった。
母は喜びで、アリーは驚愕でと叫ぶ内容に違いはあるが。
「い、いいいい、嫌よ! わたしは一生王都にはいかないと心に決めているし、ましてや王宮だなんて!」
「だってだって、侍女になれば支度金がたくさん頂けるのよ! アリー、あなたには秘密にしていたけれど、ジャンは実は重い病で、王都で手術をしないと長くないのおおおおおお!」
「嘘でしょおおおおおおお!!!!」
アリーは冗談抜きで卒倒した。倒れたのが耕したばかりの土の上で幸いだった。泥まみれにはなったが、怪我はしなかった。
10回目にして手に入れたアリー・クルネア男爵令嬢としての人生は、ある意味ではハードだ。なにしろ齢6歳から畑を耕している。
「おほほほほほほ、でもわたしにとっては超絶イージーモードーなのよ~、手にまめができようが日に焼けようが、断頭台に行かないで済むんですもの~」
すね肉のシチューを弱火にした後、アリーは鍬を握り締めて領地に繰り出した。何しろ家が狭いので、10歩歩けばもう農地だ。
男爵家の土地から得られる収入は微々たるもの、それで小作人の生活環境を向上させるのは難しい。
しかしアリーには9回の公爵令嬢人生で得た知識がある。収入の一部を投資に回し、手堅くリターンを得ていた。
小作人たちの住む家、領地内にかかる橋、小さな病院と学校も整備できたから、上々の部類だと思う。
「まあ、それですっからかんになっちゃったけど! でもでも、領地の民はいずれジャンを助けてくれるはずだもの。大事にしなくちゃね~」
病院はジャンのために必要だし、学校も以下同文。アリーは嫁に行くつもりはないから、持参金も衣装代も必要ない。
「あああ~この土の感触ときたら! 生きてるって感じがしていいわああああああ~!」
大声で叫びながらざっくざく畑を耕しているアリーを、領民はいつだって暖かい顔で見つめてくれる。
「わたしは! 一生! ここから出ない!」
クルネア男爵家から、王都ファールドンは遥か彼方。万に一つもマクシミリアンに会うことは無いし、そもそも田舎すぎて情報が入ってこないし、奴が今何をしているかなんて興味はない。
「まあ、グランツ公爵家にアリーシアなんて娘はいないってことだけは、確認したけどね!」
ツテをたどって何とか情報を仕入れた時は「よかった、殺される公爵令嬢なんていなかったんだ」とアリーは滂沱の涙を流したものだ。
それにしても1回目の人生はきっちり18歳まで生きたが、2回目からは何かが変だった。
「断頭台で死んだーって思った瞬間に、婚約する7歳に巻き戻って、次の瞬間には13歳、17歳、18歳みたいなぽぽぽぽーんって進行だったもん。そんなんで断罪を回避できるかっての!」
まあ、そのおかげで繰り返しの人生にも何とか耐えられたわけだが。
10回目の人生アリー・クルネアは、ちゃんと0歳時から成長している。記憶が戻ったのはやっぱり7歳だったけど、普通に8歳9歳と歳を重ねた。
グランツ公爵家の馬鹿どもと違い、クルネア家の家族はみんな暖か温かい。
父ヨゼフは39歳、母フロリアは35歳、弟ジャンは10歳。貧乏ながら仲のいい家族万歳だ。
「アリー、アリー、どこにいるの」
「はあいお母様、アリーはここよ~」
家から呼ばれて農地から答えられる近さ、超便利。アリーは微笑みながらぶんぶん手を振った。
「もう、アリーったら。あなたは腐っても男爵令嬢なんだから、もうちょっとおしとやかにしなさいとあれほど……」
「ごめんなさいお母様、わたし『おしとやか』の在庫は使い果たして生まれてきたの」
なんせ9回も公爵令嬢しましたから、と心の中で思いつつ、アリーは泥で汚れた顔を手で拭った。
「それでどうしたの、お母様」
「あああ、そうだった! あなたにとってもいいお話が来たの! なんとなんと、王宮の侍女として上がってほしいんですって! よかったわあああ、王宮侍女と言えば、男爵家の娘最大の名誉よおおおおお!!」
「はああああああああああああ!!!!」
領地内での「奥様とお嬢様は騒がしい」との評判もうなずけるほど、アリーとアリーの母は互いに全力で叫びまくった。
母は喜びで、アリーは驚愕でと叫ぶ内容に違いはあるが。
「い、いいいい、嫌よ! わたしは一生王都にはいかないと心に決めているし、ましてや王宮だなんて!」
「だってだって、侍女になれば支度金がたくさん頂けるのよ! アリー、あなたには秘密にしていたけれど、ジャンは実は重い病で、王都で手術をしないと長くないのおおおおおお!」
「嘘でしょおおおおおおお!!!!」
アリーは冗談抜きで卒倒した。倒れたのが耕したばかりの土の上で幸いだった。泥まみれにはなったが、怪我はしなかった。
398
あなたにおすすめの小説
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる