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にしょう!
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クリスは少し曲げた人差し指を口元に当て「私に考えがあります」的雰囲気を出しながら前に出てきた。
「……火の精霊よ。これは命令であり懇願である。ただ善行のため、お前の炎と熱を我に捧げよ」
それは教科書通りの詠唱だった。声が異様に太くて低いということを除けば百点満点だった。しかしクリスが手を前に突き出しても、火の精霊が出てくる気配はない。
その場にいる全員が息を詰めるようにして待っていると、少し先の木の後ろから、こちらをチラッチラッと伺っている2体の火の精霊の姿が目に入った。
どこからどう見ても「お前が行けって」「いやお前が行けって」と役目を押し付け合っている。
精霊の世界にじゃんけんがあるのかどうかは知らないが、それっぽい方法で決着がつくまでに要した時間、およそ5分。
アリーは頭を抱えて転げ回りたくなった。これでは正拳突きと変わらないし、実戦でまったく役に立たない。
最終的には、そこら辺の枯れ木にちゃんと火が付いた。弱々しすぎる火だった。
決死の覚悟で突進してきた火の精霊を責めるわけにもいかないが、瞬発力勝負の魔法の世界で、この結果はあんまりすぎる。
「やはりそうか……」
口元に手を当てて、クリスが声を震わせる。
「やっと確信が持てました。我々はどうやら、筋肉を増強しすぎて見た目が恐ろしくなってしまったようです」
『いや今持ったんかい』
たっくんがすかさずナイスなツッコミをした。お山と言えば彼のフィールド、さすがは忠実なる口寄せ動物、呼んでなくてもちゃんと付いてくる。
「ずっと不思議に思っていたのです。この素晴らしい肉体を得て、迸るほどに魔力が湧いてくるようになったというのに、なぜ精霊たちが詠唱に応えてくれないのか。我らの強さがまだ足りない──それはたしかにそうでしょう。しかし、本当の答えは我らがずっと見続けている夢の中にありました……!」
「なんだと?」
マクシミリアンが眉を上げる。闘気や覇気はしまい込んであるのに、眼差しひとつで精霊を十体は串刺しに出来そうな威圧感だ。
クリスが「思い出してみてください」と顔を上げた。
「我らが見続けている夢は、ふんわりしてぼんやりしている。『脅威』の姿形もわからない。惰弱極まりない己の姿を延々と見せられ、我らはモヤシのような弱々しさを唾棄すべきものと考えるようになりました」
「そ、それはその通りだな」
脳筋マーティンがうなずく。クリスは曲げた人差し指を顎に当てて言葉を続ける。
「自然界の精霊たちは、弱きものを助ける。つまり女子供に優しいというのは、教科書にも載っています。しかし夢の中の惰弱な私の周囲を、精霊たちが心配そうに取り囲んでいた。ひとつ魔法を呼び出すだけでも瀕死状態だったというのに」
「そ、そういえば……」
思い当たることがあるのか、成り上がりスティーブンが目を見開く。クリスは考えをまとめるように目を閉じた。
「……夢を見ながら思っていたんです。これが世にいう『イケメン無罪』なのかと。あんなに惰弱で魔力もすっかすかの癖に、彼奴らには呼ばなくても精霊が寄ってきていた……っ! 魔法を使う体力もないというのにですよ!」
「それはつまり、精霊たちにとって魔力の量や質は二の次で、呼び出す側が男の場合は美しさだけが重要ということか?」
リーダー格ジェフリーが恐る恐るといった声を出す。クリスは手を前に突き出して「そうです!」と叫んだ。
「我らのように魔力はあれども暑苦しい男は、精霊に不快感や嫌悪感を味わわせてしまいやすい。つまり、詠唱の際に徹底的にへりくだらなければならない! ごく普通の詠唱をしていては駄目なのです……っ!」
ばあああんっという効果音が見えるような顔でクリスが言うと、マクシミリアンがまた眉を上げた。
「なんかそれ納得がいかないな……」
ぼそっと漏れ出た小さな声は、覇王らしからぬ弱々しさだった。
「……火の精霊よ。これは命令であり懇願である。ただ善行のため、お前の炎と熱を我に捧げよ」
それは教科書通りの詠唱だった。声が異様に太くて低いということを除けば百点満点だった。しかしクリスが手を前に突き出しても、火の精霊が出てくる気配はない。
その場にいる全員が息を詰めるようにして待っていると、少し先の木の後ろから、こちらをチラッチラッと伺っている2体の火の精霊の姿が目に入った。
どこからどう見ても「お前が行けって」「いやお前が行けって」と役目を押し付け合っている。
精霊の世界にじゃんけんがあるのかどうかは知らないが、それっぽい方法で決着がつくまでに要した時間、およそ5分。
アリーは頭を抱えて転げ回りたくなった。これでは正拳突きと変わらないし、実戦でまったく役に立たない。
最終的には、そこら辺の枯れ木にちゃんと火が付いた。弱々しすぎる火だった。
決死の覚悟で突進してきた火の精霊を責めるわけにもいかないが、瞬発力勝負の魔法の世界で、この結果はあんまりすぎる。
「やはりそうか……」
口元に手を当てて、クリスが声を震わせる。
「やっと確信が持てました。我々はどうやら、筋肉を増強しすぎて見た目が恐ろしくなってしまったようです」
『いや今持ったんかい』
たっくんがすかさずナイスなツッコミをした。お山と言えば彼のフィールド、さすがは忠実なる口寄せ動物、呼んでなくてもちゃんと付いてくる。
「ずっと不思議に思っていたのです。この素晴らしい肉体を得て、迸るほどに魔力が湧いてくるようになったというのに、なぜ精霊たちが詠唱に応えてくれないのか。我らの強さがまだ足りない──それはたしかにそうでしょう。しかし、本当の答えは我らがずっと見続けている夢の中にありました……!」
「なんだと?」
マクシミリアンが眉を上げる。闘気や覇気はしまい込んであるのに、眼差しひとつで精霊を十体は串刺しに出来そうな威圧感だ。
クリスが「思い出してみてください」と顔を上げた。
「我らが見続けている夢は、ふんわりしてぼんやりしている。『脅威』の姿形もわからない。惰弱極まりない己の姿を延々と見せられ、我らはモヤシのような弱々しさを唾棄すべきものと考えるようになりました」
「そ、それはその通りだな」
脳筋マーティンがうなずく。クリスは曲げた人差し指を顎に当てて言葉を続ける。
「自然界の精霊たちは、弱きものを助ける。つまり女子供に優しいというのは、教科書にも載っています。しかし夢の中の惰弱な私の周囲を、精霊たちが心配そうに取り囲んでいた。ひとつ魔法を呼び出すだけでも瀕死状態だったというのに」
「そ、そういえば……」
思い当たることがあるのか、成り上がりスティーブンが目を見開く。クリスは考えをまとめるように目を閉じた。
「……夢を見ながら思っていたんです。これが世にいう『イケメン無罪』なのかと。あんなに惰弱で魔力もすっかすかの癖に、彼奴らには呼ばなくても精霊が寄ってきていた……っ! 魔法を使う体力もないというのにですよ!」
「それはつまり、精霊たちにとって魔力の量や質は二の次で、呼び出す側が男の場合は美しさだけが重要ということか?」
リーダー格ジェフリーが恐る恐るといった声を出す。クリスは手を前に突き出して「そうです!」と叫んだ。
「我らのように魔力はあれども暑苦しい男は、精霊に不快感や嫌悪感を味わわせてしまいやすい。つまり、詠唱の際に徹底的にへりくだらなければならない! ごく普通の詠唱をしていては駄目なのです……っ!」
ばあああんっという効果音が見えるような顔でクリスが言うと、マクシミリアンがまた眉を上げた。
「なんかそれ納得がいかないな……」
ぼそっと漏れ出た小さな声は、覇王らしからぬ弱々しさだった。
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