9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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よんしょう!

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「う、うううう、スティラちゃんひかえめに言っても天使ぃ~ッ」

 ラドフェン公爵はそう言って、血が出るんじゃないかと思うほどに唇を噛み締め、天を仰いだ。
 アリーは「わかりみあり過ぎ」と思うと同時に「ちょっとアレな人かな?」と心配になった。もしかすると幼女の一挙手一投足に興奮が抑えられないタイプの人なのかもしれない。

<国王であり腹違いの兄でもあるアガイル・オランドリアへの嫌がらせのために、スティラ様の後見人になるんだろうなって思ってたけど……>

 アリーはさりげなく、いつでもスティラを救出できる位置に移動した。
 しかしラドフェン公爵は急に真面目な顔つきになり、膝立ちのまま10歳にしては背が低いスティラと視線を合わせる。

「ごめんねスティラちゃん、叔父さんずっと気になってたんだけどねえ。スティラちゃんのお父さんとね、叔父さんすこーし仲が悪くて。本当にごめんね、もっと早く離宮から出してあげるべきだった」

「お父さん……」

 スティラが飴玉を転がすように、その単語を口の中でもごもごさせる。アリーは激しく胸が痛くなって、思わず手で胸を押さえた。
 元親友たちがそっと寄ってきて、右からマリリンが、左からキャロルがアリーの背中に手を添える。

「うん。叔父さんのお家ね、子どもがいないんだ。だからスティラちゃんのお父さんがね、叔父さんを可哀そうに思って、スティラちゃんの後見をさせてくれることになったんだ。叔父さんの奥さんも、スティラちゃんのお母さん代わりになりたいって、すごく張り切ってるんだよ」

「お母さん……」

「とーっても優しい人だよ。お隣の国エルバートの王家の血を引いてる。スティラちゃんと同じ、お姫様だね」

 ラドフェン公爵がものすごく言葉を選んでいることが伝わってくる。国王とは犬猿の仲で、互いを蛇蝎のごとく嫌いあっているはずなのに。
 しかしスティラの前で、実の父親をこき下ろすような真似はしてはならないと思っているのだろう。その一点だけでも、十分すぎるほど信頼に値するとアリーは思った。

《この人、アリーとタイプが似てますね。副音声で盛大にクソ国王、クソ王妃って罵ってます。実際は法に訴え、持ってる人脈を使いまくって、スティラの後見人の立場をゲットしていますよ》

 黒点アベルの声が脳内に直接響く。キャンプファイヤーやランタンに照らされてはいても、すでに空は暗くなっているのだから、彼は難なく闇に紛れてしまっている。

「スティラちゃんはまだ10歳だから、すぐに決めなくていいんだけど。いつか、叔父さんとこの子どもになってくれたら嬉しいなって。そうなると王女じゃなくて、将来は女公爵ってことになっちゃうけど」

《スティラが女公爵か。ジャンと同い年だし、いっそ婿に入ってくれたらご主人もひと安心だな》

<いやジャンは男爵家の嫡男ですし、捕らぬ狸の皮算用過ぎるし>

 ブローチに化けているたっくんのつぶやきに、アリーは思わず苦笑した。王都の治療院に入院して、治癒魔法で病を癒している最中の弟を、たっくんはちょいちょい見舞ってくれているのだ。懐の深すぎるたっくんは、どうやらジャンにも情が移ったらしい。

<しかし、これはスティラ様にはいいことかも……。ラドフェン公爵のお母様は、側妃とはいえ公爵家のご出身。その上奥様は隣国の王族。ラドフェン公爵は、国王アガイルが排除したくても絶対にできない存在……>

 オランドリア王国は基本的には一夫一妻制なのだが、先代の国王(つまりマクシミリアンの祖父)が王太子のときに、他国との融和政策で政略結婚が行われることになった。
 それはあまりに急な話で、元々王太子妃になることが決まっていたラドフェン公爵家のご令嬢が涙を呑んで側妃となり、他国から嫁いできた王女様が正妃になったのだ。
 オランドリアは男性王族の数が少なく、現在は国王アガイル、王太子マクシミリアン、そして王弟ラドフェン公爵の他は、王位を継承するにはかなり血が薄い人しかいない。王位を継承できるのは男子のみにもかかわらず。
 過去9回までの人生では、そういった背景もあってラドフェン公爵とマクシミリアンは仲が良くない感じだったが、今回はどうも違うっぽい。

「女公爵……とかはまだちょっとわからないけど。叔父様の体は大きくて、お兄様に似てるから好き。あの、その。抱っこしてもらってもいい……?」

 スティラがもじもじしながら言う。ラドフェン公爵、というかその場にいる全員が「ぐっはあっ!」と心臓を撃ち抜かれた。

「も、もちろんいいよ! ほら、おいで」

 ラドフェン公爵が両手を広げると、スティラは迷うことも怖気づくこともなく、その胸に飛び込んだ。

「わあ、叔父様筋肉すごーい」

「はは、ははははは、そうだろう? 最初はクソ兄貴に嫌がらせしてやろうと思って、マクシミリアンたちをサポートしてたんだが。筋肉トレーニングしている皆がすごく楽しそうで、こいつら可愛いなって思って、そのうち自分もやるようになって」

 あ、本音出たなと思いつつ、スティラは高い高いされてキャッキャしているので、聞こえてないっぽいことにアリーは安堵した。

<しかしそうか。やっぱり今回の人生では、マクシミリアンとラドフェン公爵の仲は良好なのか。すごいなあ筋肉繋がり……>

 未だに国内では同情論が根強く、多くの貴族が支持しているラドフェン公爵に気に入られているならば、マクシミリアンの王太子としての立場は揺るがない。たとえ真実の見た目が人間超えてても。

「あのね、叔父様。わたしの大好きなアリーが、もうすぐ社交界にデビューするの。だからアリーが虐められないよう、守ってあげてほしいの」

 ひとしきり高い高いを楽しんだ後、頬を上気させたスティラがこてんと首を傾げた。

「うほっ! んかわいいいいいいっ! いいよいいよ、スティラちゃんの侍女の、男爵家のお嬢さんだね、叔父さんが二人まとめて後見して差し上げるうっ!」

 慈悲深い主人の優しすぎる言葉に感動しつつも、アリーは慌てて止めに入ろうとした。だがそれよりも早くマクシミリアンの「いいアイデアだ」という言葉が聞こえた。
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