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#04 一歩ずつ
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三歩以上離れて近づかないように。
それはつまり陛下に顧みられなくなった神子様が俺を相手に不貞を働いたと疑われないようにと言う事だ。
ああ。だから俺だったのだ。
こんな王宮勤めなど本来ならばふさわしくも無いド田舎出身の一代騎士爵ごとき。
使い捨てるにはちょうど良いのだ。
そして、後宮の側妃が不貞を働けば、良くて蟄居。悪ければ隷属アイテムを装着された上で塔に幽閉。
おそらく陛下の最終目標は隷属アイテムの装着だろう。
なぜなら瘴気はいつ発生するか分からない。ありったけを浄化し結界は施したが、この先もう二度と発生しないという確証は無いのだ。
だがものがものなだけに装着するには大義名分が必要なのだろう。
クズだと思った。
神子様への処遇、後宮での扱いにしてからも勿論そうだが。
少なくとも俺は数回王太子時代のあの人を助けたことがある。
言ってしまえば命の恩人だろう。
救国の神子様を都合良く断罪するために、その俺を当て馬に持ってきて。
万が一不貞を疑われた場合、護衛が護衛対象の側妃に手を出せば当然死罪だ。
俺ごときの命、微塵も顧みること無く使い捨てるつもりなのだ。
それからというもの、申し合わせたように俺達は慎重な行動を心がけることにした。
慎重に。
だが、周到に物事を進める為に。
まず、神子様は暇であるから、持て余した時間を消化するために俺に剣術を習うという事を始めた。
勿論その際には侍従の少年を証人にすることを忘れない。
元々この少年は神子様の動向を報告するために付けられた回し者だ。
それ以外の給仕や掃除、衣装係の召使いなども皆そうだ。
だから最初から侍従のユノに見せるために、汗を流してもいい稽古着を持ってこさせ、バルコニーを開け放って彼の見ている前で手習いを始めた。
最初はバルコニーで。
そのうち庭に降りたって。ユノにはタオルや果実水を持たせて常に傍に侍らせる。
無論、手取り足取りでは無い。三歩以上は絶対離れた位置で見本を見せて模倣させるとか、軽く打ってこさせるとかだ。
そのうちその報告を聞きつけた後宮の護衛を束ねる後宮警備長が、注意しにやって来た。無論それも想定内だった。
神子様が申し訳なさそうにしょんぼりし。
「健康のために少しは動いた方が良いと思いまして。剣術ならばいざというとき多少は我が身を守れますし。昼食後に屋外で軽く汗を流す程度なのです。ねえ、ユノ?そうでしょう?」
ユノは思いがけず同意を求められ、確かにその通りだと答えた。
実際に暇だし体はなまっている。当面神子様のやる仕事は無いのだ。
「分かりました。ですがどうぞ程々に。お怪我をされては私どもの責任となります故」
苦々しく言い放った。俺と神子様は恐縮したように頭を下げる。
馬鹿な!
本来後宮警備長など、神子たる召喚者に何かを命令できる立場では無いはずだ。
異世界人は国際条約的にも身分というものを超越した存在として保護されているのだから。
この王宮の連中は頭がおかしい。
剣術の稽古は実に初々しいぎこちない剣捌きを見せながらも、一見日中のレクリエーション以外のなにものでも無い様相で続けた。
一体誰が、神子様の能力は浄化と治癒、そして結界による防衛だけだと決めつけたのだろう。
それは、過去の記録からなのだろうが、今代の神子様がそれ以外のスキルを持たないとは限らない。
神子様は選ばれしお方。
学べば学ぶほどにあっという間に全ての技能を吸収してしまう。
思い込みの力というものは恐ろしいが、そういった環境は我々には都合が良かった。
ユノは貴重な証人だ。彼の見たものが陛下とその側近達に報告される。
彼はしっかりと見ているはずだ。
日中、初心者レベルの神子様が戯れに剣を振るうのはただの運動不足解消のためのルーティンであると。
そのうちに剣術だけではなく乗馬も始めた。それも見るからに初心者の体でその高さを怖がり、言うことを聞いてくれない馬に困り果てる姿などをわざと見せてユノや侍女達の失笑を買った。
それは強く彼らの印象に焼き付き、その後神子様がある程度上達してもその最初の記憶が上書きされることはなかった。
神子様の認識操作の魔法を受けているとも知らず。
実のところ我々の稽古はどんどんレベルを上げて行っていた。
攻撃魔法を纏わせた剣技も既に神子様はマスターしている。それが外に漏れぬよう結界と認識操作の幻影魔法を施しながら。
ルーティンとして定着するだに彼の報告内容から特に関心を持つ者など現れなかった。
だが、あるとき「そろそろいいかな」と独り言のように小さく呟いた神子様がユノに手紙を託した。
それは神殿の筆頭司祭宛てだった。
神殿からのリアクションが来る前に、神子様は更に宰相宛てにメッセージを送った。
翌日には宰相は補佐官を伴い後宮の応接サロンにやって来た。
「神殿に参拝したいというご希望ですが。何が目的なのですかな」
「勿論単純に祈りを捧げたいというのが一番です。それと、遠征の際に同行した神官達にその後のことを訊ねたいという希望もあります。
私は行く先々で浄化と結界を張ることはしましたが、瘴気のせいで具合を悪くしたり魔獣に襲われて怪我を負った民を治癒して回る時間が取れませんでした。その事が今でも酷く気になっております。
せっかく私には治癒の能力もあるのですから、もし神官達と共に民に治癒を施せる機会をいただければ幸甚にございます」
宰相は少し訝しむような顔をした。
すかさず神子様は恥ずかしそうに言いつのる。
「ここのところ陛下にもお声がけして頂けておりませんので、せめて私に出来ることをして喜んでいただければ、と」
その言葉に宰相は僅かに嘲笑するような調子で息を吐いた。
ああ、陛下の気を引きたいのだな。
そう思わせることに成功したのだ。
それはつまり陛下に顧みられなくなった神子様が俺を相手に不貞を働いたと疑われないようにと言う事だ。
ああ。だから俺だったのだ。
こんな王宮勤めなど本来ならばふさわしくも無いド田舎出身の一代騎士爵ごとき。
使い捨てるにはちょうど良いのだ。
そして、後宮の側妃が不貞を働けば、良くて蟄居。悪ければ隷属アイテムを装着された上で塔に幽閉。
おそらく陛下の最終目標は隷属アイテムの装着だろう。
なぜなら瘴気はいつ発生するか分からない。ありったけを浄化し結界は施したが、この先もう二度と発生しないという確証は無いのだ。
だがものがものなだけに装着するには大義名分が必要なのだろう。
クズだと思った。
神子様への処遇、後宮での扱いにしてからも勿論そうだが。
少なくとも俺は数回王太子時代のあの人を助けたことがある。
言ってしまえば命の恩人だろう。
救国の神子様を都合良く断罪するために、その俺を当て馬に持ってきて。
万が一不貞を疑われた場合、護衛が護衛対象の側妃に手を出せば当然死罪だ。
俺ごときの命、微塵も顧みること無く使い捨てるつもりなのだ。
それからというもの、申し合わせたように俺達は慎重な行動を心がけることにした。
慎重に。
だが、周到に物事を進める為に。
まず、神子様は暇であるから、持て余した時間を消化するために俺に剣術を習うという事を始めた。
勿論その際には侍従の少年を証人にすることを忘れない。
元々この少年は神子様の動向を報告するために付けられた回し者だ。
それ以外の給仕や掃除、衣装係の召使いなども皆そうだ。
だから最初から侍従のユノに見せるために、汗を流してもいい稽古着を持ってこさせ、バルコニーを開け放って彼の見ている前で手習いを始めた。
最初はバルコニーで。
そのうち庭に降りたって。ユノにはタオルや果実水を持たせて常に傍に侍らせる。
無論、手取り足取りでは無い。三歩以上は絶対離れた位置で見本を見せて模倣させるとか、軽く打ってこさせるとかだ。
そのうちその報告を聞きつけた後宮の護衛を束ねる後宮警備長が、注意しにやって来た。無論それも想定内だった。
神子様が申し訳なさそうにしょんぼりし。
「健康のために少しは動いた方が良いと思いまして。剣術ならばいざというとき多少は我が身を守れますし。昼食後に屋外で軽く汗を流す程度なのです。ねえ、ユノ?そうでしょう?」
ユノは思いがけず同意を求められ、確かにその通りだと答えた。
実際に暇だし体はなまっている。当面神子様のやる仕事は無いのだ。
「分かりました。ですがどうぞ程々に。お怪我をされては私どもの責任となります故」
苦々しく言い放った。俺と神子様は恐縮したように頭を下げる。
馬鹿な!
本来後宮警備長など、神子たる召喚者に何かを命令できる立場では無いはずだ。
異世界人は国際条約的にも身分というものを超越した存在として保護されているのだから。
この王宮の連中は頭がおかしい。
剣術の稽古は実に初々しいぎこちない剣捌きを見せながらも、一見日中のレクリエーション以外のなにものでも無い様相で続けた。
一体誰が、神子様の能力は浄化と治癒、そして結界による防衛だけだと決めつけたのだろう。
それは、過去の記録からなのだろうが、今代の神子様がそれ以外のスキルを持たないとは限らない。
神子様は選ばれしお方。
学べば学ぶほどにあっという間に全ての技能を吸収してしまう。
思い込みの力というものは恐ろしいが、そういった環境は我々には都合が良かった。
ユノは貴重な証人だ。彼の見たものが陛下とその側近達に報告される。
彼はしっかりと見ているはずだ。
日中、初心者レベルの神子様が戯れに剣を振るうのはただの運動不足解消のためのルーティンであると。
そのうちに剣術だけではなく乗馬も始めた。それも見るからに初心者の体でその高さを怖がり、言うことを聞いてくれない馬に困り果てる姿などをわざと見せてユノや侍女達の失笑を買った。
それは強く彼らの印象に焼き付き、その後神子様がある程度上達してもその最初の記憶が上書きされることはなかった。
神子様の認識操作の魔法を受けているとも知らず。
実のところ我々の稽古はどんどんレベルを上げて行っていた。
攻撃魔法を纏わせた剣技も既に神子様はマスターしている。それが外に漏れぬよう結界と認識操作の幻影魔法を施しながら。
ルーティンとして定着するだに彼の報告内容から特に関心を持つ者など現れなかった。
だが、あるとき「そろそろいいかな」と独り言のように小さく呟いた神子様がユノに手紙を託した。
それは神殿の筆頭司祭宛てだった。
神殿からのリアクションが来る前に、神子様は更に宰相宛てにメッセージを送った。
翌日には宰相は補佐官を伴い後宮の応接サロンにやって来た。
「神殿に参拝したいというご希望ですが。何が目的なのですかな」
「勿論単純に祈りを捧げたいというのが一番です。それと、遠征の際に同行した神官達にその後のことを訊ねたいという希望もあります。
私は行く先々で浄化と結界を張ることはしましたが、瘴気のせいで具合を悪くしたり魔獣に襲われて怪我を負った民を治癒して回る時間が取れませんでした。その事が今でも酷く気になっております。
せっかく私には治癒の能力もあるのですから、もし神官達と共に民に治癒を施せる機会をいただければ幸甚にございます」
宰相は少し訝しむような顔をした。
すかさず神子様は恥ずかしそうに言いつのる。
「ここのところ陛下にもお声がけして頂けておりませんので、せめて私に出来ることをして喜んでいただければ、と」
その言葉に宰相は僅かに嘲笑するような調子で息を吐いた。
ああ、陛下の気を引きたいのだな。
そう思わせることに成功したのだ。
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