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#15 蓄積する拒否感
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「ああ、今度はこう来たかと思ったよ」
タカの姿になった神子様が、俺の泊まる部屋でだらけた姿勢のまま、テーブルに頬杖をつく。あのヘルミーネ妃の誕生祝宴以来の俺の非番。
宴の翌日は陛下は溜め込んだ公務に追われさすがに後宮には来なかった。
だが早速その翌日には、神子様の元に昼には先触れが来た。陛下のお渡りがある旨。
そして、それ以来暫くは4日続けてお渡りがあったのだ。
さすがにそれ以降又二日ほどは、ナタリー妃の宮に訪ったようだが。
「ナタリー妃の持つ魅了のアイテムの効力を、少しだけ強めておいたから、暫くは陛下はナタリー妃のところに通ってくれると思う。
まあ、あれ以上効力を強めると違法アイテムになっちゃうから、頃合い見て少し弱めておかないと。
彼女に迷惑かけるのは、本意では無いからね。今まで程度ならパワーストーンレベルだから、恋する乙女がおまじない感覚で、お小遣いはたいて買うレベルって事で問題ないけど。
・・・まさか又、陛下が俺に眼を向けるとは思ってなかったよ」
あのコンサバトリーでの会談から、ヘルミーネ妃の祝宴の流れは、少し悪手だったのではと思った事を伝えると、神子様は「そうか・・・」と肩を落とした。
余計なことしちゃったか、と自分の行いを後悔していたから、思わず俺は「仕方ないです」と不器用くさい慰めを言って、更に神子様を落ち込ませてしまった。
「このまま寵を頂いているのだからと、結局春になっても解放してもらえなくなるのは、勘弁して欲しい。
・・・・・・正直、もはや拷問だよ。以前ほど上手くヨガッてる演技も出来ないわ。
多分薬がなかったら勃つかどうかもビミョー、うん、多分。うぅ、そろそろ限界だよ・・・」
額に手を当てて煩悶する。
いつになく生々しい閨での愚痴を零されて、俺は動揺する。演技?薬?・・・いや、ダメだ。想像してはいけない。俺は目をつぶって緩くかぶりを振った。
長い嘆息を漏らしたあと、神子様は気を取り直したように徐に顔を上げながら、自分自身に言い聞かすように呟く。
「・・・ああ、いや、もう少しの辛抱。春になれば。うん。平常心平常心」
ひどく努力して自制しているように見える。
思わず俺は、あの・・・、と疑問をぶつけた。
「何故そんなにも我慢なさるのですか?お嫌でしたら、神子様の能力でもってこの国を出ることも可能でしょうに。・・・今の神子様を止められる者などは、実質居ないのでは・・・」
「んー、まあ、いざとなったら、全てをぶち壊して去ることも考えては居るよ。・・・けど、極力波風立てず、穏便にフェードアウトしたいんだよね」
「何故ですか?」
「関わった全ての人が俺に酷かったわけではないからね。まあ、ものすごくよくしてくれたのはミランだけだけど、半数以上の侍女や神官は、普通の対応してくれてたし、治癒して感謝してくれた人も居るし・・・皆が皆『とっとと治せ』って、石投げてきたわけじゃないからね」
「その基準がおかしいです。
侍女や神官が規定の対応をするのは基本だし、むしろ国を救済しに来てくれている神子様には、通常以上の敬意を払って当然です。
治癒を施されたモノが感謝するのも、人として当然です」
俺の言葉に、うっすらと疲れたような微笑みを見せながら、再び額に手を当て首を振った。
「いや、実のところ俺もそう思うよ。
だけど現実はさ、此処ではそっちの方が少数派だろ。ミランみたいに尊重してくれる人間なんて圧倒的少数だ。
・・・あの治癒行脚の最後の方で、グレイモスと仲間達が何だか誓いを立ててくれたけど、正直手放しで信じることは出来ないんだよな・・・つか、もはや大抵の人は信じられない」
一旦句切ったあとに俺の方を見て、額を押さえていた手を頬杖に変えながら「最初はさ」と言葉を続けた。
「関わっている人の殆どが、王城に居る人達や、中央神殿の役付きの人達ばかりだったから、お偉いさん特有の傲慢さだと思っていたんだよ。
・・・・・・でもさ、治癒行脚で回った村々でもあれじゃん。しかも、一カ所二カ所じゃないよね。
コレって、もはや全体的な価値観のズレを感じる訳よ。
・・・まあ、簡単に括っちゃうのも悪いけど・・・いわゆる“国民性”なのかな?って」
ああ、ホラ、神子様の心の中で、もうこの国の評価が決まってしまっている。
本当に恥ずかしい。
なんて図々しく、恩知らずな“国民性”なのか。
俺自身が、王宮でも遠征先でも、行く先々で頻繁に遭遇する神子様への理不尽な対応に、怒りを覚えてはいたが、それでも出来れば、他所の世界からやって来たこの人に、この世界を、この国を嫌いになって欲しくは無かった。
心が軋む。
「そんな顔すんなよ」
困ったように笑いながら、神子様が言った。ハッとして目線を向ける。目が合い笑顔を向けられる。
「最低限、雨風がしのげるだけで無く、衣食が足りて・・・あ、食は足りてないこともあったっけ・・・、住処は与えられて、君って言う護衛を付けてもらえただけでも、お世話になった感はあるんでね。あまり、ケンカ別れはしたくないかな。
・・・今のところはね。でもまあ・・・これ以上色々と・・・やらかされたらちょっと・・・どうしよう」
「神子様は、こうして転移でお好きなところにいけるのですから・・・しかも認識阻害で変装まで出来る・・・いっそ頃合いを見計らって、逃げ出してはいかがですか?」
「逃げるって言ってもなあ・・・。
どこへ行ったら良いのか・・・俺がこの世界に来てから分かるようになった地理って治癒行脚で巡った土地くらいだよ?
・・・ああ、こんな事なら、ミランの故郷って所を教えて貰っておけば良かったよ。
ミランの故郷って、流れ者とか居着いて、もあまり干渉されないって言ってたもんね」
「それなら・・・!」
俺は思わず前のめりに語り出した。
それは周到な計画。
俺達は少しずつ準備をする事にした。
タカの姿になった神子様が、俺の泊まる部屋でだらけた姿勢のまま、テーブルに頬杖をつく。あのヘルミーネ妃の誕生祝宴以来の俺の非番。
宴の翌日は陛下は溜め込んだ公務に追われさすがに後宮には来なかった。
だが早速その翌日には、神子様の元に昼には先触れが来た。陛下のお渡りがある旨。
そして、それ以来暫くは4日続けてお渡りがあったのだ。
さすがにそれ以降又二日ほどは、ナタリー妃の宮に訪ったようだが。
「ナタリー妃の持つ魅了のアイテムの効力を、少しだけ強めておいたから、暫くは陛下はナタリー妃のところに通ってくれると思う。
まあ、あれ以上効力を強めると違法アイテムになっちゃうから、頃合い見て少し弱めておかないと。
彼女に迷惑かけるのは、本意では無いからね。今まで程度ならパワーストーンレベルだから、恋する乙女がおまじない感覚で、お小遣いはたいて買うレベルって事で問題ないけど。
・・・まさか又、陛下が俺に眼を向けるとは思ってなかったよ」
あのコンサバトリーでの会談から、ヘルミーネ妃の祝宴の流れは、少し悪手だったのではと思った事を伝えると、神子様は「そうか・・・」と肩を落とした。
余計なことしちゃったか、と自分の行いを後悔していたから、思わず俺は「仕方ないです」と不器用くさい慰めを言って、更に神子様を落ち込ませてしまった。
「このまま寵を頂いているのだからと、結局春になっても解放してもらえなくなるのは、勘弁して欲しい。
・・・・・・正直、もはや拷問だよ。以前ほど上手くヨガッてる演技も出来ないわ。
多分薬がなかったら勃つかどうかもビミョー、うん、多分。うぅ、そろそろ限界だよ・・・」
額に手を当てて煩悶する。
いつになく生々しい閨での愚痴を零されて、俺は動揺する。演技?薬?・・・いや、ダメだ。想像してはいけない。俺は目をつぶって緩くかぶりを振った。
長い嘆息を漏らしたあと、神子様は気を取り直したように徐に顔を上げながら、自分自身に言い聞かすように呟く。
「・・・ああ、いや、もう少しの辛抱。春になれば。うん。平常心平常心」
ひどく努力して自制しているように見える。
思わず俺は、あの・・・、と疑問をぶつけた。
「何故そんなにも我慢なさるのですか?お嫌でしたら、神子様の能力でもってこの国を出ることも可能でしょうに。・・・今の神子様を止められる者などは、実質居ないのでは・・・」
「んー、まあ、いざとなったら、全てをぶち壊して去ることも考えては居るよ。・・・けど、極力波風立てず、穏便にフェードアウトしたいんだよね」
「何故ですか?」
「関わった全ての人が俺に酷かったわけではないからね。まあ、ものすごくよくしてくれたのはミランだけだけど、半数以上の侍女や神官は、普通の対応してくれてたし、治癒して感謝してくれた人も居るし・・・皆が皆『とっとと治せ』って、石投げてきたわけじゃないからね」
「その基準がおかしいです。
侍女や神官が規定の対応をするのは基本だし、むしろ国を救済しに来てくれている神子様には、通常以上の敬意を払って当然です。
治癒を施されたモノが感謝するのも、人として当然です」
俺の言葉に、うっすらと疲れたような微笑みを見せながら、再び額に手を当て首を振った。
「いや、実のところ俺もそう思うよ。
だけど現実はさ、此処ではそっちの方が少数派だろ。ミランみたいに尊重してくれる人間なんて圧倒的少数だ。
・・・あの治癒行脚の最後の方で、グレイモスと仲間達が何だか誓いを立ててくれたけど、正直手放しで信じることは出来ないんだよな・・・つか、もはや大抵の人は信じられない」
一旦句切ったあとに俺の方を見て、額を押さえていた手を頬杖に変えながら「最初はさ」と言葉を続けた。
「関わっている人の殆どが、王城に居る人達や、中央神殿の役付きの人達ばかりだったから、お偉いさん特有の傲慢さだと思っていたんだよ。
・・・・・・でもさ、治癒行脚で回った村々でもあれじゃん。しかも、一カ所二カ所じゃないよね。
コレって、もはや全体的な価値観のズレを感じる訳よ。
・・・まあ、簡単に括っちゃうのも悪いけど・・・いわゆる“国民性”なのかな?って」
ああ、ホラ、神子様の心の中で、もうこの国の評価が決まってしまっている。
本当に恥ずかしい。
なんて図々しく、恩知らずな“国民性”なのか。
俺自身が、王宮でも遠征先でも、行く先々で頻繁に遭遇する神子様への理不尽な対応に、怒りを覚えてはいたが、それでも出来れば、他所の世界からやって来たこの人に、この世界を、この国を嫌いになって欲しくは無かった。
心が軋む。
「そんな顔すんなよ」
困ったように笑いながら、神子様が言った。ハッとして目線を向ける。目が合い笑顔を向けられる。
「最低限、雨風がしのげるだけで無く、衣食が足りて・・・あ、食は足りてないこともあったっけ・・・、住処は与えられて、君って言う護衛を付けてもらえただけでも、お世話になった感はあるんでね。あまり、ケンカ別れはしたくないかな。
・・・今のところはね。でもまあ・・・これ以上色々と・・・やらかされたらちょっと・・・どうしよう」
「神子様は、こうして転移でお好きなところにいけるのですから・・・しかも認識阻害で変装まで出来る・・・いっそ頃合いを見計らって、逃げ出してはいかがですか?」
「逃げるって言ってもなあ・・・。
どこへ行ったら良いのか・・・俺がこの世界に来てから分かるようになった地理って治癒行脚で巡った土地くらいだよ?
・・・ああ、こんな事なら、ミランの故郷って所を教えて貰っておけば良かったよ。
ミランの故郷って、流れ者とか居着いて、もあまり干渉されないって言ってたもんね」
「それなら・・・!」
俺は思わず前のめりに語り出した。
それは周到な計画。
俺達は少しずつ準備をする事にした。
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