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#34 お留守番
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神子様は大急ぎで場所の確認を終えて帰宅した。
余裕を見て7日か8日…などと言っていたがきっちり6日目には戻った。
家に戻るなり、室内をきちんと温めて食事の用意もし、髭も剃ってある俺を見てホッとしていた。
あのとき俺がダメ人間になってしまったことを、随分気にしていたんだなと思う。
後で思い出すと本当に申し訳無かった。
だからか。場所の確認は取れたところで、実際に治癒に行くのは少し遅らせてくれた。
暫くは、雪解けの頃に顔を覗かす、新芽の山菜や薬草を摘んだり、馬を少し解放したり二人でウドンを作ったりしてどうという事の無い穏やかでのんびりした日々を送った。
二人で水を汲みに行くと大抵村のわんぱく小僧に剣術を教えろとせがまれて囲まれる。
「指南してやれよ。その間俺は治癒してくれって言われてた家を何軒か回ってくるから」
笑いながらタカは手を振る。
タカの治癒魔法が見たい子供はそちらについて行く。その場で適性のありそうな子供には教えてあげているらしい。
そんな日々を一週間近く送ってから、いよいよ神子様は治癒に行くと切り出した。
本音を言えば引き留めたかったけれど、神子様の意思を尊重せずに引き留めたらそれこそ陛下と一緒じゃないかと思って堪える。
…でも神子様には俺のガマンはお見通しだったらしい。
「今回はもう行きも帰りも転移だから、夕方には戻るからさ。イイ子にして待ってんだよ?」
そう言って苦笑しながら頭を撫でられた。
まるで駄々っ子だ。情けない。
当時の王太子が率いた遠征隊のコースで言えば、エーフィンガ市→ギヴェト町→フィチファ村→エッソン村…という順路だった。
先日の神子様単騎での場所確認の際もそのコースをなぞった。
だが、今回は先ずはエッソン村から始めて、逆向きに進めていくという事だ。
理由は、フィチファ村とエッソン村の人口が少なく作業が楽であると言うこと。
ド田舎だから上手くすれば二つの村の治癒が1日で終わる。
ここで大切なのは、神子様は村に居る全ての傷病人を治してあげるつもりはないのだということだ。
神子でなければ治せない症状の者に対象を絞る。
だから最初の二村が1日で終わると判断した。
既に実際に現地は見てきたし。
その二村に比べるとあとの二箇所は人口も多いし、市街地としての機能が比較的整っている。各種のギルドもあるし、都市警吏庁や領属騎士の詰め所なども充分な規模がある。
おそらく、王都から神子様失踪の話は広まっているだろうし、見つけたら捕獲、もしくは連絡するように命じられている可能性が高い。
だから後回しにする。
「そんなリスクを冒してまでも行くんですか?」
「見つかったら転移で消えちゃえば良いんだから」
神子様の足元に魔法陣が光り始める。
今日はタカの格好ではない。
治癒行脚に行っていたときの神子様とも違う。
そこそこ裕福な商人か下位貴族の息子(だが跡取りではない)という出で立ちだ。
上から羽織ったたっぷりしたウールの外套は、北部のこの辺りでは売られていない。多分、グレイモス達と巡った西南寄りの地域で出回っている物だろう。
海に面した西南の方から、大きく弧を描いてせり出していることで、むしろ国土を接している隣国よりも、貿易港同士の距離が近い又隣の国の半島から渡ってきたデザインで、海に近ければ近いほど、縁飾りの刺繍が異国風になる。
神子様が着ているのはそういった品で、その刺繍の意匠はだいぶ異国風だ。
そして、髪と眼の色はどちらも良くある茶色に、面立ちも凡庸に見えるように認識阻害をかけていた。
「じゃあ、厩の魔石は取り替えておいて。あと薪も納屋から運んでおいてね。戻ってから夕飯は食べるけど遅くなったら先に食べてて良いからね」
手を振りながらそんな言葉を残して消えた。
俺はその日ずっとイヤーカフを起動しながらひたすら馬の世話をした。
神子様の狙い通り、エッソン村とフィチファ村の二村が、その日のうちに済んだ。
到着してすぐに村長を訪ね、村長と対面するときには認識阻害を解いて、神子様の姿で目的を告げる。
一介の村人はともかく、村長ともなれば王城から神子様が消えた事件のことは聞き及んでいて、動揺は隠せなかった。
だがそんな中、春が訪れた途端にたった一人で現れたことで、逆に神子様の意思は救済を望んでいたのに、王が阻んでいたのかもと言う方向に解釈されたようだった。
「瘴気による不調や魔獣による怪我など、神子意外には治癒出来ない者だけで勘弁して下さい。追われていますから。私はまだ苦しみ続けている民を救わなければなりません」
と言い残し去る際には村人達から感謝の言葉が次々とたむけられていた。
「行って良かったですね・・・」
夕飯の食卓を囲みながら、俺は少し口ごもりながら言った。
あんなに渋っていたのに。
「ミランのお許しがもらえて良かった!」
笑いながら言う。
「べ、別に俺のお許しなんて…。神子様のする事に俺がどうこうなんて…」
神子様が傷つかないなら俺にとってはそれで良い。行脚の時のように悪意をぶつけられることがないのなら…。
「残りはあと二つだから!明日はギヴェト町一箇所だけだから今日よりは早めに戻れると思うよ」
翌日のギヴェト町では都市警吏も配備されているという事で、先ずはおそらく体を悪くしている者が最初に頼るであろう神殿の方を訪れ、正体を明かさないまま、瘴気や魔獣の被害に遭った傷病人の居る家を教えて貰い、そこを巡ることにしたようだ。
治癒に回っているときに、町の役人達がどこからか聞きつけて、地方警吏を引き連れて神子様を取り囲んだ。
「いいのですか?邪魔立てするならば、私は治癒をやめて消えます。そして消えてしまったら二度と現れません。ここの民は助かりませんがそれでも?」
その言葉を聞いて彼らは固まる。
民達に「治療の邪魔をするな」「引っ込んでてくれ」「息子を殺す気か」と威嚇され後退る。
「治療が終わるまで待っていてやる」と言い、終わるまで待機していたが、終わったと同時に捕縛しようと襲いかかってきた。
「この先又、瘴気や魔獣が現れても、二度とこの町には救いの手を差し伸べません」
飛び交う批難の声を後に、そう告げて神子様はギヴェト町から消えた。
余裕を見て7日か8日…などと言っていたがきっちり6日目には戻った。
家に戻るなり、室内をきちんと温めて食事の用意もし、髭も剃ってある俺を見てホッとしていた。
あのとき俺がダメ人間になってしまったことを、随分気にしていたんだなと思う。
後で思い出すと本当に申し訳無かった。
だからか。場所の確認は取れたところで、実際に治癒に行くのは少し遅らせてくれた。
暫くは、雪解けの頃に顔を覗かす、新芽の山菜や薬草を摘んだり、馬を少し解放したり二人でウドンを作ったりしてどうという事の無い穏やかでのんびりした日々を送った。
二人で水を汲みに行くと大抵村のわんぱく小僧に剣術を教えろとせがまれて囲まれる。
「指南してやれよ。その間俺は治癒してくれって言われてた家を何軒か回ってくるから」
笑いながらタカは手を振る。
タカの治癒魔法が見たい子供はそちらについて行く。その場で適性のありそうな子供には教えてあげているらしい。
そんな日々を一週間近く送ってから、いよいよ神子様は治癒に行くと切り出した。
本音を言えば引き留めたかったけれど、神子様の意思を尊重せずに引き留めたらそれこそ陛下と一緒じゃないかと思って堪える。
…でも神子様には俺のガマンはお見通しだったらしい。
「今回はもう行きも帰りも転移だから、夕方には戻るからさ。イイ子にして待ってんだよ?」
そう言って苦笑しながら頭を撫でられた。
まるで駄々っ子だ。情けない。
当時の王太子が率いた遠征隊のコースで言えば、エーフィンガ市→ギヴェト町→フィチファ村→エッソン村…という順路だった。
先日の神子様単騎での場所確認の際もそのコースをなぞった。
だが、今回は先ずはエッソン村から始めて、逆向きに進めていくという事だ。
理由は、フィチファ村とエッソン村の人口が少なく作業が楽であると言うこと。
ド田舎だから上手くすれば二つの村の治癒が1日で終わる。
ここで大切なのは、神子様は村に居る全ての傷病人を治してあげるつもりはないのだということだ。
神子でなければ治せない症状の者に対象を絞る。
だから最初の二村が1日で終わると判断した。
既に実際に現地は見てきたし。
その二村に比べるとあとの二箇所は人口も多いし、市街地としての機能が比較的整っている。各種のギルドもあるし、都市警吏庁や領属騎士の詰め所なども充分な規模がある。
おそらく、王都から神子様失踪の話は広まっているだろうし、見つけたら捕獲、もしくは連絡するように命じられている可能性が高い。
だから後回しにする。
「そんなリスクを冒してまでも行くんですか?」
「見つかったら転移で消えちゃえば良いんだから」
神子様の足元に魔法陣が光り始める。
今日はタカの格好ではない。
治癒行脚に行っていたときの神子様とも違う。
そこそこ裕福な商人か下位貴族の息子(だが跡取りではない)という出で立ちだ。
上から羽織ったたっぷりしたウールの外套は、北部のこの辺りでは売られていない。多分、グレイモス達と巡った西南寄りの地域で出回っている物だろう。
海に面した西南の方から、大きく弧を描いてせり出していることで、むしろ国土を接している隣国よりも、貿易港同士の距離が近い又隣の国の半島から渡ってきたデザインで、海に近ければ近いほど、縁飾りの刺繍が異国風になる。
神子様が着ているのはそういった品で、その刺繍の意匠はだいぶ異国風だ。
そして、髪と眼の色はどちらも良くある茶色に、面立ちも凡庸に見えるように認識阻害をかけていた。
「じゃあ、厩の魔石は取り替えておいて。あと薪も納屋から運んでおいてね。戻ってから夕飯は食べるけど遅くなったら先に食べてて良いからね」
手を振りながらそんな言葉を残して消えた。
俺はその日ずっとイヤーカフを起動しながらひたすら馬の世話をした。
神子様の狙い通り、エッソン村とフィチファ村の二村が、その日のうちに済んだ。
到着してすぐに村長を訪ね、村長と対面するときには認識阻害を解いて、神子様の姿で目的を告げる。
一介の村人はともかく、村長ともなれば王城から神子様が消えた事件のことは聞き及んでいて、動揺は隠せなかった。
だがそんな中、春が訪れた途端にたった一人で現れたことで、逆に神子様の意思は救済を望んでいたのに、王が阻んでいたのかもと言う方向に解釈されたようだった。
「瘴気による不調や魔獣による怪我など、神子意外には治癒出来ない者だけで勘弁して下さい。追われていますから。私はまだ苦しみ続けている民を救わなければなりません」
と言い残し去る際には村人達から感謝の言葉が次々とたむけられていた。
「行って良かったですね・・・」
夕飯の食卓を囲みながら、俺は少し口ごもりながら言った。
あんなに渋っていたのに。
「ミランのお許しがもらえて良かった!」
笑いながら言う。
「べ、別に俺のお許しなんて…。神子様のする事に俺がどうこうなんて…」
神子様が傷つかないなら俺にとってはそれで良い。行脚の時のように悪意をぶつけられることがないのなら…。
「残りはあと二つだから!明日はギヴェト町一箇所だけだから今日よりは早めに戻れると思うよ」
翌日のギヴェト町では都市警吏も配備されているという事で、先ずはおそらく体を悪くしている者が最初に頼るであろう神殿の方を訪れ、正体を明かさないまま、瘴気や魔獣の被害に遭った傷病人の居る家を教えて貰い、そこを巡ることにしたようだ。
治癒に回っているときに、町の役人達がどこからか聞きつけて、地方警吏を引き連れて神子様を取り囲んだ。
「いいのですか?邪魔立てするならば、私は治癒をやめて消えます。そして消えてしまったら二度と現れません。ここの民は助かりませんがそれでも?」
その言葉を聞いて彼らは固まる。
民達に「治療の邪魔をするな」「引っ込んでてくれ」「息子を殺す気か」と威嚇され後退る。
「治療が終わるまで待っていてやる」と言い、終わるまで待機していたが、終わったと同時に捕縛しようと襲いかかってきた。
「この先又、瘴気や魔獣が現れても、二度とこの町には救いの手を差し伸べません」
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