釣った魚、逃した魚

円玉

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#80 導く人

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 村が雪に閉ざされている間も、晴れた日には村長の声がけで広場に集まって、子供から大人までの戦闘訓練が行われる。

基本、魔獣も特定の種以外、極寒期には巣から出てくることもないが、まれに何の刺激でか暴走が起きるときも有るから、雪の中での戦闘訓練と避難訓練も機を見て行われるようにはなっている。

その際、共同武器や避難壕の強度、備蓄物の整備点検なども行われる。
まあ、雪に埋もれていて危険そうな場所の点検は、雪解けまで待たねばならないのだが。

俺は基礎の物理攻撃、及びそれに魔法を乗せた攻撃の指導をする。
タカは援護と防御を、後衛に付く女性を含む魔法を得意とする者達に指導する。
普段指導する役割の大人達は当然いるが、俺とタカがいるときには、それに立ち会い、訓練の組み立て全般を相談される立場になる。

俺はS級、タカはA級(実際の実力はおそらくSSS級だが)冒険者だからだ。

最初は別々の班で指導しているが、後半、騎士団の訓練でも用いられる、魔道具を駆使して実際に魔獣の群れが来襲してきたのを想定した、仮想敵バルーンが次々に飛び出してくる訓練の際には、合同となる。
前衛が物理攻撃をして、後衛から援護や防御を飛ばして貰う形だ。

どうせその場に居るのだからと、村に残っていた冒険者も訓練に参加した。

ひとしきり訓練が終わって、村長の労いの挨拶と共に、温かい飲み物が参加者達に配られる。
皆汗だくだったが、イイ笑顔で健闘をたたえ合った。
大きな鍋から木のカップに注がれた薬草茶を飲みながら、訓練の反省点や感想を熱く語り、ひとしきり広場が賑やかにざわめく。

「明日も天気は良さそうだが、今日はかなり良い訓練が出来たから、各自個別の基礎なんかをやっておいてくれ。みんな、お疲れさん」
村長の言葉で、その日は散会した。

帰り際に10歳くらいから15,6歳くらいの少年達が、白い息を吐きながら頬を染めて駆け寄り「マクミランさん、明日もいいですか?」と訊きに来た。

「明日はストグミク市の親戚のところに呼ばれているから」
「えっ、この雪道をストグミク市まで?」
俺の言葉に少年達は目を丸くした。
「大変じゃないですか?」

「ああ、俺の転移魔法で行くから大丈夫だよ」
タカの言葉に更に少年達は騒然とした。
「転移魔法が出来るんですか?タカさん!」

スゲー、スゲー、と沸き立つ。比較的魔法の達者な子達が「今度教えてくださいッ」とタカの手や腕を掴んで騒ぎ出す。
うん、いいよ、とタカはにこやかに応えた。

娘達や奥さん達への治癒魔法や援護魔法の指導もしているし、そんなに抱え込んで大丈夫なのかと、思わず帰宅してから訊いてしまった。
それでなくても、儀式の準備とか会談外遊の打ち合わせで忙しい。

明日も実はそれらの用事でストグミク市から王宮に廻るのだ。
しかも、儀式や会談だけではない。

ストグミク市と王都の間、ホエノワ市にある元領立学園を増改築し、学園都市として充実させ王立学園とする計画があるのだが、そこの魔道学科への相談役もする事になった。

特に神子様がどうしても関わりたいと思っているのが、国中に点在している、魔力及びスキル鑑定を受けられていない層の人材発掘だった。

言うまでも無く、ここラグンフリズ王国は元辺境領、現在併合が決定している領達も隣接、隣隣接である以上は、中央から見たらいずこも変わらない“辺境”である。
元々、地方に関心の無い中央貴族達は、地方に未知数の人材がいるかも知れない、などと考えたことも無い。
だが、現実にエンドファンのような人材がいるのだ。

また、既に、神子様の要請を受けて急ごしらえの巡廻鑑定団が組織され、冬の到来を控える時期だったにもかかわらず、全域に未鑑定の子供達を尋ねて調査をさせ始めたのだ。
無論、ついでに未鑑定の大人も鑑定する。
意外にも、早速、結構な魔力やらスキルを持つ人材が見つかっている。
積雪シーズンに突入してからは、その巡廻もだいぶゆっくりにはなっているが、少しずつ続けられている。

有望な子供達には、春になったら最寄りの神殿に行って魔力操作を学べるよう、推薦証を与える。
神殿にはだいたい、規模に大小は有るものの、孤児院と共に簡単な読み書きや四則演算が学べる学舎が設置されている。
毎日でなくてもいい。週に一二度でも構わない、となっている。
だが、活用されていない場所も多かった。
地方の小さな村などはその筆頭だ。そういったところも、テコ入れの方向で準備を進める計画になって居る。
無論、神殿の学舎で無く、各地の学校に通える子には通わせるよう下知する。

他の子供と比べて極端に魔力が強かったり、極端に賢い、極端に身体能力が高い、あるいは生産系のスキルを持つと思われる子供は優待生として王立学園児童科に入学するように促す。
神子様曰く。
魔力操作の訓練を受けるのは早ければ早いほど良い。
ある程度コントロール出来るようになれば、聖魔法が使える人材も発掘出来るかも知れない、との考えから。

神子様は常に、自身が“神子”としての現役を退いた後のことを考えている。
自分に頼れなくなった後に、また異世界から誰かを召喚するなどして欲しくはないからだ。

この世界の人間からしてみれば、“救世主を召喚”しているという神聖なイメージかも知れないが、呼ばれた側からしてみたら、それは“拉致”であり犯罪行為なのだから。

ただ、では、他の国々ではどうしているのか、と調べると。
無論、他国でも“召喚術”に頼っているところもある。
“召喚”ではなく、定期的に異世界から転生してくる特殊能力者が現れる国もある。

それらの記録を見た神子様が思うに、「この世界は俺が元いた世界と、多分、繋がりやすい波長みたいなものが有るんだろう」とのことだった。
それくらい、大陸史から見ても、異世界人が世界線を越えてきたという事例が目に付くらしい。
まあ、だからこそ「異世界人保護条約」という国際条約が必要とされたのだろう。

ただ、神子様としては、むしろ生粋のこの世界の人間の中から、稀に出現する救世主に注目していたようだった。

きっと、そういった人材を見つけ出すシステムを作りたいのだろうと思う。
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