釣った魚、逃した魚

円玉

文字の大きさ
83 / 100

#83 やっつけ婚

しおりを挟む
 元の王国、コモ王国からは再三にわたり、戴冠の儀式は会談の後にするようにとの要請が有った。
コモ王国側からすると“要請”ではなく“王命”である、という体だが。

だが、その都度、窓口のエルネスト様がのらりくらりと誤魔化してきた。

尚且つ。
儀式の当日もだが、その数日前から、つまりは神殿前広場を中心に、何度か遠隔からの魔法攻撃が放たれていた。
王城や、パレードの順路となって居る沿道が、華やかに飾り付けられたり監視台を設置したりと、朝に夕に忙しなく準備を進めていたときも。

一体、王都が何重の防御を施されていると思っているのか。

ただでさえ、ドワーフ職人団を抱え込み、大陸有数の魔道具を取り扱っているグリエンテ商会の本拠地で、しかも、神子様が居るのだ。
各国の王宮お抱えレベルの魔導師が束になってかかって、やっと最表層の結界にほころびを作れるかどうかだろう。

そちらはリオネス様主導で、放たれた魔法を解析して場所を特定。
最強の魔道騎士が捕縛もしくは処分に動いているはずだ。



儀式の後、広場は数日間お祭り騒ぎだった。
ラグンフリズ家の紋章を中央に配し、地色に神子様のローブの縁飾りと同じ、金色と淡い萌黄のツートンを施した、洗練された国旗のレプリカをどこの出店も掲げていた。

きっと、その色の服や装身具が流行するに違いない。





ハズレの村に戻ると、何か勘づき始めたらしき女性達が、タカをチラチラ見ては「どことなく似てない?」「雰囲気が」「仕草とか」などと噂していた。
村の広場でも儀式の映像が流れたらしいのだ。

俺達は気づかないフリをしていつも通りに過ごす。
神子様はそれにプラスして、相変わらず熱心に大陸史を学んでいた。

儀式から一週間も経っていないのに、元々の王国側から、更に併合を申し出る領が次々と使者を送ってきた。
現時点で、全ての申し入れを受け入れたとしたならば、既に元の国土の3分の1近くを得ることになる。

だが、最初の七領を受け入れたあとは、あくまで慎重だ。
殆どは精査中だが、申し出の中の二領は既に断った。
そのうち片方の領は、あの治癒行脚の際に、神子様を罵ったり石を投げてきた村が有る。
もう片方は、神子様がやり残したとして、単身転移で治癒に赴いた際、警邏隊を引き連れて捕縛しようとした町が含まれる。





野原や森の日だまりを彩り始めた野花に、小さな蝶が舞い始めた頃。
アーノルド様を先頭とした馬車列が、周りを囲む護衛騎士団や従者達を伴い、隣国に向かって出発した。
隣国の沿道でも、我がラグンフリズ王国一団の入国と移動をサポートすべく、厳重な警備体制を敷いている。

第三国での会談に海路で向かうために、港のある隣国へ行く必要があった。
ラグンフリズ王国は山岳地帯にあり、海に面していないからだ。

ただ、大陸の中でもとかく注目度の高かった独立劇だっただけに、建国し戴冠してから初めての外遊先として選ばれた形になった隣国は、それを大変名誉なこととして、国家を挙げて歓迎の姿勢を示している。

目的は会談地である第三国への足がかりでも、王族として足を踏み入れる以上は、隣国との外交もしっかり熟さなければならない。
ましてや、初の外遊である。車列の中には贈り物だけを積んだ馬車も数台ある。
ただ挨拶をするだけで無く、今後の貿易や安全保障についても詰めた話をするために、外務と産業物流関連庁の筆頭官僚、騎士団長が帯同している。

そして俺は。
気がつけば、やはり神子様専任の騎士として、同行している。
それに伴い、男爵位を授かることになった。

アーノルド様は、将来的にはもっと爵位を上げると仰った。
俺は正直、貴族になることなど微塵も望んではいない。面倒なだけで、むしろごめんだとすら思った。

だが、アーノルド様曰く。
ラグンフリズ王国内では無位で済むとしても、今後万が一、また神子様が何らかの理由で他国へ赴く際、伴侶として出席した方が良い場面があるかも知れない、という理由だった。

そもそも、伴侶がいないとなれば、神子様が他国の王族から求婚されないとも限らないのだから、神子様との関係性を明確にすべきだと。
そして、神子様をエスコートするべき伴侶ならば、平民でいさせるわけにはいかないのだと。

その話が出たときには、俺は本気で頭を抱えた。

元々の王国でも家門の後継者以外は同性婚も普通にあった。ラグンフリズもその慣習のままだから、俺と神子様も普通に婚姻出来る。
事実リオネス様の伴侶は同性だ。一見地味だが優秀で控えめな文官で、リオネス様が溺愛するあまり、相手が学生にも関わらず成人した途端に結婚したのは有名な話だ。

「じゃあ、事実婚というだけじゃ無く、正式なヨメにしてもらえるって事?」
なぜか、神子様が嬉々としてアーノルド様に訊ねていた。
俺が固まっているのを見て、「ミランはいやなの?」と訊かれ、全力で首を振った。

俺が渋っていたのは神子様と婚姻することでは無く、貴族にならなければならないことの方だ。
神子様と正式に婚姻…。そう考えたらあまりのことに、一気に顔に血が上って、熱いのになぜか震えた。

「では、今すぐにでもちゃちゃっと済ませましょうか」
アーノルド様が書類を持ってこさせて、直ぐに書類上の手続きのみで俺の叙爵と、神子様との結婚手続きが終わった。

厳格な叙爵の儀式とか、神殿での挙式とかを端折れるのはありがたかった。
その分、実感はほぼ無い。
神子様相手の婚姻の儀となったら、ヘタすると王都の最高神殿で筆頭司祭に執り行って貰わなければいけないだとか言われかねない。

「あ、でも…、神子様は華やかな式典を行いたかったですか?」
神妙な様子だったから、思わず俺はご機嫌を伺った。
俺の言葉が終わらないうちに「まさか!」と神子様が否定した。

「若い女の子じゃ無いんだから、無いよ、そんな願望。こんなおっさんが花嫁って?盛大に披露?どんな地獄絵図だよ!そんな可哀想なマネしないよ。大丈夫だよ」

俺だけで無く、その場に居た全員が愕然とした。
「おっさん…?」
「地獄絵図…?」
どこからともなく小さな呟きが聞こえた。

そして、俺は無事にこの外遊に神子様付きとして、帯同出来る身分となった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

後悔なんて知ったことではありません!~ボクの正体は創造神です。うっかり自分の世界に転生しました。~

竜鳴躍
BL
転生する人を見送ってきた神様が、自分が創造した世界に誤って転生してしまった。大好きな人を残して。転生先の伯爵家では、醜く虐げる人たち。 いいよ、こんな人たち、ボクの世界には要らない!後悔しても知ーらない! 誰かに似ている従者1人を伴って、創造神スキルで自由に無双! …………残してきた大好きな人。似ている侍従。 あれ……?この気持ちは何だろう………。 ☆短編に変更しました。

【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末

竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。 巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。 時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。 しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。 どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。 そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ…… ★『小説家になろう』さんでも掲載しています。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

処理中です...