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#84 17年越しの再婚約
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ラグンフリズ王国の国王陛下である、アーノルド様は現在、独身だ。
おん歳34歳。
義兄より8歳も上で、こんな年齢まで独身ということ自体が妙な感じがするのだが、そこには諸々事情があった。
一番大きな問題は、アーノルド様が廃嫡となって、一度婚約の解消を余儀なくされた事。
その数年後に、元婚約者である令嬢に降ってきたのが、後妻の話だった。
アーノルド様を廃嫡に追い込んだ侯爵家の息子がお膳立てした。
同じ侯爵家一族の難ありオヤジのだ。
侯爵家からの世話という事で、伯爵令嬢の彼女には本来ならば拒否権が無かったのだが、彼女は事故を装って自らの顔に火傷を負ってまで断った。
アーノルド様を陥れた仇の言いなりになるなど嫌だったからだ。
件の縁談がコレで白紙になっても、相手がこの先どんな嫌がらせをしてくるかも分からないと思い、自ら修道院に飛び込んだ。
その際にはウチの義兄を頼って、他国の修道院に。
その修道院には、そこそこ治癒魔法が使える修道女が何人もおり、彼女の火傷はかなり目立たなくなった。
ただ彼女の拒絶の気持ちが強く、本気で焼いたこともあって、傷は深くやはり痕は残った。
義兄に橋渡しして貰って、アーノルド様は何度も彼女に逢いに行っていた。
再求婚のためだ。
廃嫡後、平民として単なるグリエンテ商会の私兵となって居るが、食うに困らない生活基盤はあるから、と。
だが、火傷の痕を理由に、受け入れてはもらえなかった。
で、今回独立し国王となり、やはり王妃が必要であろうとなったときに、迷わず求婚した。
彼女は今回、火傷の痕が理由での拒否は出来なかった。
なぜなら、神子様が治してしまったからだ。
ただ、年月が経ってしまっていたから本当の意味でまっさらに消せたわけでは無い。
そこは、エンドファンの師匠が錬成した化粧品が活躍することになった。
神子様が施した治癒でもうっすらと残っていた着色痕が、全く見えなくなった。
「追い込まれた状況でも決して屈せず、自らの美貌を犠牲にしてまで、操を守ろうとしたその心意気に感動致しました。あなたのような高邁なお方こそが、国母に相応しいご婦人だと私は思います」
神子様は伯爵令嬢、リシェンナ・オルドバス嬢の前に跪き、その手を押し頂いてそう告げた。
神子様のお墨付きに否やを挟める者などいない。
伯爵令嬢は涙ながらにお礼を言って、アーノルド様の手を取ることを決心した。そんな流れがあった。
彼女は義兄と同い年。
陛下よりも8歳も年下だ。お世継ぎも充分期待出来る。
アーノルド様は初の外遊で、出来ればリシェンナ嬢を伴いたかったようだった。
ただ、伯爵令嬢である彼女は王族に嫁すレベルの淑女教育は受けてこなかった。
何年も修道院に居たことも有り、社交に不安があるために今回の帯同は見合わせ、陛下が不在の間に王妃教育を頑張るのだと、気合いを入れていた。
東南端の一部が海に面する隣国、シャンド王国では、国境から王都までの沿道でも華やかに歓迎された。
ことさら、途中宿泊する領では領主家がもてなしてくれ、一様に独立への祝福を受けた。
その際にはやはり、独身である事から縁組みをほのめかす社交辞令などもあったが、婚約者がおり、年内中にも婚儀を行う旨を告げると、それもまた祝福された。
幸せそうだった。
義兄経由で、グリエンテ商会の私兵であるアーノルド様に何度か会った事があったが、これほど幸せそうなお顔を見たのは初めてだった。
結婚とは何だろう…。
そんな気持ちがこみ上げた。
俺もした。つい先日。
この外遊に帯同する直前に、神子様と。
幸せとか、感じるところまでまだいっていない。
あまりに恐れ多くて、思考停止している。
だって、とても現実とは思えない。
そもそも、書類上の処理のみをバタバタと済ませただけだ。ほぼ、やっつけだった。
神子様の護衛としてお側について回れる名分のため。
途中滞在領での、歓迎の晩餐の際には俺はテーブルには付かない。護衛騎士だからだ。
他の護衛騎士と共に壁際に直立し、同じテーブルに付くことは無い。
騎士なのだから当然だ。それが俺の務めだし、疑問も無い。
領主家の令息や令嬢が、熱を帯びた瞳で神子様に話しかけているのを遠くから見る。
神子様が、何かの拍子にこちらを見ると、それに促されるように令嬢も令息も一瞬こちらを見た。
なるほど、と思った。そういうときの予防線なのだなと。
俺は護衛騎士だが、伴侶となった事で、物理的な防衛以外にも防衛出来るようにして貰ったと言う事なのだ。
「女の子はやっぱり、恋バナが好きだね」
夜、与えられた部屋で、神子様は入浴後の寝支度を侍従に済ませて貰った後、笑いながら言った。
「ご令嬢と話が弾んでいたようですね」
「うん。最初はご令嬢もご令息も、多分領主様から俺をオトせと言われたんじゃ無いの?そんな感じだったけど、俺が既婚者だって言って、君のこと話したらご令嬢は逆に吹っ切れて盛り上がってね。なれそめとか訊いてきたよ。一緒に冒険者やってたって言ったらご令息も乗ってきたけど」
貴族って大変だよね、などと言いながらあくびをして、疲れたのかゆらゆらしながらベッドに潜り込むと、ほぼ即落ちしていた。
その後、途中の他領地でもそんな感じで、王都に向かう。
王都自体が海に面した場所だから、国土を対角線移動したような形になる。
だが国土自体は広くは無いから、車列の規模の割には早く着く。
元の王国の王都よりずっと近い。
途中の丘陵地帯で、神子様は馬車を止めさせて、景色を見に外に出て来た。
「見て!見渡す限りの棚田!!水田だよ!大陸史の勉強で、この国に稲作が定着しているのを知ったんだけど…ああ、ホントだったんだ!凄い。お米が食べられるよ!!」
俺の腕を掴んでガクガクと揺さぶりながら、はしゃぐ神子様。
正直言って、何がそんなに嬉しいのかはオレには分からないが。
米?
あまりなじみの無い穀物、という印象しか無い。
棚田風景を神子様が眺めているときに、王都からの伝令が馬を飛ばして来て、シャンド王国側の警備隊長に何かを耳打ちした。
その後、警備隊員同士で何か情報伝達が有り、俄に緊張感が走った。
何か異変があった様子だった。
おん歳34歳。
義兄より8歳も上で、こんな年齢まで独身ということ自体が妙な感じがするのだが、そこには諸々事情があった。
一番大きな問題は、アーノルド様が廃嫡となって、一度婚約の解消を余儀なくされた事。
その数年後に、元婚約者である令嬢に降ってきたのが、後妻の話だった。
アーノルド様を廃嫡に追い込んだ侯爵家の息子がお膳立てした。
同じ侯爵家一族の難ありオヤジのだ。
侯爵家からの世話という事で、伯爵令嬢の彼女には本来ならば拒否権が無かったのだが、彼女は事故を装って自らの顔に火傷を負ってまで断った。
アーノルド様を陥れた仇の言いなりになるなど嫌だったからだ。
件の縁談がコレで白紙になっても、相手がこの先どんな嫌がらせをしてくるかも分からないと思い、自ら修道院に飛び込んだ。
その際にはウチの義兄を頼って、他国の修道院に。
その修道院には、そこそこ治癒魔法が使える修道女が何人もおり、彼女の火傷はかなり目立たなくなった。
ただ彼女の拒絶の気持ちが強く、本気で焼いたこともあって、傷は深くやはり痕は残った。
義兄に橋渡しして貰って、アーノルド様は何度も彼女に逢いに行っていた。
再求婚のためだ。
廃嫡後、平民として単なるグリエンテ商会の私兵となって居るが、食うに困らない生活基盤はあるから、と。
だが、火傷の痕を理由に、受け入れてはもらえなかった。
で、今回独立し国王となり、やはり王妃が必要であろうとなったときに、迷わず求婚した。
彼女は今回、火傷の痕が理由での拒否は出来なかった。
なぜなら、神子様が治してしまったからだ。
ただ、年月が経ってしまっていたから本当の意味でまっさらに消せたわけでは無い。
そこは、エンドファンの師匠が錬成した化粧品が活躍することになった。
神子様が施した治癒でもうっすらと残っていた着色痕が、全く見えなくなった。
「追い込まれた状況でも決して屈せず、自らの美貌を犠牲にしてまで、操を守ろうとしたその心意気に感動致しました。あなたのような高邁なお方こそが、国母に相応しいご婦人だと私は思います」
神子様は伯爵令嬢、リシェンナ・オルドバス嬢の前に跪き、その手を押し頂いてそう告げた。
神子様のお墨付きに否やを挟める者などいない。
伯爵令嬢は涙ながらにお礼を言って、アーノルド様の手を取ることを決心した。そんな流れがあった。
彼女は義兄と同い年。
陛下よりも8歳も年下だ。お世継ぎも充分期待出来る。
アーノルド様は初の外遊で、出来ればリシェンナ嬢を伴いたかったようだった。
ただ、伯爵令嬢である彼女は王族に嫁すレベルの淑女教育は受けてこなかった。
何年も修道院に居たことも有り、社交に不安があるために今回の帯同は見合わせ、陛下が不在の間に王妃教育を頑張るのだと、気合いを入れていた。
東南端の一部が海に面する隣国、シャンド王国では、国境から王都までの沿道でも華やかに歓迎された。
ことさら、途中宿泊する領では領主家がもてなしてくれ、一様に独立への祝福を受けた。
その際にはやはり、独身である事から縁組みをほのめかす社交辞令などもあったが、婚約者がおり、年内中にも婚儀を行う旨を告げると、それもまた祝福された。
幸せそうだった。
義兄経由で、グリエンテ商会の私兵であるアーノルド様に何度か会った事があったが、これほど幸せそうなお顔を見たのは初めてだった。
結婚とは何だろう…。
そんな気持ちがこみ上げた。
俺もした。つい先日。
この外遊に帯同する直前に、神子様と。
幸せとか、感じるところまでまだいっていない。
あまりに恐れ多くて、思考停止している。
だって、とても現実とは思えない。
そもそも、書類上の処理のみをバタバタと済ませただけだ。ほぼ、やっつけだった。
神子様の護衛としてお側について回れる名分のため。
途中滞在領での、歓迎の晩餐の際には俺はテーブルには付かない。護衛騎士だからだ。
他の護衛騎士と共に壁際に直立し、同じテーブルに付くことは無い。
騎士なのだから当然だ。それが俺の務めだし、疑問も無い。
領主家の令息や令嬢が、熱を帯びた瞳で神子様に話しかけているのを遠くから見る。
神子様が、何かの拍子にこちらを見ると、それに促されるように令嬢も令息も一瞬こちらを見た。
なるほど、と思った。そういうときの予防線なのだなと。
俺は護衛騎士だが、伴侶となった事で、物理的な防衛以外にも防衛出来るようにして貰ったと言う事なのだ。
「女の子はやっぱり、恋バナが好きだね」
夜、与えられた部屋で、神子様は入浴後の寝支度を侍従に済ませて貰った後、笑いながら言った。
「ご令嬢と話が弾んでいたようですね」
「うん。最初はご令嬢もご令息も、多分領主様から俺をオトせと言われたんじゃ無いの?そんな感じだったけど、俺が既婚者だって言って、君のこと話したらご令嬢は逆に吹っ切れて盛り上がってね。なれそめとか訊いてきたよ。一緒に冒険者やってたって言ったらご令息も乗ってきたけど」
貴族って大変だよね、などと言いながらあくびをして、疲れたのかゆらゆらしながらベッドに潜り込むと、ほぼ即落ちしていた。
その後、途中の他領地でもそんな感じで、王都に向かう。
王都自体が海に面した場所だから、国土を対角線移動したような形になる。
だが国土自体は広くは無いから、車列の規模の割には早く着く。
元の王国の王都よりずっと近い。
途中の丘陵地帯で、神子様は馬車を止めさせて、景色を見に外に出て来た。
「見て!見渡す限りの棚田!!水田だよ!大陸史の勉強で、この国に稲作が定着しているのを知ったんだけど…ああ、ホントだったんだ!凄い。お米が食べられるよ!!」
俺の腕を掴んでガクガクと揺さぶりながら、はしゃぐ神子様。
正直言って、何がそんなに嬉しいのかはオレには分からないが。
米?
あまりなじみの無い穀物、という印象しか無い。
棚田風景を神子様が眺めているときに、王都からの伝令が馬を飛ばして来て、シャンド王国側の警備隊長に何かを耳打ちした。
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