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#92 会談、四 〈無意識の軽視〉
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「『…素晴らしい。元の世界でもそのように、多くの民を救う使命を帯びていたとは。
まさしく、救世主そのものではないか。
…間違いない。あなたこそ、この国を救うために女神が使わしてくれた神子だ』
王太子殿下はそのように、悦びに満ちた笑顔で、神子様のお手を取り、抱きしめられました。
『心から、歓迎する』と…」
暫く、静まりかえった。
さすがのアーノルド様も、目を泳がせながら、神子様を見て、俺を見て、そしてグレイモスを見た。
俺も神子様も無表情だった。
俺は当時のその現場には居なかったから初めて聞いた話だが、まあ、そんなところだろうな、と思った。
あの陛下らしい。あまり意外でもなかった。
「…え、…あの…まさか、一言の謝罪も無しに……?」
「有るわけ無いじゃないですか」
神子様は半笑いで応えた。
「コモ王国の人々にとって“神子”ってのは、所詮使い捨ての道具なのですから」
――― …なっ……!!
コモ王国側の、宰相補佐、外交執務官、カイル・エムゾードが、一斉に顔色を変えて立ち上がった。陛下まで少し腰を浮かせている。
「…いやっ、神子よ…それは」
「何を言うのですかッ!そのように扱ってなど居ない!誤解を生むような発言はおやめ下さいッ!!」
恐れ多くも、自国の国王の言葉を遮って宰相補佐が叫ぶ。
その抗議の声が終わるか終わらないかの時に、神子様はそのほっそりした指先に、銀色の輪を目線より少し上に突き出した。
「これ、何だか分かりますよね」
皆、息を呑む。
「そう。従属アイテムです。私は先王にコレを装着されました。術式が複雑では無かったので自力で解除しましたが」
誰しもが衝撃に顔色を失った。
「どう言う事だ!お前知っていたのかッ?」
それまで限りなく無表情だったアウデワート騎士が、隣のグレイモスに掴みかかった。
グレイモスは顔面蒼白で緩く首を振り。
「し、知らなかった…治癒行脚の時は…、ただ、神子様が姿を消したあと、先王が取り乱して喚き散らしたときに『アイテムを付けているのだ。戻らないはずは無い』と言って…、そ、それで初めて…」
「宰相補佐イザク・レイグマス伯爵、あなたはご存じでしたよね?前政権の貴族院で、私にアイテムを装着するのに賛成した一人でしたよね」
「ち、違うッ、私は、本当は賛成などしていない!したくなかったのだ!」
「…ほ、本当の事なのですね…?」
見苦しくあわて始めた宰相補佐に、外交執務官が震える声で質した。
皆の視線が集まる。
「違うと言っているだろう!私が言い出したわけじゃ無いッ」
この件に関しては、さすがにガヌ公国の監督官までが顔色を変えていた。必死に無表情を繕おうとしているが、怒気が滲み出ている。
そうだろう。
良識ある人間ならば、国難を前に、救済の望みを託して召喚した異世界からの聖人に、そんなものを装着したりなど出来ない。
あまりに罰当たりで。それが普通だ。
「神子様」
アーノルド様が声を発した。
「私は、先ほど神子様のなさりたいように、と申しましたが撤回致します。この事態を知った以上は、コモ王国に神子様を送り出す事はラグンフリズの名に懸けて、出来ません」
「笑わせるな!廃嫡された身のくせにッ」
取り乱している宰相補佐は、勢いのままアーノルド様に噛み付いた。
「止めろ、レイグマス卿!」
「本当のことだろうッ!国王などと言っているが、アイツは学生時代に廃嫡されてとっくの昔に平民だッ!平民風情が国王?とんだ猿芝居ではないかッ」
思わず俺も立ち上がりかけたのだが、俺が椅子から完全に離れる前に宰相補佐の体が床に投げ出された。
アウデワート騎士が殴ったのだ。
壁際に待機していた騎士達が、乱闘を阻止せんと歩み寄るのを、手で制して頭を下げた。
「失敬。レイグマス卿は少し興奮していた様子なので、落ち着かせました」
向き直り、元の席に戻ってから、まずガヌ公国の監督官に、その後に我々側に向いて「大変失礼致しました」と頭を下げた。
「先ほど、宰相補佐殿が仰った件について、反論申し上げても宜しいでしょうか」
シモン様が挙手した。
皆の注目がそちらに向く。
皆が反応に戸惑う中、神子様が「是非」と告げた。
「せっかくなので、この機に明示しておいた方が宜しいでしょう」
あちらの陛下も頷く。やはりこの人は人の話を良く聞く人なのだと思った。
では、と、シモン様が会釈して、立ち上がっていた面々に着席を促した。
「先ほど、宰相補佐でいらっしゃるイザク・レイグマス伯爵が仰った、我が君についての暴言についてであります。
実際のところコモ王国先々代の陛下の時、貴族院の決定で、我が君が長男でありながら廃嫡となった事案が有ったのは事実です」
ガヌ公国の監督官二人が、驚いた顔をした。
「説明致します」
シモン様は指先をならし、議長席と反対側にあたる突き当たりの空間に、半透明のスクリーンのようなモノを浮き上がらせる。
魔道具を使っている様子は無いから、多分ご本人の魔法なのだろう。
そこには、ディーデリク・ハフト・ヴァテオ侯爵以下7名ほどの貴族の名前が有った。
その中の殆どがクーデターで既に平民となって居るか、あるいは投獄されているか、没しているか、だ。
それらも備考欄に添えてある。
「この一覧が、17年前に我が君を廃嫡に追い込んだ事件の、最も重要な関係者の名前です。
特に主犯はディーデリク・ハフト・ヴァテオ侯爵と認識して下さい。
ああ、二番目のエトヴィン・アレストヴィスタ子爵も、かなり深く関わっております。
このお二人は政権が換わった今も貴族院に名を連ねていらっしゃいますね。
…あ、位置によっては見づらいでしょうか。
様々な都市に配信している立体映像だと見えない角度の人も居るかも知れませんので、周囲4面に外側に文字が出るようにスクリーンを出しましょうか」
そう言うと、元々表示されていたもの以外に、我々の周りを囲うように大きめのスクリーンが4面、外側向けの文字列で次々と現れた。
なじみの無い魔法。だが、いとも容易く鮮やかに展開された。
壁際の騎士達から、僅かな感嘆の声が漏れた。
まさしく、救世主そのものではないか。
…間違いない。あなたこそ、この国を救うために女神が使わしてくれた神子だ』
王太子殿下はそのように、悦びに満ちた笑顔で、神子様のお手を取り、抱きしめられました。
『心から、歓迎する』と…」
暫く、静まりかえった。
さすがのアーノルド様も、目を泳がせながら、神子様を見て、俺を見て、そしてグレイモスを見た。
俺も神子様も無表情だった。
俺は当時のその現場には居なかったから初めて聞いた話だが、まあ、そんなところだろうな、と思った。
あの陛下らしい。あまり意外でもなかった。
「…え、…あの…まさか、一言の謝罪も無しに……?」
「有るわけ無いじゃないですか」
神子様は半笑いで応えた。
「コモ王国の人々にとって“神子”ってのは、所詮使い捨ての道具なのですから」
――― …なっ……!!
コモ王国側の、宰相補佐、外交執務官、カイル・エムゾードが、一斉に顔色を変えて立ち上がった。陛下まで少し腰を浮かせている。
「…いやっ、神子よ…それは」
「何を言うのですかッ!そのように扱ってなど居ない!誤解を生むような発言はおやめ下さいッ!!」
恐れ多くも、自国の国王の言葉を遮って宰相補佐が叫ぶ。
その抗議の声が終わるか終わらないかの時に、神子様はそのほっそりした指先に、銀色の輪を目線より少し上に突き出した。
「これ、何だか分かりますよね」
皆、息を呑む。
「そう。従属アイテムです。私は先王にコレを装着されました。術式が複雑では無かったので自力で解除しましたが」
誰しもが衝撃に顔色を失った。
「どう言う事だ!お前知っていたのかッ?」
それまで限りなく無表情だったアウデワート騎士が、隣のグレイモスに掴みかかった。
グレイモスは顔面蒼白で緩く首を振り。
「し、知らなかった…治癒行脚の時は…、ただ、神子様が姿を消したあと、先王が取り乱して喚き散らしたときに『アイテムを付けているのだ。戻らないはずは無い』と言って…、そ、それで初めて…」
「宰相補佐イザク・レイグマス伯爵、あなたはご存じでしたよね?前政権の貴族院で、私にアイテムを装着するのに賛成した一人でしたよね」
「ち、違うッ、私は、本当は賛成などしていない!したくなかったのだ!」
「…ほ、本当の事なのですね…?」
見苦しくあわて始めた宰相補佐に、外交執務官が震える声で質した。
皆の視線が集まる。
「違うと言っているだろう!私が言い出したわけじゃ無いッ」
この件に関しては、さすがにガヌ公国の監督官までが顔色を変えていた。必死に無表情を繕おうとしているが、怒気が滲み出ている。
そうだろう。
良識ある人間ならば、国難を前に、救済の望みを託して召喚した異世界からの聖人に、そんなものを装着したりなど出来ない。
あまりに罰当たりで。それが普通だ。
「神子様」
アーノルド様が声を発した。
「私は、先ほど神子様のなさりたいように、と申しましたが撤回致します。この事態を知った以上は、コモ王国に神子様を送り出す事はラグンフリズの名に懸けて、出来ません」
「笑わせるな!廃嫡された身のくせにッ」
取り乱している宰相補佐は、勢いのままアーノルド様に噛み付いた。
「止めろ、レイグマス卿!」
「本当のことだろうッ!国王などと言っているが、アイツは学生時代に廃嫡されてとっくの昔に平民だッ!平民風情が国王?とんだ猿芝居ではないかッ」
思わず俺も立ち上がりかけたのだが、俺が椅子から完全に離れる前に宰相補佐の体が床に投げ出された。
アウデワート騎士が殴ったのだ。
壁際に待機していた騎士達が、乱闘を阻止せんと歩み寄るのを、手で制して頭を下げた。
「失敬。レイグマス卿は少し興奮していた様子なので、落ち着かせました」
向き直り、元の席に戻ってから、まずガヌ公国の監督官に、その後に我々側に向いて「大変失礼致しました」と頭を下げた。
「先ほど、宰相補佐殿が仰った件について、反論申し上げても宜しいでしょうか」
シモン様が挙手した。
皆の注目がそちらに向く。
皆が反応に戸惑う中、神子様が「是非」と告げた。
「せっかくなので、この機に明示しておいた方が宜しいでしょう」
あちらの陛下も頷く。やはりこの人は人の話を良く聞く人なのだと思った。
では、と、シモン様が会釈して、立ち上がっていた面々に着席を促した。
「先ほど、宰相補佐でいらっしゃるイザク・レイグマス伯爵が仰った、我が君についての暴言についてであります。
実際のところコモ王国先々代の陛下の時、貴族院の決定で、我が君が長男でありながら廃嫡となった事案が有ったのは事実です」
ガヌ公国の監督官二人が、驚いた顔をした。
「説明致します」
シモン様は指先をならし、議長席と反対側にあたる突き当たりの空間に、半透明のスクリーンのようなモノを浮き上がらせる。
魔道具を使っている様子は無いから、多分ご本人の魔法なのだろう。
そこには、ディーデリク・ハフト・ヴァテオ侯爵以下7名ほどの貴族の名前が有った。
その中の殆どがクーデターで既に平民となって居るか、あるいは投獄されているか、没しているか、だ。
それらも備考欄に添えてある。
「この一覧が、17年前に我が君を廃嫡に追い込んだ事件の、最も重要な関係者の名前です。
特に主犯はディーデリク・ハフト・ヴァテオ侯爵と認識して下さい。
ああ、二番目のエトヴィン・アレストヴィスタ子爵も、かなり深く関わっております。
このお二人は政権が換わった今も貴族院に名を連ねていらっしゃいますね。
…あ、位置によっては見づらいでしょうか。
様々な都市に配信している立体映像だと見えない角度の人も居るかも知れませんので、周囲4面に外側に文字が出るようにスクリーンを出しましょうか」
そう言うと、元々表示されていたもの以外に、我々の周りを囲うように大きめのスクリーンが4面、外側向けの文字列で次々と現れた。
なじみの無い魔法。だが、いとも容易く鮮やかに展開された。
壁際の騎士達から、僅かな感嘆の声が漏れた。
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