1 / 157
0章
遠因
しおりを挟むすべての音が何処かに吸い取られているのではないかと、そんな錯覚に陥りそうになる程静かな森の奥。
魔物や獣が支配する深夜と言う時間帯にも拘らず、耳に届くのは二人分の足音だけだ。それさえも下草のせいかかなり小さい。
一人が前に立ち、それに案内されるようにもう一人が後ろに続いている。
前に立った者が翳すランタンの灯りは、とても頼りないものだ。
そうして辿り着いたのは、鬱蒼と茂る草木の奥にある崖に、ぽっかりと開いた穴。
ここまで来ると下草もない為、足音が響いて耳につく。
暫く進めば朽ちた鉄格子があった。
そこには魔紋が刻まれていたが、柵そのものの老朽化による崩落で、紋が崩れている。恐らくは隠蔽か何かの魔紋だったのだろう。
だが、それが崩れた事で見つけることが出来た。
最早残骸となった鉄格子をそっと押し開けば、ギィィと重く嫌な音がする。
澱んだ空気は過去からの怨嗟のようにも思えて、どことなく鉄臭く感じてしまうのは怯えのせいだろうか。
いや、実際に格子は鉄製なのだし、その臭気を感じるのもおかしな話ではない。
そのまま先程まで後ろについていた方が先頭に立って進んでいくと、そこそこ大きさのある場所に出た。
洞窟の中とはいえ、鉄格子もあった事から推察できるように、人の手が加わった場所だと言うのに、ぽっかりと開いたそこには何もない。
先頭に立っていた方が、後ろの人物からランタンを乱暴に奪い掲げて周囲を見回す。
かなり広い場所なのか、ランタンの光は狭い範囲を照らすのが精一杯で、奥の方までは届かない。
諦めて歩を進める。
やはり、思った以上に広い場所だ。しかも恐らくは人の手で掘られた場所だ。
通ってきた朽ちた鉄格子がかなり後方になったと言うのに、鉄臭い、だがどこか胸の悪くなるような甘ったるさを含んだその臭気に、ランタンを奪われた側の人物は無意識に震え足を止めてしまい、そこから一歩も動くことが出来なくなった。
ランタンを奪った方は、後ろの人物の様子に気付いた様子はなく、キョロキョロと見回しては、ランタンを上げたり下げたりしている。
「!」
何か見つけたのか、ランタンを持った人物が駆け出すが、足が止まったほうは動き出す事はなかった。
「見つけた、見つけたぞ!」
これ以上ない程の喜びに溢れた男の声が、広い洞窟内に反響する。
その声を聞いた、後ろで止まっていた人物が、脱力したように地面にへたり込んだ。疲労からへたり込んだのではない。
見つけたと叫ぶ男の声に内包されるモノに、怯え、そして後悔しているかのように身を震わせ、じりじりと後退していた。
―――驚喜、狂喜、狂気、狂鬼、凶器……………
アァ、ワタシハ、ナニヲ、ミツケテシマッタノダロウ
アァ、ワタシハ、ダンナサマヲ……………
82
あなたにおすすめの小説
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる