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1章 終わって始まる異世界転生
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しおりを挟む【お帰り】
ハッと目を開ける……何か聞こえた気がして目を開けたのだが、何故か視界がとても曖昧な事に気付き、思考がそちらへと向いてしまう。
(ん? あれ、私、交通事故に……助かったのか…それにしては痛くないな)
コンビニに行こうとしたところで、自分は事故に巻き込まれたはず。覚えているのは眩しい光と酷い音、そして鉄臭い臭いと油の臭い。
正直良く助かったものだと、我ながら思ってしまうが、ぼやけた視界に不安が頭を擡げる。
(痛くないのは幸いだけど、もしかして頭打つか何かしたかな……見えないのは困る…ゲームもできないし本も読めない、そんなの地獄……あぁ、それにアイシア様の御尊顔が拝めないではないか! それはまずいぞ!)
自分の不注意は勿論あるが、過失割合はどうなるんだろうとか、後遺症は…とか、考えないといけない事は他にもあるはずだが、現在、真珠深の頭を占めているのは、ネットで手に入れ、寝室に飾ってあるアイシアの複製原画の事だ。
ゲーム用に描き出された物ではなく、絵師様手ずからの水彩画風のアイシアのイラストで、真珠深はB2サイズのそれを寝室に飾り、寝る前と起きた時に御尊顔を拝謁するのを、毎日の日課としていたのだ。
(あぁ、アイシア様!!)
ダァ……
(ん?)
アゥ……
(はい?)
アゥァ
(頑張れ自分! ほれ『アイシア様』だ!)
ダァァゥ
(ぎょええええええ!? ちょ、発声までアウトなの!?)
途方に暮れ、ただでさえぼやけた視界がぶわりと潤む。
(そ、そんな……私どうなっちゃってるの!? 目も喉もダメ? 無事な感覚器官はあるの!?)
ふ……ふぇぇ……ぐええぇぇぇん!
(………嘘だって言ってよ! なんでこれから先、ずっと見えなくて話せないの!?)
泣く事だけは出来るようで、涙を止める事も出来ず嗚咽を漏らしていると、ガチャリと重く、まるで扉が開くような音が真珠深の耳に届いた。
「いちゃいの? どおしましょ…おかあしゃまを、しゅぐよんでくりゅわ」
鈴を転がす様なとはこの事かと思ってしまう程、澄んだ、だけど、たどたどしく可愛らしい声が聞こえてきた。
(うっわ、めっちゃ可愛い声! 誰?)
一瞬泣くのも忘れて聞き入ってしまったが、視界は相変わらずぼやけて潤んだままなので、さっぱりわからない。
それ以前に首を回すこともできないでいるのだ。
ハウゥゥ
(もう一体何なのよ、なんでこんな赤ん坊みたいな声しか……というか寒いな…まだ冬になんてなってなかったと思うんだけど、一体どれだけ意識がなかったんだか……)
盛大に溜息を零したい心境だが、そんな細やかな行動さえままならず、しょんぼりしていると、遠くから近づいてくる音に気が付いた。
「おかあしゃま、はやく、えるういあが、にゃいていりゅの」
「はいはい。ありがとう、妹を心配してくれるのね」
「うん! かわいいの!」
ガチャリ
「あら、やっと目が開い……」
先ほどの可愛らしい声とは別の、大人の女性の声に困惑と驚愕の色が混じる。
「……そん、な…」
「おかあしゃま?」
「ここで良い子で待っててくれる? 旦那様に…お父様に急いでお知らせしないと…」
「うん、えるぅいあと、まってりゅ」
「良い子ね、アイシア」
(はぁ!? アイシア……アイシアですってぇぇええええええ!?)
バタバタと遠ざかる音を聞きながら、真珠深の思考は、再び拝めなくなるかもしれないアイシア複製原画の御尊顔の事に埋め尽くされていた。
暫くして二人分の足音が近づいてきた。追加された足音は男性だったようで、旦那様とかお父様と呼ばれている。
「何という事だ……随分目が開くのが遅いと思えば……」
「アーネスト……どうしたら良いの? こんな事になるなんて」
「あぁ……」
(どうしたんだろ…何だってそんなに悲壮な声? あぁ、もしかして隣のベッドにでも彼らの子供が入院してるのかも)
近くに聞こえる声に、もしかしたら彼らは隣のベッドにでも寝かされているのだろう外国人の子供の家族ではなかろうかと、真珠深は結論付けた。
(だけど本当に日本語上手ね、何の違和感もないわ。
それにしても可哀想に……小さな子供が入院ってだけでも心が痛いのに、どうやら重病? 重症? みたいだものなぁ、しかもアイシアちゃんもまだ小さいみたいだし……そんな幼くして家族が、妹が病気って、辛いわね……。
あぁ、だけど私自身も辛いわ……リハビリで何とかなるのかしら……)
確かに崇め奉る『アイシア様』と同名少女とその家族の事も気にはなるが、まずは自分の事だ。
視界どころか首を動かすこともできないなんて、これからどうしたら良いのかと、泣きたいのは自分の方だと真珠深は凹む。
声で意思疎通が難しいようだし、この分では筆談も厳しいと思われる。
もう八方塞がりすぎて、何をどうすれば良いのかも見当がつかない。
そんなやり場のない感情に、止まっていた涙が再び溢れ出す。
ゥ……ァゥ……ぅック……
熱い涙が頬を滑るのがわかっても止められず、それでも隣の外国人家族にせめて聞こえないようにと声を嚙み殺していると、流れる涙で濡れた頬に、温かいもの……手? 指? はっきりわからないが何かが触れた。
「アーネスト……あなた、私達がしっかりしなければ…」
「そうだな。エリューシアを守るのは私達の務めだ」
「えるういあ、どこかいちゃいの?」
(……ぇ?)
「アイシア、赤ちゃんは泣くのもお仕事なのよ」
「そうにゃにょ?」
「えぇ、だから心配は要らないわ。お腹が空いたのかもしれないから、まずはご飯にしてあげましょうね」
「うん!」
そして、そのまま真珠深が抱き上げられた。
(え……えええぇぇぇぇええええ!? ど、どういう事ぉぉぉおおお!!??)
社畜人生を走り続け、オタク趣味に命と財産を傾け、乙女ゲーム『マジカルナイト・ミラクルドリーム』に悪態をつきつつも、最推し令嬢アイシアの救済を探求し続けた星守 真珠深という、社畜で、行き遅れで、お局候補で、オタクな一人の日本人女性は、今ここに異世界転生を果たしたのだ。
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