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1章 終わって始まる異世界転生
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しおりを挟む早いものであの衝撃の日から既に半年が経過していた。
赤子としての世話を、悶絶しながら受ける日々を現在進行形で耐えているが、今日にいたるまで真珠深ことエリューシアも何もしなかったわけではない。
一瞬【お帰り】と聞いた気がする『天の声』は再び聴く事は叶わず、サポートを何も受けられずにいる(異世界転生には神様のサポートが付き物だという認識があったのだ…というか、真珠深が読んだり見たりした作品は概ねそうだったのだ。偶々かもしれないが…)が、ベビーベッドに横たえられた状態でも出来ることはあった。
記憶と情報の整理。
そして、自分磨きだ。
記憶と情報の整理は言うに及ばず、現在の自身と家族の状況把握だ。
まずエリューシアと家族の状況だが、あの寒い日アーネストと呼ばれた父親らしき人物と、その妻、つまり母親の声音が震えていたのは、どうやらエリューシアの瞳が普通ではなかったからのようだ。
そうは言ってもまだベッドから起き上がる事も出来ない身では、鏡を見るなど不可能で、どう普通じゃないのか自分では確認できていない。
ぼんやりしていた視界は、今ではすっきりくっきりしているが、ほぼ天井と周囲が見回せるだけで、ミルクの時や沐浴の時に抱き上げられれば、見える範囲が広がるだけだ。
それでもわかる事はある。
部屋はこんな赤子1人に与えて良いのかと首を捻りたくなるほど広い。そして豪奢だ。悪趣味ではなく室内全体が上品に整えられているのだが、ベビーベッド周りだけ妙に可愛らしく、部屋全体としてはどこかちぐはぐで微妙な違和感は感じる。
まぁ家族に愛されている証拠と受け取っているので、エリューシアとして嫌な訳ではない。
そして使用人が結構いる。
それほど父母に会える訳ではないのだが、使用人は入れ代わり立ち代わりやって来る。
おかげで言葉浴は存分にすることが出来た。
そして特筆すべきは姉にあたる『アイシア嬢』!
光の加減によっては深海を思わせるほど深い深青の髪と、髪と同じく深青色だが、吸い込まれそうな程澄んだ瞳が見惚れるほどで、当然顔のパーツも完璧と言う美少女ならぬ美幼女である。
その美幼女アイシア姉様は、頻繁にエリューシアの元を訪れてくれる。
以前は舌足らずな話し方だったが、今ではそれもなりを潜め、かなりしっかりしている。
ついでに言うなら、ついでと言うのも申し訳ないのだが、両親も揃って美形で、日々眼福を味わっている。
最初の頃は、そんな眼福を堪能しつつ楽しんでいたのだが、それはある一つの事実によって、一旦打ち砕かれた。まぁあくまで『一旦』というだけだったが。
異世界転生をなした星守 真珠深の今世の名は『エリューシア』。
暫く慣れなかったが、それもそのうち馴染んだ。しかし、ある時衝撃の事実に遭遇してしまう。
エリューシアのフルネームが『エリューシア・フォン・ラステリノーア』と知ってしまったのだ。
つまりアイシアお姉様の名は――
『アイシア・フォン・ラステリノーア』
そう、あろうことか『マジカルナイト・ミラクルドリーム』の悪役令嬢、その人そのものの名前である。
しかも名だけではない。先だって言ったかもしれないが、アイシアお姉様の髪色は深海を思わせる深い青、瞳も同色だ。
母親はゲーム内では既に故人となっており出てこないが、父親は『アーネスト・フォン・ラステリノーア』で、リッテルセン王国の公爵家の一つだ。
(フ……フハハ……フハハハハハッ!!
何てこったい! 最推しアイシア様の妹に生まれただと!?
こんな幸運あっていいのか!? いや待て、アイシア様の家は最終的に没落の悲劇エンドじゃなかったっけ……ふむ…)
エリューシアはベッドに転がって天井を睨んだまま腕組み……は出来なかったので、黙って天井を睨みつけたまま、再び思考の海に潜行した。
良かったのか悪かったのかわからないが、『マジカルナイト・ミラクルドリーム』の世界に転生したと考えて良いだろう。
万が一違ったとしても、そうだと想定し、最低最悪の事態を回避するようにしていれば、きっと問題ないはずだ。
そしてゲーム内では、母親は既に故人。父親は幼少の頃から仕事漬けで、ほぼ不在だったはず。
不在なだけならまだしも、娘であるアイシアの事を愛することなく、道具のように使い捨てた毒父だった。
現時点でどうかと言うと、同一人物とはどうしても思えないと言うのが、正直な感想だ。
母親の名はセシリアと言い、アイシアと同じ深青の髪と瞳を持っていて、父親であるアーネストは、そのセシリア夫人を溺愛と言って良い程愛している。
顔の作りも可愛い系の美人で、後のアイシアを彷彿とさせる程そっくりだ。
(ふむ……もしかすると、母親の死が切っ掛けだったりする?)
良く思い出せ自分……。
こうなるとゲーム本編の情報だけでは、全く足りないのではないかと思える。
ファンブックや公式設定資料本、果てはゲームイベントの開発者トークまでも必死に思い出し、そういえばと思い出したことがあった。
実の所、今の自分の立場『アイシア公爵令嬢の妹』というキャラに心当たりがなかった。
神様の気まぐれか、はたまた真珠深の境遇に同情してくれた存在からのご褒美か、くらいに考えていたのだが、スピンオフ作品の小説内にあった、アイシアのセリフを思い出したのだ。
『お父様は変わってしまわれたわ。もしお母様が生きていらっしゃったら違ったのかしら……いいえ、あの子が…妹が生きていてくれれば…』
確かそんなセリフだった。
そう、作品内のアイシアにも『妹』はいたのだ。だが、そうなると…エリューシアは、そう遠くなく死ぬ運命にあるのではないか?
母親の死と妹の死に関連があるのかはわからないが、少なくとも父親の豹変劇には関係しているだろう。
なら、それを回避できればあんな冷たい家族にならずに……アイシアも家族から愛されたままでいられるのではないか?
さぁ思い出せ! 真珠深…いや、エリューシアの本日の任務だ。
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