【完結済】悪役令嬢の妹様

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1章 終わって始まる異世界転生

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 更にあれから1年が経過していた。


 すくすくと育ったのは身体だけではない。
 動けない赤子の頃より、日々周囲に気づかれないよう魔法を行使して、精度を上げ魔力を増強し、更に記憶を漁って情報を整理した甲斐あって、今では『マジカルナイト・ミラクルドリーム』略して『マジない』の主人公『シモーヌ』とは違った意味で、常識圏外の幼女として立派に育つことが出来た。

 真珠深としての意識があるせいか、幼女らしい舌足らずな話し方がどうにも抵抗があり、赤ん坊として泣くしかできなかった時は兎も角、それ以降は必要最低限以外ほとんど喋らずにやってきた。
 あぁいう舌足らずな可愛らしさは、自分には不似合いに思えて、しっかり話せるようになるまでは…と一人で練習していたのだが、それが災いし、初めてちゃんと話した時には両親、そしてアイシアお姉様までが固まってしまったのは、懐かしい記憶だ。

 しかし驚愕されようが、ドン引かれようが、そんな事にはお構いなく、エリューシアには今日、どうしてもしたい事があった。
 どうしてもしたい事というより、しなければならない事。



 自分の姿の確認である。


 本日、父は仕事、母と姉であるアイシアは買い物で領都に出向いている。
 そしてその警護他の為に、使用人たちも出かけている者が多く、邸内に人が少ない状態なのだ。
 鏡くらい普通に見られるだろうと思う事だろう、実際エリューシアも独り歩きが出来なかった頃は、その程度に考えていた。しかし歪みが少なく、鮮明に映り込む鏡と言うのは、とても高価で貴重品だったのだ。
 この公爵邸にもあるにはあるが、父親の部屋にしか置いていない。
 何故母の部屋じゃないのかと、どうしても前世の記憶に振り回されそうになるが、この世界、ううん、そこまで大きな話じゃなくても、我が家なりの何か理由があるのかもしれない。

 次女でまだ幼子なエリューシアが、父親の部屋へ行く事等ない。
 他の家は知らないし、前世の感覚で言えば違和感しかないのだが、ラステリノーア公爵家ではそれが普通だったので、未だ父親の部屋には近づいた事さえない。

 何故そんなに自分の姿を確認したいのかと言うと、前世の記憶と先日聞いた話のせいだ。それに生後間もなくの頃、エリューシアの瞳が普通ではなく、打ちひしがれたようになっていた両親の声も、記憶に鮮明に残っている。

 先日聞いた話と言うのは、侍女が何気なく零した言葉なのだが、この国では銀髪は珍しいのだと言う。
 金髪も王家の色で多くはないのだが、銀髪となると、このラステリノーア公爵家にしか現れないらしいのだ。しかも当代では父親であるアーネストとエリューシアだけだとか言っていた。
 そしてその銀髪というのは、ヒロイン『シモーヌ』のゲーム内での色でもあったのだ。

 ここまで聞いただけでもおかしいと思わないか?

 そんな珍しい髪色の平民がもしいるなら、既に噂が広まっていても不思議ではないだろう。何しろゲーム内で『シモーヌ』は、アイシアと同じ年齢だったのだ。
 つまりエリューシアより年上なので、すでに生まれている計算になるのに、そんな珍しい、ラステリノーア公爵家の色が市井にあるなど、噂になった形跡はない。

 詰まる所、父親の浮気を考えなければならないのかもしれないが、正直あの、妻セシリア一筋の男に『浮気』と言う単語が考えにくいし、何より多忙だ。在宅時間は長いので、閑職なのかと思いきや、仕事を持って帰る事が可能なものは全て持ち帰って在宅時間を確保しているようなのだ。
 妻への愛が重すぎるぞ、わが父よ。
 それ以前に、万が一そんなことがあれば、疾うに離婚になっていただろう。
 そのくらいに母セシリアは、優し気な外見とは裏腹にきっぱりとしたところがあった。

 まぁ自分の髪を引っ張ってみれば、見えなくもないのだが、まずは自分の髪色だけではなく瞳もどう普通じゃないのか確認したいのだ。
 それに、折角最推し令嬢アイシアの妹に生まれることが出来たのだから、少しなりともアイシアやセシリアに似て居たら嬉しいではないか。

 話は変わるが、これも侍女が零した言葉から知ったのだが、対外的にはエリューシアは病弱という事になっているらしい。
 その証拠にか、実は未だ庭にさえ出た事がなかったりする。
 使用人は入れ代わり立ち代わりやってはくるが、実際にエリューシアの傍近くにまでくるのは、決まった使用人だけなのだ。
 これって秘された子供にならないだろうか?
 もしそうなら、両親が打ちひしがれた瞳に関係してると思うのは、穿ち過ぎだろうか。

 興味本位であれ何であれ、持っている情報は多いほど良いのだ。
 そう半ば言い訳して、いざ、ミッション開始だ。


 ベッドにクッションを置いてシーツを被せると言う工作も忘れてはいけない……態々幼児の部屋へ、用もないのに来るほど使用人達も暇ではないだろうが。
 その後廊下へ出る扉に近づき、耳を寄せて外の様子を窺う。物音だけでなく、魔力の気配も念の為探る。
 魔法を無詠唱で行使し、静かに扉を開け廊下に出ると、そのまま階段の方へ向かった。
 エリューシアはまだ幼いからか、部屋は奥の方に置かれているのだ。まぁ父親の方が、出入りが頻繁なせいもあるのかもしれない。

 階下の執務室に置かれているならアウトだが、自室ならばもう間もなくだ。
 静まり返った廊下を進み、父親の部屋と思しき扉を再び魔法で開ける。未だ姿など見た事はないが、纏わりついてくる精霊達に頼んでも良いのかもしれないが、後からご褒美だ何だと煩いのだ。
 開いた扉の隙間から、そっと室内を覗き見れば、落ち着いた色で品よく整えられた、だけどあまり飾り気のない部屋が広がっていた。

 今一度周囲の気配を探ってから室内に身を滑り込ませ、扉を再び閉じ、ゆっくりと首を巡らせる。
 そして奥側の壁にかかる、真珠深としては見慣れた、エリューシアとしては初めて見る鏡を見つけた。
 父親の室内の調度品としては多めの装飾を施されたソレは、確かに周囲の写り込みもしていて、少し歪みは感じるものの鏡と言って問題ない。

 再度室内を見回して近くに椅子を見つけると、それを魔法で動かし、鏡の前に置いた。
 よっこいせと幼児にあるまじき掛け声と共に、座面によじ登って鏡の前に立つ。
 そして写り込んだ自分の顔に、意識が遠退きかけた。



(嘘…で、しょ……)



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