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1章 終わって始まる異世界転生
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しおりを挟む両親登場から少し遅れてやってきた侍医のミソック子爵に、涙と鼻水で汚れまくりの、全く落ち着きのない父親は摘まみだされた。
「何故だあああぁあ”あ”あ”ぁぁぁぁぁ!!!」
執事長のハスレーとメイド長のナタリアに、ガシッと両脇を抱えられ、宥められながらも引きずり出される様にして、父アーネスト退場。
異常は見られないものの、今日は安静にしているようにと言うミソック先生の言葉に素直に頷いた後、やってきたアイシアお姉様が心配そうに覗き込んできた。
はぁぁ、お姉様、本日も麗しくて眼福です。
「エルル、本当に痛い所はないのね?」
アイシアはエリューシアの事を『エルル』と愛称で呼ぶ。当然両親も同じく愛称で呼んでくれるが、アイシア…シアお姉様に呼ばれるのは格別なのだ。
自分のどことなく冷ややかな声とは全く違う、鈴を転がす様なアイシアお姉様の問いかけに、こくんと頷く。
「そう? なら良いわ………だけど、そうね、聞きたい事はいっぱいあるのだけど……どうしてお父様のお部屋に忍び込んだりしたの?」
心底心配して言っているのだと、その深青の瞳から透け見える。
ミソック子爵に摘まみだされなかった母も、アイシアの問いかけに同調するように、一度アイシアに不安げな目を向けてから、再びエリューシアを見つめた。
ゲーム内の冷たさが嘘のように、家族みんな仲良しで思いあっているのだ。アイシアの心配を……アイシアだけじゃない、家族の気持ちを疑ったりしない。だからこそ言えない事もある。
『自分の顔が、未来にアイシアを陥れる、ヒドインならぬヤバインの面影をもった顔に見えた』だなんて………。
だけどそのおかげなのか、あの『声』を再び聞くことが出来た。
話せた時間は短く、多分だがまだ聞けていない事も多いのではないかと思う。最も揺れて悲鳴を上げまくったせいか、その少ないであろう情報も、殆ど思い出せない状態であるのが悲しい所だが、これも記憶の掘り返し案件に加えておかねばなるまい。
あの揺れが単に目覚めの兆候だったのか、何かの邪魔だったのかはわからない。だけど『声』は焦って動揺しているようにも感じた。
何にせよ、聞けた事はそう多くはないだろうし、最後の方はどんどん小さな音になって聞こえなくなった。つまりまだ何か伝えている途中だったという事に他ならない。
その日、エリューシアは安静を言い渡されていたので、食事も何もすべて自室で行う事になった。その為、普段よりも時間に余裕が出来たのだが、本を読んだりしようにも、両親と姉を心配させる気にはなれず、大人しくベッドに入り、皆が寝静まるのを待つ。
ひっそりと静まり返った深夜、ベッドからよじ降りて、自室の小ぶりな机に向かう。抽斗から鍵付きの、本の様に分厚いノートを取り出して開錠し、ページを開けば、これまで纏めた記憶他がびっしりと書き込まれていた。
ノートを見るのに困らない程度の光量のライトを魔法で出し、ペンを握る。
エリューシアが活動し始めた事に触発されたのか、小さな光のオーブがふわふわと集まってきた。
初めて見るオーブと言うか光球に、驚きすぎて声も出せない。
しかし、時間が経過してもオーブ達は、エリューシアに纏わりついて光っているだけで、攻撃したりもしてこなかった。
そっと人差し指を差し出すように伸ばしてみれば、いくつもの光球がそこに集まってくる。
(なんだろ、これ……でも優しい光だな
あ~…もしかしてあの声を聞けたからとか?)
気配と無駄に耳につく声というか音のせいで、精霊だとわかるのだが、これまで見えなかったのだから、何か切っ掛けがあるはずと思い返し、今日の出来事が切っ掛けなのではと思い至った。
(まぁ、害意が無いならそれでいいや。
………それにしても、なんで自分の顔がシモーヌの顔とダブったのか……まだはっきりしない事は多いけど、それでも記憶とあの『声』のおかげでわかった事もある。
まず私が生き延びる事が重要なのよ。
私が生き延びることが出来れば、お母様も儚くなる事はならずに済むかもしれない。そうすれば糞親父も今のまま変わることなく、アイシアお姉様が悲しまなくて良くなるんじゃないかと思うのよね)
せっせとペンを動かし、日本語で綴っていく。
日本語ならば少なくとも読める人はいない。居たとしても限定される。一番の懸念事項は他に転生者……例えばシモーヌ等が転生者だった場合等だが、例えそうだとしても、この邸に居ない者がノートを見る機会はないのだ。
恐れるに足らず。
(だけど、少しなりとも前もって情報を得られて助かったわ……。
エリューシアが死亡するのが、あと2年と少し後の5歳の誕生日の1か月前。
スピンオフ作品だったか設定資料集だったかでは、母セシリアと街へ買い物に出るのだけど、丁度店を出て、馬車に乗ろうとした矢先、母と、その母に挨拶していた店主を突き飛ばし、賊がエリューシアだけ馬車に放り込んで、そのまま馬車ごと誘拐してしまうのだ。
その後、死体さえ見つかることなく時間は過ぎ、母セシリアは突き飛ばされた際に負った傷とその後の心労もあって痩せ細り、自責の念も手伝って結果的に自殺してしまう。
そこからアイシアお姉様の悲しみが始まるんだから)
握ったペンを小さな手で器用にくるりと回し、天井を見上げながら『だけど…』と考える。
(エリューシアが狙われたのは、この精霊眼というか宝石眼のせい? だけどシモーヌは精霊眼だった記載はなかったはず。
銀髪ではあったけど、単なるオレンジ色の瞳だったわよね? となると銀髪が狙いか……わっかんないなぁ…。
声はエリューシアの姿を狙ったとは言ってたけど、だったらまるっと奪いそうなモノよね?
というか、それ以前に姿を奪うってどうやって?
こう脳だけ移し替えるとか? コッワ!!
こんな衛生観念低そうな世界で外科手術とか、悪夢でしかないわ!
……って、それ以前の話よ。どう転んでも私が無事であるはずがない。断固却下、断固拒否案件だわ。
とは言え、いろんな事がまだはっきりしなくてモヤるけど、とりあえずやるべき事ははっきりしてるんだから、良しにしとこ…)
ちなみにこの世界では、精霊眼は神に愛された愛し子の証と言われている。
『声』からの情報では精霊に愛された子が発現するらしいが、神の愛し子でも発現するそうだ。どちらにせよ超越した存在に、気に入られた証左と言う認識で問題ないだろう。
(まぁ髪か瞳か……狙いはどちらにせよ、シモーヌには喉から手が出るほど欲しいモノだって事なのかな。
銀髪であればそれだけで我が家、ひいては貴族に繋がる者かと思わせられるし、精霊眼であれば、間違いなく王家が望んでくると言う話だ。
って、待って……つまり私が私のままで居たら、私が目を付けられるって事?
うっわ、、それは勘弁願いたい……ゲッ、鳥肌立ってるし…。
ま、私は王家など興味もないし、何なら捨てる気しかない。
お姉様に酷いことする王家なんてこっちから願い下げだ)
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