【完結済】悪役令嬢の妹様

文字の大きさ
10 / 157
2章 気付けなかったフラグ

3

しおりを挟む


「お前、奥から出て来たよな? 貴族様の御邸なんだから勝手に入っちゃだめだって言われてただろ?」
「そ、そう、なんだけど……花が…」

 ロスマンと呼ばれた少年が近づき、ニックの腕を引っ張っていく。
 少し年上なのか、ニックより背が高い様だ。ダークブラウンの短髪に右横髪が一房だけ朱色なのが印象に残る、水色の瞳を持った彼はロスマン・コナード。魔石を主に取り扱うコナード商会を営む、コナード男爵家の4男だ。

「お前、また花とか……男の癖に」
「い、いいじゃんか! 綺麗なもんは綺麗なんだもん!」
「はぁ……だけど後で叱られる事は覚悟しとけよ?」
「う……ぁ、だけど、そうだ! 奥でもっともっと、すっごーく綺麗な銀色を見たんだ!!」

 公爵家の裏門に止めた荷馬車の先、裏門に面した通りを少し進んだ所まで引っ張ってから足を止め、ロスマンは自身もまだ子供の癖に大人ぶった渋面をつくる。
 裏門を警護する公爵家の門番の方を、ちらと見てからニックに腕組みをして向き直った。

「だ~か~ら~、奥には行っちゃいけないし、見たり聞いたりしたもんは口にしちゃいけないの、わかる? あんまり余計な事してっと、お前なんかただの平民なんだから何されっかわかんないぞ?」
「で、でも! だ、だって……すっごく綺麗だったんだ…あれ、やっぱりお人形だったのかな…銀色がキラキラしてて、だけどすぐ見えなくな「ほう、坊主、その話詳しく聞かせてくれねーか?」」
「「ヒッッ!!!」」

 裏門の警護をしている門番たちは、忙しく働く商会の従業員達と荷車に注意を払わないといけないので、子供らの方にまで気が回っておらず、当然ながらそこに近づく人影にも気が付いていなかった。

 子供たちに近づくのは、野暮ったく、だらしなさを感じさせる風貌をした男。
 着ている物は所々薄く擦り切れたり汚れたりしていて、平民の物とあまり大差ないように見える。
 しかし縫い付けられているボタンなんかは、平民では使えないような代物だ。
 鼻先を赤くし、微かに酒臭さの漂う空気を纏わせて、やや俯き加減で近づいてきた男の方も、自身が不審に見えることを自覚しているのか、門番の方を一瞥してからニックとロスマンの2人に屈みこんで顔を近づけてきた。
 とはいえ伸びすぎた髪と髭、そして帽子のせいで顔立ちはわかり難い。

「なぁ~、そっちの坊主、いいモンみたんだろぉ? おじさんにも教えてくれよぉ」

 男が口を開いた途端、空気が一気に酒臭くなり、子供たち二人とも慌てて鼻を腕で覆った。だがロスマンが、ほんの少しとは言え年上の気概を見せ、小さなニックを背に庇う。

「あ、あんた、誰だよ!?」
「お前じゃねぇ…、そっちのちっこいの、俺にも教えてくれや」
「ヒィッッ!!」

 怯えたニックがロスマンの背にしがみつく。
 流石にその気配に気づいたか、門番達が顔を見合わせ何やら指示を飛ばしたのか、その横をすり抜けて、ロスマンよりも年上の、ニックと同じくオレンジ色の髪をした少年が駆け寄ってきた。

「どうした!?」
「チッ…」

 怪しい男が自身の弟であるニックに手を伸ばしていると気付きた少年が、男の前に立ちふさがろうとしたが、その前に男はするりと離れ、通りを少し進んだ横道に入って消えて行った。

「にいちゃん!!」
「キリオ兄ちゃん」

 キリオと呼ばれた少年は、屈めば立っている少年達より目線が下がってしまい、見上げる形となるが、その顔は心配そうな表情に苦いものが混じった、複雑な色を湛えていた。

「ロスマン、弟を守ってくれてありがとう」
「え、あ、うん……なんか気づいたら、だったから」

 キリオは立ち上がってから、照れたのか目線を逸らすロスマンの頭をポンポンと撫でてやってから、怯えて泣きそうなニックの手を引いて歩き出した。

「二人とも、こっちに。何があったか、ちゃんと話してもらうよ」
「……おいら…ヒック、ゥ、ヒック」
「ほーら、言わんこっちゃない」

 ニックの兄であるキリオは次男で、長男とは双子だ。ニックとの間に3男のビートがいるので、年齢は少々離れている。
 そんな真面目で、あまり自分を甘やかしてくれない次兄キリオは、ニックにとって慕わしいが同時に苦手な存在でもあった。そのせいか涙がとまらない。
 横で後頭部に腕を組んで歩くロスマンの、呆れたような声にも言い返すことが出来ないでいた。




 その後、彼らの父親であるロネーニ商会長のダランも交えて、状況確認が行われ、その報告は当然ながらラステリノーア公爵にも共有された。

 しでかした本人は泣くばかりであったが、遠目とは言え見てしまった事について、どうしたものかと公爵家の方は頭を抱える。
 正直謝罪されたとて、その出来事も記憶も、無かったことにはできない。
 しかも本人は『銀色のキラキラ』としか言っていないと言っているが、子供の記憶だ、どこまで正確かわかったものではないのだ。
 『銀色』は百歩譲っても良い、しかし『キラキラ』はまずいのだ。輝きを放つそれは、誰しもに精霊の愛し子を連想させる。
 そして精霊の愛し子を欲するものは多い。何しろ精霊の恩寵を受けられるのだ。愛し子を通じて、ではあるが。


 結果、子供ら2名、そして話を聞いてしまった父親と兄であるキリオも含めて、神殿で忘却の施術を受けることになった。
 横暴だと思われるかもしれない。
 しかしエリューシアがどれほど膨大な魔力を現時点で既に有していると言っても、それをまだ使いこなすに至っていない。自分で自分の身を守れないのだ。
 勿論公爵家として総力で守るつもりではあるが、万全を期すためにも、僅かな気がかりも放置する事は出来ない。
 閉じ込められて育つ娘を哀れに思いカーテンくらいと油断した結果だったが、これ以上の拡散を防ぐためにも必要な措置だった。

 当然、子供らに近づいてきた怪しい人物についても捜査されたが、コレと言った特徴もない『平民にしか見えない、だけど、それらしからぬ酒臭くて小汚い男』というだけでは、追い切る事は出来なかった。

 この件は最初、ラステリノーア公爵アーネストと、その妻セシリア、後一部の使用人だけに留められたが、後日、やはり本人も知っておいた方が良いだろうと、エリューシア、そしてアイシアにも共有された。



 アイシアは何処までも隠され、息苦しい生活を余儀なくされる妹に、涙を一筋流したが、気遣われるエリューシアの方はと言うと、冷酷かつ忌々しそうな表情を一瞬だけ浮かべたと言う。




しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...