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2章 気付けなかったフラグ
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しおりを挟むそれもそのはずだ。
何しろその子供達、ニックとロスマンというのは、エリューシア…いや、真珠深にとって、リアル面識はなくとも八つ裂きにしても足りない相手であったからだ。
(くっそ……もう攻略対象が近くにいるなんて聞いてないって言うのよ……あぁ、もうほんと、どうしてくれようかしら)
攻略対象:ゲーム内では平民の商人枠、ニック・ロネーニ。
オレンジ色のボサ髪に茶瞳で、ちょっぴりアホの子だが、明るく綺麗なもの好き。
攻略対象:ゲーム内では義兄枠、ロスマン・コナード。
ダークブラウンの短髪に右横髪が一房だけ朱色が印象的で、水色の瞳を持つ。
ラステリノーア公爵家とは遠縁で、ゲーム内では家を継ぐために養子としてやって来た。すぐに調子に乗って偉そうに振る舞う。
どちらもあまりオツムの出来が良いとは言えないので、色々と妨害阻止は可能だと思うが、こうも早く回避不可能になるのは想定外だった。
まぁ『回避不可能』でも『撃退抹消可能』であれば、それで良いのだが、まだこの物語の強制力については不明な為不安が残る。
父アーネストを見るに、強制力はないか、あっても極弱いものだと思うのだが、過信は禁物だろう。
それに人物配置も、ゲームとは異なる部分があるようだ。
アイシア付きの専属メイドは、リアルではヘルガ・バーネットという少女が予定されているのだが、ゲーム内では違う人物で、モモナ・ウジワークというドジっ娘になっていた。
現実でウジワーク男爵家が存在している事は確認できている。その辺余念はない。誰か、褒めてくれても良いのよ?
しかしモモナと言う名前の娘も縁者も居ないのだ。まぁいなくて良かったと心底思った。もし居ようものなら、早々に偽造捏造を行使してでも、アイシアの傍に近づけなかっただろう。
ちなみにヘルガ・バーネットはエリューシア付きメイドの一人であるオルガの姉で、ラステリノーア公爵家メイド長のナタリアの娘でもある。
父母から一連の話を聞いた後、彼らが揃って神殿で忘却の施術を受けた事も聞かされた。
エリューシア自身、自分にそんな価値があるとはどうしても思えないのだが、精霊の愛し子が齎す恩恵は、有形無形問わず計り知れないのだと言う。
だが、それもエリューシアに言わせれば『そう言われてると言うだけの御伽噺というか迷信に過ぎない』と一刀両断だ。
何しろ自分に全く恩恵を感じない。5歳の誕生日を迎えるまではヒッキー確定だし、何より大好きなアイシアにとって、自分は足枷とも言える存在でしかない。
見たいのは、望むのはアイシアの笑顔だけ。エリューシアにとって譲ることが出来ない部分なのに、そこを損なう存在でしかない自分が、本当に泣ける。
(ま、そんな事言っても始まらないんだけどね……)
話を聞いた後自室に戻り、何時ものように小机でエルルノート(記憶他を日本語で書き記したエリューシア秘蔵の、あの分厚い鍵付きのノート…というか、最早本の事だ)を開き、ペンを器用にくるりくるりと回す。
お行儀が悪いのはわかっているが、今は誰の目もないのだから良いだろう。
(とりあえず分かる事……その不審人物よね…一体誰なんだろう、男だと言ってたしシモーヌではありえない。それに後にシモーヌを養女として引き取った貴族家の事って、ゲーム内ではそれほど描かれてなかったのよね。
何たってシモーヌのフルネームさえ書かれてた記憶ないのよ…『とある下位貴族に引き取られた』ってだけで。
そう考えると、あのゲームってかなり、いえ、とんでもなく手抜き? 攻略対象達の名前も姓が不明とか、普通に居たもの……ロスマンやニックは商会名が出てきたからわかってたけど)
回していたペンの先を中空に向けて止め、視線を虚ろに上げる。その間、左手の指先は机をトントンと規則的に叩くという社畜時代の癖が出た。
行動が既に幼女ではない。
(何にせよニックについては、今できる事は何もなさそうね。ロスマンについては、このまま私もお母様も無事なら、養子縁組の話は出ないと思うけど……いや、念には念を入れるべきかしら? あそこの商品って魔石だったわよね、使用人達に少し聞き込んでみると言うのはアリかも)
ペンを置き、エルルノートを施錠してから引き出しに戻す。椅子を飛び降りて歩き出せば、他よりほんの少しだけ大き目の光のオーブが近づいてきた。
最近は精霊の光球、オーブも見慣れたが、一番エリューシアに纏わりついてくるのは、今もすぐ近くで明滅する桜色のオーブだ。
―――ドコ、イク?
【外に行ったりしないから大丈夫】
―――ソッカ、ナライイワ
ちゃんと言葉として耳や脳に届いているわけではないのだが、意思の疎通は出来ている気はしている……多分。いつかもっとちゃんと話したりできれば良いが、焦った所でどうしようもない。
桜色の光球を筆頭に、幾つかの精霊オーブを引き連れて廊下を進めば、ネイサンが前からやってきた。
彼は執事長ハスレーの孫で執事見習いとして勤めている。流石ハスレーの孫と言われるくらいに優秀な少年、いや、そろそろ青年と言っても良いかもしれない。
「エリューシアお嬢様、どうなさいましたか? ご用でしたらお呼び下さればすぐ参じましたのに」
身を屈めて優しい笑顔を向けてくれるネイサンを見上げて、微かに口角を上げるに留めた笑みを返す。
「ネイサンなら知ってる…かしら」
「お嬢様?」
「商会の子供達の話は聞いている?」
エリューシアに問われ、すぐに思い至ったのか『あぁ』と若干苦いものが混じった表情を浮かべる。
感情が顔に現れる所がまだまだだと、ハスレーにはよく言われているようだが、対外的にできているのであれば問題ないのではないだろうか。
まぁ、その辺りは今は置いておくとして。
「はい、聞いております」
「そう、それじゃその子供達の事って、ネイサンはわかる?」
「わかるか、と申しますと?」
「ん……そう、例えば人柄とか」
ふむと小さく唸って、ネイサンが自身の顎に右手指を添えた。
「そうですね、商会長達でしたら直接言葉を交わした事もございますが、子供達となると……」
まぁそれも道理だ。身分に拘らず、商会の労働力として連れて来られる子供と、貴族家の上級使用人が話す機会等、普通はないだろう。
「そう、変な事を聞いてごめんなさい」
「ですが、御年の割には教育は少々不十分な印象を受けますね」
「え?」
「父君であるダラン殿やオッソ殿が話をしている際にも、落ち着いて聞いていられないようでした」
「まぁ……それは二人共?」
「はい、どちらも、でしたね。ですがどちらの御子息も跡継ぎではないようですし、今後それほど関わる機会があるとは思えません。
お嬢様方は勿論、私共にも近づく機会もないでしょう。ですのでエリューシアお嬢様を悩ませる事態になる事等ありえないと思いますので、ご安心を」
柔らかく安心させるような笑みを浮かべるネイサンに、仕事の手を止めさせた事を謝り、御礼を言ってから自室の方へ踵を返す。
(ふぅん、そう。どっちも印象は悪いって事ね。
となれば今の所養子縁組の話が出る事はないと思って大丈夫かしら。まぁ万が一出たとしても、そう言う部分をつつけば簡単に壊せそうだから、これも一旦放置で良さそうね。
それにしても……ニックは平民だからまだしも、ロスマンって下位とは言え貴族で、しかも微かとは言え、うちと縁続きでもあると言うのに……情けない事。
でも良かったわ。あんな奴『御義兄様』だなんて死んでも呼びたくないもの)
ふふんと酷薄な笑みを隠す事もなく、エリューシアは自室へと足取り軽く戻って行った。
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