【完結済】悪役令嬢の妹様

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4章 小さな世界に集いしモノ

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「こちらが成績上位者の使用する校舎になります。元々ここにあった職員用の施設棟だったんですが、無駄に豪華なだけでなく、広すぎて段々使われなくなっていった建物です。
 まぁその辺は後程、別の職員から説明を受けるでしょう。
 私は当院からの要請で、式典参加を見合わせて下さった公爵家御令嬢の案内をしに来ただけです」

 現在校舎として使用中の建物の奥、教職員施設のある区画を抜けて更に奥へ行った先にある別棟が、これからエリューシア達成績上位者が使用する校舎となるようだ。
 無駄に豪華で無駄に広いという言葉の通り、校舎と言うより貴族の別荘か何かかと疑いたくなる外観だ。
 大きくて重厚な観音開きの扉を抜ければ、これまた広いホールになっていて、床は大理石か何かだろうか、足を踏み出すごとにカツンカツーンと、ホラー映画さながらに足音が響き渡る。今は建物内にエリューシア達以外いないから尚更だろう。

「ここが1年生がメインで使う教室になります。
 式典が終われば貴方の同級生となる者達もきますので、後の詳しい案内はその時の担当に任せるとしましょう。
 最前列、一番奥の机が貴方の席となりますので、そちらでどうぞお待ちください」

 ここまで案内して、席まで教えてくれたのは助かるが、こういう仕事って仮にも副学院長のする事ではないと思う。
 式典で誰もが忙しいのかもしれないが、案内程度なら事務員(事務員と言うのが適切な言葉かどうかわからないが)とかでも十分だったはずだ。

「お忙しいでしょうに、ありがとうございました。………その、不躾で申し訳ないのですが、お尋ねしたい事が……宜しいでしょうか?」

 ベーンゼーン副学院長は『はて?』と目を丸くするが、直ぐに頷いてくれた。

「勿論。私が答えられる事なら」
「私は確かに学院の方からの要請で式典参加は見合わせました。ですがベーンゼーン副学院長先生御自ら案内していただくほどの事ではないと考えます。
 何か理由があったのでしょうか?」

 問いかけて暫く無言が続くが、ふと副学院長が優しく微笑んだ。

「いやはや、王弟殿下御夫妻の言葉通りですか」

 その言葉に無言で見つめ、次の言葉を待つ。

「悪い言葉ではありませんよ。
 ただ学院への梃入れを内申なさったのが貴方だと聞かされました。貴方からの文で抜き打ち視察を行ったとも…」
「……………」
「……………」

 沈黙に先に降参したのは副学院長の方だ。

「本当に7歳とは思えませんな。
 ふむ…ラステリノーア公爵令嬢、ここは王立で私は『副』学院長でしかありません。どうぞ御留意下さい。
 ですが何かありましたら些細な事でも構いません、御報告下さい。私も王弟殿下御夫妻も、貴方様の敵ではございません。まぁ、何の力もありませんが…。あぁ、それはそれとして、副学院長など舌を嚙みそうでしょう? 名で呼んでいただいて構いませんよ。では」

 エリューシアの返答を待つことなく、ベーンゼーン副学院長…お許しが出たのでビリオー先生と呼ばせて頂く事にしよう…先生はひらりと手を軽く一振りしてから去って行った。
 何故ビリオー先生遺自ら案内を申し出てくれたのかは、わからないままだったが…。


 じっとビリオー先生が去って行った方を見据えたまま動かないエリューシアに、オルガが心配そうに声をかける。

「エリューシアお嬢様……?」
「ぁ……ぃぇ、何でもないわ。私達は席について待っていましょう。セヴァンとサネーラもありがとう。後は教室で待つだけだから先に帰っててくれて大丈夫よ」

 二人が一礼して去って行く背中を見送り、ビリオー先生に言われた席に腰を下ろす。最前列の一番奥…窓際の席だ。
 ここでしまったと気付いたが後の祭りだ。席を教えて貰ったのはエリューシアだけではないか……しかし席は決められているようで勝手に座っているわけにもいかないだろう。そんなエリューシアの葛藤を知ってか知らずか、オルガもメルリナも、黙って立ったまま控えてくれている。
 無駄に広い教室内に机が10個置かれているだけの寒々しさが、余計に強調されている気がした。

 エリューシアは席に着いたまま、空間収納へ手を伸ばして鞄を取り出す。
 今はオルガとメルリナだけなので収納を使っても問題ないが、他の生徒や教師が来たら流石にまずいので、前もって出しておくことにしたのだ。



 静かだ―――

 オルガとメルリナは、エリューシアの視界に入らない位置でじっと控えてくれているので、静寂が静寂のまま流れる。
 まだ式典の最中という事もあり、人の気配がない静かな場所は、思考の海に沈むのにも丁度良い。

(とうとう学院か………
 私が生きてこの学院に通った時間線ってあったのかしら……考えても仕方ないか、今は私は生きて通う事になっているのだから。

 とは言え不安は残ってるわよね……結局シモーヌ達は見失ったままだし、私が辺境領へ避難してた間に公爵領や家族に何かあったって話も聞いてない。
 諦めた? そうなら助かる…私の事もお姉様の事も放っておいてくれるなら、それが一番だもの。
 なんて、ね……断罪の時を越えないと安心なんてできない、出来る訳ない)

 2年前、一方的に覗き見たシモーヌ…名前がわからないからゲーム内デフォルト名で呼ばせてもらうけど、彼女のあの目……昏い、負の感情に覆いつくされたかのような、尋常じゃないあの目。あんな目をした人物が、そう簡単に諦めてくれるとは思えない。
 勿論私を狙ったのがただの成り行きなら、その可能性もあるけど……もし転生者ならシナリオ通りに進めようと足掻いてくるかもしれない)

 ハッと自嘲を含んだ溜息を密やかに吐く。

 何の情報もなく、単に不安だというだけで自分をすり減らしてどうするのだ。
 どんなに不安になろうが、どんなに焦ろうが、結局なる様にしかならない。

 思った以上に精神も思考も身体に引っ張られているのは、これまでも感じてて、後から思えばなんて稚拙なと頭を抱えたくなるような事なんて数え上げたらきりがない。
 学院区分についてもそうだ。どうしたって通るはずのない提案で……だけど、もしやり直せたとしても、きっと同じような事しかできないだろうとも思う。

(そう、まだシモーヌがどう動くのか何もわからないし、攻略対……って、忘れてた…そう、攻略対象がいるじゃん!!
 シモーヌと王家対策、そして自己鍛錬ばかりに気を取られてて、他の攻略対象については……あぁ、あれよ、ロスマンとニックは早々に退場となったから、完全に気が緩んでたわ)

 ロスマンはエリューシアが死亡し、アイシアが馬鹿リスの婚約者となってしまったが為に、後継として養子に迎える事で絡んでくるのだが、現状養子に迎える可能性はなし、ゼロだゼロ!
 ニックに至っては、学院が平民に門戸を未だに閉ざしているので、こちらも直接関与する可能性はほぼない。

 まぁどちらも商人の家だし、買い物なんかで関わる事もあるかもしれないけど、単なる商品売買の関わりだけなら問題はないはず。
 シモーヌ本人とも何処かで関わるというなら、こっちに悪影響がない範囲で勝手にやってくれて構わない。

 薄情かもしれないが、エリューシアは自分とアイシア、父母、そして使用人達、直接関わる者達に影響がないならそれだけで良いのだ。
 攻略対象が不幸になろうが、シモーヌが不幸になろうがどうでも良い。



 そう思っていたのだが………





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