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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟むずっと警戒は怠っていなかったつもりだが、やはり出来る事には限界がある。
貴族として生まれ、神の加護を持ち、前世の記憶と言うアドバンテージがあっても、まだ7歳の子供でしかない。
情報一つ得るのも容易ではないのだなと、再認識する。
「えぇ、是非聞かせて。メルリナ達は朝食は何処でとってるの?」
それこそ前世感覚で言えば、使用人とか関係なく、皆で一緒に食べたほうが手間がかからなくて済むと思うのだが、そうもいかない。
面倒だし、納得がいかない部分もあるが、これもこの世界のルールの一つだ。
聞けば厨房横に使用人用の食堂があるらしい。
「じゃあ頃合いを見てそちらに伺っても良いかしら?」
何気なくそう訊ねれば、大慌てで止められた。
つくづく面倒臭いが仕方ない。談話室ででも寛いでてくれと頼まれた。
そういえばクラスメイトの名前もよく覚えていないから、オルガにも来てくれるように伝言を頼む。
アイシアは……アイシアにあまりこういう事件の話は聞かせたくない。もし声をかけるにしても、誘拐事件の話が終わってからの方が良いだろう。
メルリナと別れ、食堂へ向かえば既にアイシアが席についていた。
今朝のアイシアの装いは、淡いパステルグリーンのくるぶし辺りまで長さのあるワンピース。裾部分には重すぎない程度のフリルがあしらわれ、更に同色の糸で花模様の刺繍が細かく施されている。
髪はサイドを白のリボンで軽く纏めるにとどめられており、動きに合わせて流した後ろ髪がさらりと揺れるのが、とても可愛らしい。
シアお姉様、本日の眼福、ありがとうございます。
ヘルガ、グッジョブ!
会話を楽しみつつ朝食を平穏に終えたあと、アイシアは一旦自室に戻るという。
どうやらまだ眠い様で、少し休憩した後少し眠るつもりだそうだ。昨夜は何故か少し遅くなったようで、睡眠不足である事は確かなのだろうが、今朝もパンを少しと果物しか食べていなかったから、それも良くないのだろう。もう少しバランスよく食べて貰える工夫が必要だ。
何はともあれ眠そうなアイシアが、ヘルガに付き添われて自室へ戻って行く背中を見送り、オルガにも朝食をとってくるように勧め、自分は談話室でお茶をしていると、扉がノックされた。
続く声はメルリナのモノだったので、入室して貰い、向かいのソファに座る様に促す。最初は主と同席するのは等と渋っていたが、話し難いと言えば、諦めて腰掛けてくれた。
「昨日はお疲れ様、昨日はあまり話せなかったけど、通常棟はどんな感じ?」
まずは軽めに。
「それはお嬢様の方ですよ。何だか面倒そうな女子生徒が居たんですって?」
反対に問われて、誰だっけと一瞬考え込む。あぁと思い至るが、面倒そうではあるか対処は可能だろう。彼の天使クンことグラストン令息を避ければ良いだけだ。
何にせよ、シモーヌに比べれば、誰でも苦笑で留めることが出来る。
「まぁ、いた、かしらね……それで、誘拐っていうのは?」
「あ、そう、それです。えっとですね。王都で子供、特に見目が良いと評判だった女の子の誘拐が、1年前辺りからちょくちょくあるそうなんですよ」
1年前というとエリューシアは辺境伯家に避難していた時期だ。
前にも話したかもしれないが、人攫い、それも見目の良い子供となると悲しいかな珍しい事ではない。
奴隷そのものはこの国では法に触れるものではない。ただし誘拐した場合は奴隷商やそれに関わった者達の方が罰せられる。だが、それでも後を絶たないのだ。
それに王都にも貧民街は当然のようにあるので、そういう裏社会の者が幅を利かせる土壌は既に存在済み。
「誘拐となると、やはり奴隷商が裏取引してるとかそっちの話?」
「それはどうかわかりませんが、昨日話が出たのは、昨日同じように入学した子爵令嬢が攫われかけたという話で」
なるほど、貴族令嬢が攫われるという話も、嘆かわしいことながら皆無ではない。こちらは奴隷商に売るというより身代金目的の場合が多い。
「そう、じゃあ当人の話なの?」
「ですです。攫われかけた本人の話なんですけど、ここ1か月ほど、貴族の子女が攫われそうになる事案が幾つかあったみたいです。1年位前から誘拐が増えたらしいんですが、最初は貧民や平民だったそうです。だけど徐々に下位貴族の令嬢狙いも増えてた様で、ここ1カ月ほどは下位貴族令嬢が主に被害にあってるみたいなんですよ」
うん、とりあえず王都では誘拐が増えているというのは分かった。
下位とは言え貴族ならば金を持っているだろうというのは、平民や貧民からしたら当然の感覚だろう。内情はどうあれ。
となれば、本当に、心底、腹立たしいし情けないし悲しい話だが、特別珍しい事でもないのだ。勿論あってはならない事なのは重々承知だが……これは、一旦聞いたままの話をして貰う方が良さそうだ。
「メルリナ、その話、昨日どう聞いたの?」
「誘拐の話ですか?」
「そう、聞いた通りに話してみてくれる?」
「えっとですね。昨日席が近くになったチョセタ子爵家の令嬢が話してくれたんですが、彼女数日前に買い物してたんだそうです。で、着いてきてくれた護衛が支払いをしている間に先に店外に出たんだって言ってました。
そうしたら後ろから口をふさがれて、何か嗅がされて気が遠くなったみたいなんですが、護衛が気づいて助かったそうです。
犯人は結局捕まえられなかったらしいんですけど、みすぼらしい身なりの男だったという話です。髪と髭がすごくて人相もわからず…だけどオレンジ色の瞳だけ凄く印象に残ったって」
(!!………オレンジ色の瞳ですって!? でも男性のようだし……いえ、決めつけてはいけないわね。まずはこのまま話を聞きましょう)
「だけど彼女ったら、その時凄く苦い様な甘い様な変な臭いを付けられたって憤慨してましたよ。『そっち!?』って思いません? まぁ、暫く取れなかったって言ってたから不快だったんでしょうけど。ただ他の誘拐未遂事件の被害者も、同じような臭害に見舞われてたとか…彼女の護衛騎士が、後で王都の警備兵から聞いてきたんだそうです」
(苦い様な甘い様な臭いか……想像するに睡眠効果を持つ薬か何かだと思うけど、これまでの知識にはないものだわ)
「で、そうそう、そんな話をしてると他の子女たちも寄ってきて、色々と話してくれたんですが、1年前くらいから増えた誘拐被害者からもそんな臭いがしたとかっていう話があるらしくて。ただクロッシーとは違って殺されてた子もいるとか……王都ってやばいですよ。そんなのがうろついてるなんて。
お嬢様は絶対に一人で行動したりしないで下さいよ?
ぁ、クロッシーっていうのが、その誘拐未遂事件の当人です。クロッシー・チョセタ子爵令嬢。結構可愛い顔してました」
うん、最後の情報はどうでも良いかな。いや、どうでも良くないか。
とりあえず纏めると1年位前から王都では誘拐が未遂も含めて増加。徐々に狙いが貴族子女に移ってきた可能性あり。そして被害者は生還、死亡、共に『苦い様な甘い様な悪臭』という共通点がある。
直近の被害者であるクロッシー・チョセタ子爵令嬢は辛うじて難を逃れたが、それ以外は……。
「そのチョセタ子爵令嬢以外の被害者って、皆生還していないの? 身代金とか何らかの要求はなかった?」
「生還者は居るって聞きましたけど、昨日話せたのはクロッシー嬢だけです。
あと身代金の要求はなかったみたいですよ。その辺りは警備兵とかに聞いてみないとはっきりとわかりませんが」
(ふむ……ここまでの話では不明点も多いし決めつけるのは良くないけど、何だろう、こう背筋がぞくぞくするような落ち着かなさがあるわね。だけど私が誘拐されかけた時には破落戸が結構な人数いたから、やっぱり違うのかな…だけどオレンジの瞳……か、うぅん…)
「ぁ、犯人はその一人なの?」
思い出したようにエリューシアが訊ねれば、メルリナは少し視線を中空に泳がせる。
「どう言ってたっけ……あぁ、クロッシー嬢の時は一人だったみたいですけど、二人の時もあるとか何とか…そんな風に言ってましたね」
一旦区別して考えた方が良いかと、エリューシアは視線を足元に落とした。
(でも、身代金に限らず要求がないなら、単なる誘拐とは異なると考えなければいけないかもしれない)
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