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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む魔法の教育について、特に各家での幼少時教育が難しいという話をしたが、ひっくり返せば余裕のある家ならば教育は可能という事だ。金銭的な余裕があれば一流の魔法教師を雇える。
そして王家は一応余裕がある……本当にあるかどうかは分からないが、表向き余裕がある事になっている。
つまり、クリス王子こと馬鹿リスは魔法基礎は終えてしまっていた。
総合的には凡庸……モノによっては底辺なくせに、魔法はそれなりだったようで、小試験も難なくクリアしたらしい。
となれば……当然ごねる。
成績順だというなら、自分も魔法に関しては上位だと……。
結果、魔法の実技に関してだけは、普段のクラス分けではなく、魔法だけをみた成績で分けられることになった。
アイシアの安全の為に何年も前から手を回したというのに、この結果である。
実力と差のある教育環境はおススメ出来ないというのは分かるが、そこは人間性も加味して欲しかった。
(折角馬鹿リス一派とは距離を保ったまま過ごせると思っていたのに……早々にコレとか…でもまぁ、ビリオー先生も言ってたものね。敵ではないが何の力もないのだと。副学院長でしかないのだと……確かここの学院長の名前って王家になってたっけね、つまりはそういう事……はぁ、どうしようもない事を悩んでいても先には進まないわ。魔法実技の間だけは、私がシアお姉様に何としても張り付いて居れば良いのよ)
小試験の結果そのものは早々に出たが、馬鹿リス王子殿下の横暴炸裂で午前中は自習となり、先程前述のような結果が伝えられた。とは言えあくまで魔法実技の授業に関してだけの特例であり、それ以外について…他の授業は勿論、例えば上位棟で使用できる設備や出入りについて等は、これまでを順守となった。
そして今は入学以来初の昼食タイムである。
昼食は通常棟のメルリナも一緒に取ろうと話していたので、上位棟の脇にある小さな花壇前で待ち合わせをしている。
色々と鉢合わせをしないよう、人の出入りの殆どない奥まった温室で昼食を摂る予定なのだ。
「お嬢様ぁー! お待たせしましたー!」
メルリナが駆けて来る。目指す温室は上位棟に近いので、必然メルリアが一番遠くなってしまうのだ。
「メルリナ、騒々しいですよ」
「ごめんって」
「ふふ、それじゃ行きましょうか」
オルガに窘められるメルリナの様子に、アイシアがふわりと笑う。
エリューシアは3人の後ろからついて行きながら考えて頷く。
(シアお姉様が至高なのは当然として、黒髪に深紅の瞳のオルガも、榛色の髪に青い瞳のメルリナも、かなりな美少女なのよね。
これって控えめに言っても極楽天上高天原って感じじゃないですか。素晴らしい。いやぁ、眼福眼福)
「そう言えばお昼ってオルガが持ってきてるの? 私預かってないんだけど……オルガ手ぶらだよね?」
足を止めてメルリナが問いかける。
それにすかさず答えたのは、後ろについていたエリューシアだ。
「大丈夫。私が持ってきてるわ」
「え……エリューシアお嬢様、それって……ちょっとオルガ、何してんのよ」
「返す言葉もありません……今日はエリューシアお嬢様に抜かれてしまいました」
その会話にアイシアが困ったように眉尻を下げて微笑んだ。
「エルル、オルガを困らせてはだめよ。それに人目もあるのだから…ね?」
お昼の場所を寂れた温室にしようと決まったのは自習時間の時で、それまでは待ち合わせの場所しか決まっていなかったのだ。
何処で食べるか決まらず、うろうろする事になる可能性も考えて、先にエリューシアが収納に入れておいたのだが、アイシアの表情を曇らせるのは本意ではない。
それにそう言われるのも仕方ないという事は理解している。収納もかなり希少な魔法である為、それが使えるとなれば、王家が囲い込もうとしてくるかもしれないからだ。
「はい、今日だけにします」
しゅんと萎れて返事をすれば、アイシアがそっと頭を撫でてくれる。
「わかっているわ。あちこち歩くことになるかもしれなかったからよね? エルルは優しい子ね」
ぁ、ヤバい、ナデナデ嬉しい! 鼻血出そう! と、慌てて顔を手で覆ったりしている間に、目的の寂れた温室が見えてきた。
ここまでくる間に人影は一つもなく、どうやらなかなかの穴場のようだ。
そっと温室の扉を開けば、中は放置されているわけではなく、誰かがそれなりに管理しているようだ。ただ管理しているのは庭師などその道のプロではなく、この学院の職員か学生と言った所だろうか…。それと言うのも、多くの貴族が好むような華美な種ではなく野草が殆どで、見栄えなどは全く考慮されていないように感じられるからだ。
「へぇ、なんか放置はされてないけど、庭と言うより……畑?」
「そうね、野草……もしかしたら薬草の類かもしれないわ」
メルリナの呟きに、エリューシアが通路沿いに咲く小さな花々を眺めながら答える。
それらを眺めながらそう言えば選択授業をどうするのか悩んでいた事を思い出した。
扉を潜った所で足を止め、ぐるりと周囲を見回せば、奥の方に大きな机とベンチがあるのが見えた。
「あそこに座れる場所があるみたい」
エリューシアが指さしながら先頭に立って進み、見えた机に近づくと、ボソボソとした話し声が聞こえてきた。
「……れで? 式典後に行って帰ってきたという訳?」
「えぇ、善は急げと言いますでしょう?」
「全く……やる気のなかった君がここまで変わるとはね」
「フフ まぁ良いじゃないですか」
話声は二人分。どちらも男子生徒だろう…というか一人はグラストン公爵令息の声だ。
(あぁ、これは別の場所に行った方が良いかもしれません)
自分から面倒事に首を突っ込む趣味はない。
そっとアイシアとオルガに目配せして、早々に撤退しようとしていたのに……。
「あらら、先客がいるっぽい?」
メルリナが声を出してしまった。
その声に奥の少年二人がエリューシア達の方へ顔を向ける。
気づかれた少女4人と気づいた少年二人の態度は対照的だった。
少女の方は上位棟の3人は困ったように眉間の皺を深くし、もう一人…メルリナだが、彼女は3人の様子に狼狽えている。
少年の方は、クリストファは天使の微笑みを浮かべ、もう一人の少年は分かりやすく目を丸くしている。
「エリューシア嬢達もお昼? 良かったらこっちに来ない? 椅子もテーブルも全員分くらいあるから」
「どうやってここを見つけたんだ……」
ここで回れ右!戦略的撤退を選択したいのは山々だが、どうしたものかと顔を見合わせる。
アイシアも珍しく苦虫を噛み潰したような顔をしているし、オルガも双眸が半眼になっているので、ここは遠慮しようと後ろから声を出そうとしたのだが、それより早くメルリナが話し始めてしまった。
「えっと、良いんですか? あんまり人が来ない場所探して来たんですけど、お邪魔じゃないなら」
あぁ…とメルリナ以外の少女3人は、同時に額に手を当て天を仰いだ。
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