【完結済】悪役令嬢の妹様

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4章 小さな世界に集いしモノ

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「(はぁ、こうなってしまっては仕方ないわ……)」
「(……はぁ)」
「………」

 クリストファが示した席にささっと近づいていくメルリナに、3人は諦めたようにガックリを肩を落とし、渋々後に続いた。
 クリストファの隣にいた黒髪の少年がベンチから立ち上がり、横に置かれていた椅子を2つ持ってきてテーブルを挟んで対面になる場所に置くと、少年2人は椅子の方に座り直し、エリューシア達の方へベンチを譲ってくれる。
 終始しおしおと萎れて俯いているエリューシアは、オルガに半ばエスコートされて少年達から一番遠い場所に腰を下ろした。

 一応念の為ちらりとフラネアの姿を探す。
 彼女の機嫌を損ねたい訳ではないので、できればクリストファと関わらないようにと思っていたが、仕方なく関わってしまった以上、せめてフラネアの目に入らないようにと見回してしまったのだ。
 その様子に気付いたクリストファが、ククっと口元に軽く指の背を添えて吹き出した。笑われたエリューシアの方は更に俯いてむぅと唸るしかない。

「大丈夫。ここには僕達だけだよ。マークも居ない」

 何を……というか誰を不安に思っていたのかバレていて、思わず頬が熱くなる。

「それより君たちはどうやってここを見つけた?」

 黒髪の男子生徒が訊ねてきた。タイの色が上級生、3年生の色だ。

「私とそっちのオルガが同僚に教えて貰ったんです」

 屈託なくあっさりと返事するメルリナに、オルガがちらりと一瞬だけ視線を送る。

「同僚ね…」
「騎士のロベールさんって言うんですけど、ここの卒業生だって聞い「はぁ!!??」て…え?」

 黒髪の少年の方が、メルリナの言葉に割り込むように突然大きな声をあげ、椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「騎士のロベールって……まさか…ロベール・メフレリエじゃ…ない、よな?」
「そう! そのロベール・メフレリエさんですよ!」
「はぁ……犯人は兄貴かよ…」

「「「「ぇ?」」」」

 一瞬の沈黙の後、エリューシア達は揃って小さく声を漏らした。
 『兄貴』と言っているから、黒髪の少年はロベールの弟にあたるのだろう。まさか公爵家騎士団の身内とこんな所で出会うと思っても居なかった。

 中でもエリューシアは顔色まで心なしか悪く見えるほどだ。

(噓でしょ……ロベールの弟ということはメフレリエ侯爵家の者って事で、その上黒髪に緑の瞳って…しかも3年という事はシアお姉様より2つ年上という事で………あぁ、確定じゃないの。まさかこんな形で……ギリアン・メフレリエ…攻略対象その6で、かなりな難関キャラだった記憶があるわ。カーティス程ではなかったかもだけど。

 だけど、待って待って……何で今? だっておかしいでしょ? ギリアンと出会うのってまだ……お、落ち着いて私……同じ学院に在籍してるのだもの、時期が違ったとしても出くわすのはおかしな事じゃない。
 ただ心の準備が出来てなかっただけで……んん、でも、ギリアンって馬鹿リス王子の側近だったはず。
 グラストン公爵令息…あぁ、もう一々舌噛みそう。もうグラストン様で良いわ…名前に『クリス』と付いてて、そう呼ばれているし、もしかして攻略対象ってこっち? とも思ったのは確か…だけど色味他、爵位も違うからバルクリス王子の方が攻略対象かと思い直したのだけど……ん~、バルクリス王子ではなく、やっぱりグラストン様の方が攻略対象だったって事?

 となるとフラネア様は悪役令嬢ポジ? ぁ、ないわ……だっていま目の敵にされてるのってシモーヌじゃなくて私。私はヒロインじゃない、それは確定だもの。だけど可能性はない訳じゃない……?。

 うぅん…どうしたものかしら。確かギリアンって攻略対象の中では、マシな方ではあったのよね。一応シアお姉様に迷惑かけてる、無茶振りしてるっていう自覚がほんのりとは書かれていたから…ま、何の擁護にもならないけれど。
 どのみち攻略対象の事も調べないといけないって思ってたわけだし、だったら少しでもマシと思える相手の方が……うぐ、ないわ……マシってだけでシアお姉様を不幸にした輩には違いないんだもの、絶対許せる相手じゃない……だけど、そっか、そうよね……面影が、見えなくは……ない、か)

 攻略対象の内の一人だと分かり血の気が引きかけていたが、目の前の生意気そうな少年の顔に、真っ白な世界で声を聞くことになった一人の女性幽霊を思い出していた。


 ―――アマリア

 最初は一言『お帰り』と言う言葉が聞こえただけだった。
 次の機会は、自分の姿を見たショックで意識を失った時に訪れた。
 そして直近である魔力枯渇で昏倒した時。
 真っ白な空間では声しか聞こえず、印象は若そうな女性だなと言うだけで、まさか亡霊だとは思っていなかった。
 当然姿は見えなかったが、色々と話すうちに家名を聞き、心当たりがあった為に調べたのだ。

 ―――メフレリエ

 彼女の名前はアマリア・メフレリエというのだそうだ。
 ラステリノーア公爵家の抱える騎士団にメフレリエ侯爵家の次男がいる事を覚えていて、機会があれば彼の話を聞きたいと思っていた。
 しかし誘拐未遂事件の後、魔力枯渇で昏睡に陥りそこでアマリアの家名を知ったものの、目覚めた時には3か月ほど経過していた為衰弱が酷く、とても話が出来る状態ではなかった。しかも収まらない騒ぎのせいでそのまま辺境へ避難し、その辺境から直接転移で学院の邸にやってきたエリューシアは、ロベール・メフレリエとは全く話す事が出来ないままでいた。

 そんな状況だったが、避難中でも辺境伯一家にそれとなく訊ねたり、書物で調べる事程度なら出来た。光魔法を始めとした各種魔法の鍛錬、基礎、教養、医薬、錬金等々の勉強の合間を見つけて細々と地道な捜査(言ってみたかったのよ!)を続けているうちに、アマリアの小さな姿絵を見つけたのだ。
 250年ほど過去の人で、詳しい事は分からなかったが、消息不明になっていたらしい。
 黒髪に緑の瞳が美しい女性だった。目の前にいる生意気そうな少年に、どことなくその面影を見つけることが出来る。

「エリューシア嬢、大丈夫?」

 クリストファが心配そうに表情を曇らせて、椅子から立ち上がってテーブル越しにエリューシアを覗き込んだ。

「な!?」

 その途端ギリアンの方も、何かに大きく反応した。
 そちらは兎も角、心配してくれているらしいクリストファを放置するのも忍びなく、こくりと頷いて顔を上げた。

「ちょ……本当だったのか」
「ギリアン煩い」
「煩い言うな! お前が立って影になったおかげで見えたんだから仕方ないだろう!?」
「いや、訳が分からないよ…」
「彼女!」

 そういってギリアンが興奮気味にエリューシアを指さした。
 途端にオルガとメルリナが立ち上がり、アイシアがエリューシアを抱き締めた。そんな少女側だけでなく、クリストファも表情を沈み込ませ身構えたのだが、興奮したギリアンはそれに気づいていない。

「マジかよ、精霊姫がいるって話は聞いてたんだけど、ありえないって思ってたんだ!」

 ギリアンの言葉に、自分が原因だったと気付いたクリストファが、ピクリと小さく震えて身を固くした。
 温室に差し込む光のせいで髪の発光に気付かず、俯いていたせいで精霊眼も見えていなかったのに、クリストファが立ち上がって光を遮ってしまった事で、エリューシアが精霊の愛し子だと気付かれてしまった。
 本人が隠したりしていないのだから当然の事とは言え、そのせいで、ギリアンがこんな興奮状態になってしまったのだ。

「ご、ごめん…」
「本当に髪が光ってるんだ…しかもさっきまで俯いてただろ? それに精霊眼なんて実在してたんだな!
 なぁ、君、よかったら調べさせてくれないか? 精霊って御伽噺の中にしか存在しないって思ってたんだよな。あ、別に血をくれとかは言わなッ、ンガッ!!??」

 言い終る前に身を固くしていたクリストファが我に返り、目を微かに眇めたかと思うと次の瞬間にはギリアンが地面に押さえ込まれていた。






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