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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む入学から暫く経ち学院内が落ち着き始めた頃、ようやく座学ではない魔法の授業が始まる。
バルクリス王子殿下がごねた事で、魔法の実技授業については普段の面子ではなくなる為、調整に時間がかかってしまったようだ。
学院側としても初の試みで、色々と手探りになって時間がかかるのも仕方ない事と言える。
そして現在、的として置かれた人形へそれぞれが得意な魔法を放ってみるという、一番最初のサキュール先生の指示に、またしてもごねる者の姿があった。
「だからどうしてバル様が他の者達と一緒なんですの!? バル様は王族ですのよ! 魔力量も彼らとは桁違いなんですから専用の場所が必要です!! こんなのおかしいわ!」
ギャンギャンと煩く騒いでいる女子生徒の名はチャコット・メッシング。攻略対象ハロルド・メッシングの双子の姉だそうだ。
魔法実技では一緒になったメルリナ曰く、バルクリス王子に姉弟で常にべったりと張り付いているらしい。そこにバルクリス王子の乳母の娘というマミカ・ハナヴァータッケ男爵令嬢が加わり、鉄壁の布陣を敷いているのだそうだ。
何と言うか……フラネアと言い、このチャコットと言い、周囲がドン引きしている事に何故気付かないのか不思議でならない。
とは言えこのままでは授業も何もあった物ではない。
他の生徒はと言うと、サキュール先生に噛みつくチャコットに、冷めた視線を遠巻きに送るばかりだ。
(仕方ない……どうすれば黙らせられるかしらね…ここは一発ドデカい花火と洒落込んだ方が良いかもしれない)
小さく溜息を交えながら、困惑顔のサキュール先生に声をかけようとした所で、後ろの方からどこか嘲りを含んだ少女の声がする。
「まったく……。
伯爵家では礼儀作法も習いませんの?」
「な! カリアンティ…」
前に進み出てきたのは淡い金茶の髪をふんわりと巻いた黄緑色の瞳の少女で、名をカリアンティ・ゼムイストと言う。ゼムイスト侯爵家の第2令嬢で、確かバルクリス王子の幼馴染の一人だったはずだ。
「殿下も腰巾着の躾くらいなさってください」
「カリアンティ!!」
顔を真っ赤にして睨むチャコットの隣でバルクリスがふっと笑う。
くすんで茶色がかった色合いだがしっかり金髪と言える髪色に、ピンクの瞳という『マジない』の攻略対象クリス王子の容姿そのままの人物がそこに立っていた。
腕を組み厨ニがかったポーズで立つその姿は、数年後には黒歴史を嘆く嵌めになるのではと心配してしまう程、羞恥と哀愁を誘う。
「カティ、君は相変わらず厳しいね。
幼い頃はあんなに可愛かったのに」
「まぁ、それはそれは大変申し訳ございませんわ。ですが殿下に『可愛い』とか、寒イボが止まりませんのでやめて貰えます? 更に言うなら殿下に愛称で呼ばれるほど親しくなかった自信しかありませんのよ? そちらも是非止めて頂ければ嬉しいですわ」
「カリアンティ! いい加減にしなさいよ!!」
空気を読まないバルクリスの言葉に、カリアンティは大げさに自分の腕をさすりながら答えれば、チャコットが更に沸騰した。
「で? 別扱いにしろと言うのは王族だから? それともそこまで自信がおありなのかしら?」
「どちらもに決まってるでしょ!!」
「って、何故メッシング嬢が返事をするのか理解に苦しみますけど……ふぅむ、どちらも…ねぇ。
じゃあちゃんと証明して下さる? 最初に言われた通り、学院内で地位を振りかざすのはとても見られた姿ではありませんわ。ですから、別枠にしろと言うならその実力をお見せくださいな」
「わざわざバル様が出るまでもないわ! 私がカリアンティを打ちのめしてあげるから!」
自分が出るまでもなさそうな光景に、ふと笑みが零れる。
だが、勝手に進める生徒達に、担当教師であるサキュールが止めない訳にはいかない。
「ゼムイスト嬢、メッシング嬢、どちらも引きなさい。何をしようとしているのかわかりませんが、力比べをという事でしたら許可する事は出来ません」
カリアンティとチャコットの間に割って入ったサキュールを後目に、クリストファが声を発した。
「やりたいようにやらせてみれば良いのでは?
周囲に危険が及ばないように元々結界が張られている場所ですし、ね?」
何故か最後にエリューシアの方へ笑顔を向けるクリストファに、エリューシアは眉間の皺をやや深めて嘆息する。
サキュールの方はと言うと、止めてくれと言いたげな視線をエリューシアとアイシアに送ってきているのもあって、渋々だが返事をすることに決めた。
「ここで止めても禍根は残り、また何か切っ掛けがあれば吹き出してしまうでしょう。だったら先にぶつかり合わせるのもひとつの手かと思います。
勿論取り返しのつかないような事態になる事は避けなければなりませんが、後程先生に非はなかった事は私達が証言します」
エリューシアが何処か突き放したように冷ややかに言うと、アイシアはほんの少し眉根を寄せる。
「エルルには笑顔が似合いますのに……ぁら、失礼しました。
そう……ですわね。ゼムイスト侯爵家第2令嬢と言えば、宮廷魔法士として名高い御父君に匹敵すると言われていると聞き及んでいます。メッシング伯爵家御令嬢の力量は存じ上げませんが、悪いようにはなさいませんでしょう」
こちらも何処かズレた返答をするアイシアに、サキュール先生はがっくりと項垂れた。
「どうぞ、何時でもかかっていらっしゃると良いわ」
「カリアンティ…アンタって……アンタってほんと気にくわないのよ」
「あら奇遇ね、ワタシもよ。だけど大人しくしてくれていればそれで良かったのに、ギャンギャンギャンギャンと……煩いったらないんですもの」
カリアンティが言い終らないうちにチャコットが両手の間に火の球を作り出す。
ほぼ同時にカリアンティが右手の人差し指の先に風を纏わせた。
「ふん! 風魔法じゃ私の敵にはなんないわ!」
「さぁ、どうかしらね」
この世界で魔法と言えば主に属性魔法を指す。
光や闇、時空間等はかなり希少だ。中には最早御伽噺としか思われない、所謂伝説級とも言える魔法も存在する。
そして以前話したことがある様に主に使われる属性魔法だが、相性のようなものが存在しており、それに照らし合わせるなら火魔法は風魔法に強いと言われている。各属性を単純に相性だけで判ずるなら、概ね『火>風>氷>土>雷>水』と言われており、最後の水は火に強いとされている。
ただ、これは単なる属性の相性と言うだけで、使う魔法の種類や力加減で如何様にもひっくり返る。
チャコットの両手の間で作り出された火の球は、その大きさを倍ほどに膨れ上がらせた。渦を巻く火の勢いもそれにつれて激しくなり、今にも球と言う形を崩してしまいそうな程になっている。
その火の球を頭上に掲げ、更に魔力を込めた。
「いっけぇぇえええぇ!!」
チャコットの手から放たれた火球は、尾を引いて真っすぐカリアンティに襲い掛かった。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
寒イボ
方言になりますが、字面から察して頂けるかもしれません。
寒い時に肌が粟立つ様子を指します。あえて鳥肌と言わずに、子供っぽく、通じないかもしれない言い方をカリアンティは選択しました。
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