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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む「ズモンタ様、貴方は勘違いなさっているわ」
自分の感情を爆発させないように自分を抑え込んでいたエリューシアを、いつの間にか近づいてきていたアイシアが抱き締める。
そしてゆっくりと顔をフラネアの方へ向けて口を開いた。
「勘違い!? ハン!! 勘違いなんてどこにあるっていうのよ!! 大体そこのお子様が入学できたのも家の力なんでしょ!! 横暴ってアンタたちの為にあるような言葉よね!!」
落ち着かせるように背中を軽く撫でてくれるアイシアの手に、エリューシアはほぅっと小さな深呼吸をする。
今にもはち切れそうに膨れ上がっていた感情は、収まらず消えもしないが、それでもほんの少しだけ凪いだ。おかげで教室内を見回す余裕が出来る。
(あぁ、オルガは……あれは激怒してる表情だわ、さっきまで爆発しかけてた私がいう事じゃないけど…どうか爆発しませんように。
シャニーヌさんとポクルさんは…あぁ、もう目が零れそうに固まってるわね。
バナン様は……何故そんなにワクワクしてますって顔なのかしら…。
ツデイトン様は相変わらずの我関せずっぷり、いっそ清々しいわ。
ボーデリー様は…彼はどうしてズモンタ嬢の暴挙を止めないのかしら…確かに学院は身分でどうこうというのはないとは言うけど、無視して良いとも言ってないのに。幼馴染ってそんなに大切なものなのかしら? 私にはわからないわね。
それにしても意外なのはクリストファ様ね。彼自身は幼馴染どころか友人としてさえも認めてないように言ってたけど、少なくとも知り合いではあるのよね? なのにどうして止めないのかしら……彼女だけじゃなく彼女の家にも影響しかねないのに)
「学院は貴族籍があり、入学に支障のない学力があれば入学を認めるとあるだけで、強制でもないし、年齢も何も規定はありません。
それは何故だか知っていますよね?」
「……ぇ?」
抱き締められたままの態勢だと、アイシアのほうが背が高く見上げるしかなくなるのだが、見間違いだろうか? アイシアの目がすっと眇められた気がした。
「まぁ、そんな事もご存じない? それで貴族失格だのなんだのと騒いでいらっしゃったの?」
「「「「「………」」」」」
意外だが学院の成り立ちを知っている者の方が少ないという事だろうか? 首を捻ってる者がちらほら見受けられる。
「エルル、貴方は答えられる?」
なんだかわからないが、アイシアに振られたのなら全力で答えて見せようではないか!
「ここリッテルセン王国は資源に乏しい国です。各産業も最低ではないが最高にもなれない。
しかし魔物が多く徘徊する魔の森と接する部分が広く、各辺境伯家を筆頭に国境近くの軍備は強力で、そう言う面では安全と言える国でした。
資源に乏しく、売りとなる目ぼしい産業もない我が国は、この安全性を外交のカードとして利用できないかと考えました。
最高ではないが最低でもないという事が、図らずも国内の安定に一役買っており、他国が内乱や戦争で荒れる事が多い中、そこだけはこの国が自慢できることだったので、各国から王族はじめ要人の子息子女を安全に預かることが出来ると宣伝したことが切っ掛けです。
子息子女を預かるなら学院と言う形が良いと決まり、そこから整備されました。
最初に外交ありきの政策だったため、入学規定は緩やかなものになったと聞いています」
「えぇ、そうね。
つまり入学部分で制約を設ける訳にはいかなかったのです。だから入学年齢も規定されていません。貴族籍があれば……と言う部分については、開院当初よりかなり緩和された箇所になると思いますが」
アイシアはエリューシアからフラネアの方に顔を向け直す。
「どの国も多かれ少なかれ内乱の種を抱え、国家間の緊張が増す中、子息子女の安全が保障されると言うのは、何物にも代えがたい事だったようで、開院して暫くすると、他国の王侯貴族の子息子女で溢れ返ったと聞き及んでいます。
そう言った面から年齢制限や学力制限は設けることが出来なったと、わかりますよね?
妹が学院に入学出来たのは、単に入学に見合うだけの学力があったからに他ならず、家の力は…王家は知りませんが、公爵家といえど忖度はされません。その必要がないからです。
学院入学卒業したからといって自慢になるとは聞かされていませんでしょう?
一時は反対に問題のある子息子女の、隔離に良いとか言われた時期があったのを御存じない? はっきり言えば義務でもないし、ステータスにもならない。
そんな無駄な事に家の力を使う必要がありますか?
なのに現状貴族子息子女がこぞって入学するのは、人脈作りのための良い場となっているからです。
今年度からは学力もきちんと見られることになりましたが、以前は入学と卒業時以外の試験もなかったのですよ」
アイシアが言い聞かせるようにゆっくりと話していたが、フラネアは言葉が重ねられるたびに怒りで表情を歪ませていった。
「……だ…だから何よ!! そんなの家の力が及んでない証拠になんかならないでしょ!!」
「なると思うけれど」
口を開いたのはクリストファだった。
「僕の兄は入学試験に落ちた。情けない事にね。
だけど父は笑っていたらしいよ。学院に行かずとも家で最高の家庭教師をつけるからと。
王弟の血筋でこれだからね。家の力が反映されていないという証左になると思う。
下位貴族にはどうかわからないけれど、少なくとも高位貴族は学院を重要視してないんじゃないかな。年齢の近い者が集まるわけだし、友人を探したり、人脈を広げるのには良い場だと思うけれど。
この学院の評価が変わるとしたら、今年から少しずつ…じゃない?」
お手上げと言わんばかりに肩を竦めて両手をおどけてあげるクリストファだが、その目は全く笑っていない。
冷ややかにフラネアを睨みつけていた。
「そんな……そんなの知らないわ!! だってお父様もお母様も言ってたもの!! 学院で良い成績を取れれば、クリス様だって見直してくれるって!! だから……だから、そんなの嘘よ!! 全部、全部そこの女が悪いのよ!!」
隣で狼狽えていたマークリスが止める間もなく、フラネアはエリューシアとアイシアに掴みかかる。
(ちょ!? えええぇぇぇええぇぇぇええええええ!!??
さっきの話聞いてなかったの!? 私話したよね? 反撃されるよって言ったよね!!??
折角抑え込めたのに、これじゃ何の意味も……)
まさか貴族令嬢が飛び掛かるだなんて誰も思わず、咄嗟に身体が動かない。
「アンタさえいなくなってくれたら良いのよ!!」
叫びながら掴みかかろうとしたフラネアの身体は、エリューシアの身体に到達することない。
パアァァアアァァァァンン!!!!
甲高い音と激しい閃光に全員が感覚を焼かれる中、フラネアの身体はなす術もなく弾き飛ばされた。
彼女の身体は飛ばされながら並んでいた机を薙ぎ倒し、一瞬で教室の壁に激突する。
ダンッッ!!!
衝撃の激しさを物語る様に、弾き飛ばされたフラネアの身体を受け止めた壁には同心円状のひびが入っていた。
どれほどの時間が経ったのか…いや、恐らく一瞬の出来事で、時間なんて殆ど経っていないはずなのに、全員の時間まで凍り付いたような錯覚に陥る。
ゆっくりとフラネアの弛緩した身体が、重力に引かれるようにドサリと床に頽れた。
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