【完結済】悪役令嬢の妹様

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4章 小さな世界に集いしモノ

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 昼食時になり、メルリナはカリアンティに声をかけられた。

 主であるエリューシアが誘拐の事等を気にしていた事もあり、今日は通常棟のクラスメイトからの昼食の誘いに乗ろうと決めて、まずはいつもの花壇脇に向かいその旨を告げた。
 話せばエリューシア達は笑顔で了承してくれたので、そのまま通常棟へ戻る。

「お待たせ~」
「大丈夫、そんなに待ってないって」
「じゃあどこで食べる?」
「食堂には行きたくありませんわね」
「あ~あそこは占拠されてますから…じゃあ中庭なんてどうです?」

 メルリナが掛けた声に返事をしたのはミリアーヌ・ガボット伯爵家第1令嬢だ。
 食事の場所をどうするか訪ねたのはヤスミン・メメッタス伯爵家第1令嬢。ずっと以前、水害の影響の為に兄スコット、代官であるゴネール元子爵とその子息バベンと共にラステリノーア公爵家を訪れた少女である。
 そのヤスミンに答えたのはメルリナを誘ったカリアンティ・ゼムイスト侯爵家第2令嬢。
 最後に中庭を提案したのはクロッシー・チョセタ子爵家第3令嬢…誘拐未遂事件の被害者である。

 5人全員が手にお弁当箱の入ったポーチやバスケットを手に中庭の方へ移動する。
 普段エリューシア達と待ち合わせに使っている花壇脇の場所とは全く違う方向で、メルリナは初めて通る道をキョロキョロと見回していた。

「メルリナ様ってば、こっちの方へ来るのは初めて?」

 そんな様子に気付いたミリアーヌが声をかける。

「こっちには来たことがなかったから、つい」

 てへへと肩を竦めて苦笑して見せれば、クロッシーが頷いた。

「他の皆さんは食堂かサロンに行くみたいですもんね」
「サロンはまだしも、食堂は食べた気がするのか怪しいのではありません?」
「あ~、そうね。王子殿下御一行が居座ってらっしゃるもんね」
「どうせなら食堂ではなく、彼らこそがサロンにでも籠って下さればいいと思いますわ。本当に迷惑な事」
「カティってば辛辣」

 最後にカリアンティに笑ったのはメルリナだ。

 中庭に近づけば、色とりどりの春の花々が美しく咲いていた。
 もう少し暖かくなれば、食堂やサロンで昼食をとっている面々も中庭に訪れるかもしれない。そのくらい広がる光景は美しかった。

「思ったより手入れされてますのね」

 カリアンティもちょっぴり目を瞠っている。

「あ、あそこにあるガゼボなんてどう? テーブルもあるし、丁度良さそうに見えるんだけど」

 ミリアーヌが中庭の少し奥まった所にある小ぶりの四阿を指さしている。
 見れば他に人影もなく、適度に影になっているのもポイントが高い。

「いい感じです!」

 言うが早いか、クロッシーが駆け出した。
 きちんと手入れされているのか、使い込まれていて少し古いデザインのテーブルなどの設備には汚れ等もない。
 テーブルにそれぞれポーチやバスケットを置き、中に入っているお弁当を取り出す。クロッシーもヤスミンもとても可愛いお弁当箱だ。
 エリューシアがこの場に居れば、やっぱり日本製のゲームだなと呟いた事だろう。
 ミリアーヌのそれはデザインは少々野暮ったいが魔具らしく、果物等の鮮度を保ったまま持ってこれるのだと言う。
 メルリナは自分の手にあるポーチをじっと見つめた。
 ここでは学生であるが、普段は騎士としての任もあるメルリナは結構食べる。
 それを知っているエリューシア達と温室で昼食だった今までは気にする事もなかったが、それを知らない、しかもこんなに『女の子』しているメンバーに囲まれて、急に恥ずかしくなってしまったのだ。

「どうなさいましたの? 早く食べましょう」

 メルリナに問いかけておきながら、カリアンティは自分のバスケットの方に顔を向けたまま、次々取り出している。それはもう、言葉をかけられた事にハッと顔を上げ向けたメルリナがポカンとする程に。

「……カティ…それ…」
「あ? あぁ、これでもまだ遠慮してる方ですのよ? スィーツなんかもっと持ってきたいのですけど、お姉様たちが必死に止めて来るんですの。酷いと思いません?」
「そっか」

 何故かにこやかなメルリナにカリアンティは一瞬首を傾げるが、再びバスケットから取り出す作業に戻る。
 言うまでもないがカリアンティのバスケットはマジックバッグとしての機能があるものだろう。取り出されたお弁当は、何人分かと一頻り問い詰めたくなる量だ。
 それにあくまで優雅に手を伸ばすカリアンティに、メルリナも自分のお弁当を広げた。



「そういえば聞きました?」
「何をですの?」

 食べ始めて少しした頃合いで、ミリアーヌが話を切り出せば、カリアンティが小首を傾げる。

「今日、朝からフラネア様がやらかしたらしいんですよ」
「やらかしたって、何?」

 ミリアーヌの返事に食いついたのはヤスミンだ。

「あらあら、とうとうですの? ここまでよく持ち堪えたと賞賛すべきかしら」
「カティ様ったら、でもそれには同意よ」
「確かにね~。彼女ったらいっつも文句ばっかりだったから、お母様が怒ってもう呼ばないって言ってたくらいだし」

 カリアンティの言葉にヤスミン、ミリアーヌが同意する。

「で、何をやらかしたのよ?」
「それが公爵令嬢に掴みかかったんですって」
「「はああああ!!??」」

 ヤスミンが先を促して出てきた言葉に、メルリナとカリアンティが同時に叫んだ。
 フラネアと言えば上位棟の新入生で、同年入学者に『公爵令嬢』というのはアイシアとエリューシアしかいない。
 つまりフラネアが事もあろうか掴みかかったのは、エリューシアかアイシアのどちらかという事だ。

「カティ様、メル様、びっくりするって…」

 ヤスミンが大げさに耳を塞いで笑うと、同じように耳を庇っていたクロッシーもクスリと笑った。

「ごめんなさい、それで?」
「あらあら、ごめんなさいね。それで?」

 メルリナとカリアンティ二人から同時に先を促され、ミリアーヌが苦笑交じりに話し出した。

「2年生から聞いた話なんだけど、ぐったりとしたフラネア様を抱えた先生が慌てて駆けて行ったらしいのよ。
 それで気になって聞いてみたら、教職員は教えてくれなかったらしいんだけど、事務方の人が口を滑らせてくれたみたいなのよね。

 なんか公爵令嬢に言い掛かりをつけた挙句、掴みかかって反撃されたらしいのよ」
「…………」

 ミリアーヌの話にメルリナの目が剣呑に座る。

「……フ…フフ…………フハハハハ!! ざまぁございませんわね!!」

 肩を震わせていたのは、笑いを堪える為だったらしいカリアンティが、盛大に笑った。

「ズモンタ様ってそう言えばいつも男子生徒と一緒でしたね。男子生徒の方は止めなかったのですか?」

 何時もマークリスと一緒に、クリストファにベッタリしていたのは結構有名な話になっていたのだろう。身分差もあり教室も違う為、あまり接点のなかったクロッシーだったのだが、思わず不思議そうに呟いた。

「あ~ボーデリー様だっけ、その辺はわからないんだけど…カリアンティ様は何か知ってる?」

 ミリアーヌの話を振られたカリアンティは、食べる手を止めて視線を上の方に流しつつ考える。

「そうですわね…ボーデリー様とは幼馴染でらっしゃるのは有名な話ですわ。何でも御父君同士が親しくてらっしゃるとかで…ですがほら…ズモンタ家の方々ってあまり良い話は聞きませんでしょう? ボーデリー夫人は苦言を呈しているとかいないとか…その辺は噂でしかありませんけど」
「うん? フラネア様ってボーデリー令息狙いと言うより氷麗の天使様狙いだと思ってたわ」

 カリアンティの話にヤスミンが目を丸くした。

「ひょう、れいの天使って…何なのソレ」

 聞き覚えのない、かなり恥ずかしい称号に、メルリナが口を挟む。

「氷麗の天使とはグラストン公爵令息の事ですわね。
 あの方、何処でも誰に対してでも、ちらりとも表情を変えない事で有名ですのよ。笑顔なんて見た事がある方なんていらっしゃらないのではなくて? 氷のように無表情で、だけどとても麗しい御尊顔の天使と言う意味だそうよ」

 カリアンティから齎された衝撃の事実にメルリナが固まった。
 まさかそんな風に呼ばれてるなんて思いもしなかったのだ。温室での昼食時、件のクリストファはエリューシアに何時も蕩けそうな程優しげな表情を向けていて、呼び名と結びつかない。
 そんなメルリナの様子に気付いていないのか、ミリアーヌが再び話し出した。

「聞いた事あるわ。ま、それは横に置いてもらって…で、フラネア様は自邸に戻られたそうなのよ。で、そのまま自邸療養ですって」
「自邸療養と言うより自邸謹慎じゃないの?」
「あらまぁ、謹慎処分ですの? 生温い事を……って、失礼しましたわ。だけど、追って沙汰があるパターンなのではないかしらね」

 メルリナが固まって居て良かった。
 もし氷麗の天使が溶かされたとなれば、そちらの話題に全て持って行かれ、他の情報を仕入れる事はできなかったであろう。
 メルリナは図らずも良い行動をとっていたのだ。





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