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4章 小さな世界に集いしモノ
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しおりを挟む今朝に続き、午後一番の騒動で最早授業どころではなくなった。
その為午後からは休校となり、明日も休校となる事が決定している。そこから先は一応通常通りとなる予定だが、これもどうなるか未定と言った方が良い状況だ。
「………はぁ」
上位棟1年だけではなく、学院一斉休校なので通常棟のメルリナも程なく合流できるだろうが、待っている間、エリューシアは無意識に溜息を零していた。
今日朝からの出来事で、そのどちらもにエリューシアは関わる事となり、その場ではプチンとキレてアドレナリンドバドバ状態だったが、落ち着いてしまえば凹むなと言う方が無理というもの。
「エリューシアお嬢様のせいではございません」
「オルガの言う通りよ。エルルは巻き込まれただけなのだもの……溜息なんかつく必要ないわ」
オルガもアイシアも慰めてくれるが、頭ではわかっていても、身体と感情が疲弊してしまっている。
事の顛末を聞いたクラスメイト…マークリスと帰邸したフラネアを除いてだが…彼らも、気にするな、あっちが悪いと声をかけてくれた。
「…ありがとうございます……ただ立て続けだったので…」
エリューシアが力なく微笑めば、アイシアが痛ましそうな表情を浮かべてギュッと抱きしめてくれる。
「お父様お母様への報告は私の方でしておくから、エリューシアは帰ったら少し休みなさい」
「でも……」
「いいわね?」
「……はい」
そうしているうちにメルリナがやってきて、4人で帰路につく。途中、通常棟の様子を聞けばメルリナが吹き出すように笑いだした。
「いや~、もう先生から話を聞かされた時には、教室内がどよめきましたよ。とうとうやっちゃったか~ってな感じで」
「そうなの? 仮にも王子なんだし信奉者だっているでしょう?」
下位貴族が多くなってしまった通常棟だからこそ、王家に無条件で阿る家が多いと思っていたエリューシアは首を傾げた。
「信奉者なんていませんよ。だってあの馬鹿王子とその取り巻きは、クラス全員から煙たがられてましたからね。最初は擦り寄って行く者もいましたけど、それも数日だけでしたよ」
「では警戒すべきは上級生だけで良さそうですか?」
メルリナの言葉にオルガが訊ねる。
「う? あ~信奉者って意味ではそうかな。上級生の中には実情を知らないから、王家を担ぐ輩は居るかもしれないですね」
「実情……そんなに酷かったのですか?」
メルリナが片眉を顰めて記憶を捻り出し返事をすれば、『実情』と言う言葉が引っ掛かったのか、アイシアが怪訝な表情を浮かべた。
「酷いも何も…媚びを売ってきた生徒には貢物を寄越せとか言いだすし、授業中も一応教室内には居るものの、話は聞かずに取り巻きの馬鹿女侍らせてくっちゃべってるだけだし、気に入らない者には罵声を浴びせるなんてのも日常でした。
あぁ~それにちょっと可愛いって子にはボディタッチとか、やりたい放題してましたね。
まぁ馬鹿な子なんて掃いて捨てるほど通常棟には居ますけど、馬鹿王子は顔だけはそこそこ見られますから、喜んでた子達も居るには居ましたけど、最初の間だけでしたよ。
気に入ったとか言って触ったり、そのうち抱き寄せたりとかし始めて。最初はキャーキャー喜んでた者もそのうちあまりの横柄さに離れましたね。
まぁそんな子達の家は、ちゃんと控えて書き出してあるんで、後でそのメモ渡します」
「ぁ、うん…あり、がとう」
メルリナも周到すぎて、苦笑しか出てこない。
そうして邸に帰り着くと、借り上げ邸で執事を務めてくれているネイサン、メイドのノナリーとウルリカが出迎えてくれる。
昼食も終えてからの帰邸だったので、エリューシアとアイシアはそれぞれ自室へ向かった。
アイシアと部屋の前でわかれると、自室に入って鞄を置き、行儀が悪いとわかっているが、とりあえず横になりたくて制服のままベッドに突っ伏した。
「………ふぅ」
ゴロリと体制を変えて仰向けになり、額の上に手を載せ小さく息を吐いて、朝からの一連の騒動を思い返す。
フラネアの一件も、王子一行の件も、確かにエリューシアは巻き込まれただけだ。しかしどちらも沈黙を守り無視するなりしていれば、結果は違った可能性がある。特に王子一行の時には煽った自覚が無きにしも非ずなので、どうしても溜息が洩れてしまうのだ。
(フラネア嬢も馬鹿リス一行も、思わぬ形ではあったけどある意味排除できてしまった……どちらも退学にはならないかもしれないけど、当面は謹慎と言う停学状態で顔を合わせる事もない。
特に攻略対象である馬鹿リスと脳筋ハロルドを排除できたのは大きいわ。いつまで謹慎しててくれるのかわからないけど、暫くは少し気が抜けるわね……まぁ油断しすぎないように気を付けないといけないけど……。
後、ボーデリー令息が不安要素ではあるけれど、どう転ぶかわからない事を悩んだ所でどうしようもない。
わかってはいるんだけど、やっぱり身体も心も重くてだるいな)
そっと瞼を閉じ、やって来るだろう睡魔に身を任せようとしたが一向にやってこない。身体も心も疲れ切ってる感じがあるのに、妙に目が冴えてしまって、パッと目を開いて起き上がった。
こういう時はゴロゴロしていても眠れないし、身体も休まらない。
ベッドから降りて制服を脱ぐ。ちょっと皺になってしまったが、目立つ場所でもないし、見なかった事にして吊るしておいた。
制服の下に着ていたワンピースも脱いで、質素なものに着替える。
疲れているのに眠気が訪れない理由に心当たりがあったのだ。
(あの病気の子供…あの子の同居人が心配してないか、ちゃんと置手紙の内容が伝わっているか、多分それが気になってるんだわ)
特製カツラと同じく特製瓶底眼鏡を装着し、クローゼットの隅から黒いローブを取り出した。こちらは制服のローブと違って足元まですっぽりと覆う程長い。
それに袖を通し、フードもしっかりと被れば、顔も殆ど見えないはずだ。
あの、いつ壊れてもおかしくない家屋の周辺は、人の気配が殆どなく誰かに見られる可能性も少ないから、転移で行く事が可能だろう。
オルガに声を掛けても良いが、一人の方が転移で行きやすい。勿論オルガが居ても問題なく転移は出来るが、やはり消費魔力はどうしても増えてしまうのだ。
何より今は気分的に一人になりたかった。
安全面は、図らずも今日の一連の騒動で立証されたようなものだし、護衛はなくても大丈夫だろう。
そして次の瞬間には姿が掻き消え、部屋には誰も居なくなった。
音もなく出た場所は、子供が居た建物から少し遠く、過日アーネストらと共に来た雑貨屋から一筋離れた所だった。
念の為人の気配を探るが、丁度建物の裏側同士が向かい合っているような場所で、辺りを見回しても窓もない壁が続いており、窓や隙間から目撃された可能性もほぼない。
カツラと眼鏡の装着具合を確認し、フードを引っ張って今一度深く被り直してから歩き出す。
雑貨屋の入り口側の通りに出る所で立ち止まり、人がいないことを確認して再び歩き出すが、丁度曲がり角の扉が開き、中から出てきた誰かとぶつかってしまいそうになった。辛うじて避けられたことにホッとして気が緩んだのか声が漏れてしまう。
「ぁ……」
思わず『ごめんなさい』と続きかけたが、こんな場所でこれ以上声を聞かれるのも良くないと考え、口をきゅっと引き結び、軽く会釈をして通り過ぎようとした瞬間、反対に声をかけられた。
「待って……どうしてこんな所に…」
思いがけない人物の声に、エリューシアは思わず振り返っていた。
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